259:黒こげの襲撃者
「あそこがそうみたいだな」
「そうみたいですね」
密林の中を歩くこと暫く。
俺たちの前に黒焦げになるほどに焼かれて骨だけになった死体と、奇妙な骨格の生物が焼かれて骨だけになった跡が見つかった。
「これはまた分かり易いっすね。ここで木々の吹き飛ばしが終わっているっす」
「と同時に、この場所を中心に周囲へ向かって破壊が広がっています。間違いなくここが狙撃ポイントの一つかと」
俺たちが今居るこの場所から、狙撃を受けた場所までの間にあった木々は強力なブラスターmodによって破壊され、貫通あるいはなぎ倒されている。
そのため、密林の中に出来た道のようになっていて、この場所を見つけることは難しくなかった。
「……。ヴィー様、ミドル層底部カメラを監視している機械知性から連絡がありました。発射の瞬間から前後一分ほどを捉えた映像との事です」
「ありがとうございます。メモ、関係者全員に共有を」
「かしこまりました」
さて、此処で何が起きたのかだが……現場に残っているものから検証する必要はないようだな。
俺はメモクシから情報端末へと送られてきた映像を確認する。
なるほど、ヴィリジアニラに向かって素早く巨大で狙撃専用のブラスターmodを構え、発射し、俺の腕によって防がれた事が確定すると同時に自殺用modが発動。
死体とブラスターは燃えて、骨格以外の証拠を確保できないようにしたわけか。
それにしても……。
「単発使い切りみたいだが、生体ブラスターで軍用のグレード8相当かつ狙撃仕様か……これだけでもかなり特殊だな。出所さえ見つけ出せれば、それだけで誰が指示したのかまで分かりそうだ」
「そうですね。問題はミドル層からの監視が届かない場所で製造されていた場合でしょうか」
「どういう事っすか?」
「アンダー層はミドル層からの監視を受けていますが、その監視は完全なものではないという事です、ジョハリス様。地下や海底に誰かが密かに製造設備の類を作っている可能性は完全には否定できません」
なるほど、ミドル層から全てが持ち込まれたとは限らないのか。
長年にわたって少しずつ設備のパーツをアンダー層に持ち込み、秘密裏に製造設備を作り上げると言うのは、可能か否かで言えば可能なのだろうし。
となると、ブラスター本体だけでなく、射手である人造人間もアンダー層で製造されて、ここまでミドル層からの監視に触れないように自分で移動してきたと言うのもあり得るか。
とは言えだ。
「それならそれで、アンダー層のどこかに製造設備があるのだから、そこを調べれば色々と分かるはずだ。消臭系modを使われた痕跡も無いから、専門の部隊なら、この人造人間がどういうルートで此処まで移動してきたのかは分かると思う」
「そうですか。ならばそちらは軍に任せてしまえば良さそうですね」
ヴィリジアニラの視線が俺たちと一緒に来ている帝国軍の人の方へと向けられる。
帝星バニラシドのアンダー層で狙撃事件が起きたという事で、帝国軍は総力を挙げているに近い状態で動いている。
幾つもの部隊が入って来て、追跡専門のチームが幾つもあるようだから、これから逃げ切るのは俺のような転移持ちでもなければ無理だろう。
本来はアンダー層に対する汚染を懸念して、もう少し慎重に動くところではないかと思いもするが……。
たぶん、俺とヴィリジアニラ、帝国軍では握っている情報と優先度が違うのだろうな。
裏で今回の件に繋がっているような何かが見つかっているのかもしれない。
「……。飛行車両でこの周辺を一度見て回って……いえ、パワードスーツのサタに出てもらった方が早いかもしれませんね」
「ん? まあ、構わないが」
ヴィリジアニラは何か引っかかっているらしい。
この言い方だと、パワードスーツの基本的な制御を俺に回して、ヴィリジアニラの目が生かせるように小型のゲートを開き、見て回る事になりそうか。
と言うわけで、俺はゲートを開き、ヴィリジアニラ、メモクシ、ジョハリスの三人だけ温室へと移動。
それから今の俺を引っ込めて、パワードスーツの俺を出す。
そして、パワードスーツの顔の辺りに小型のゲートを作って、ヴィリジアニラの視線が外へと通るようにする。
「これがパワードスーツ型の……」
「ヴィリジアニラ様。サタ様。可能ならば、まずはこちらのルートに従って飛んでいただけますか」
「分かった」
離陸。
重力制御modの応用で密林の木々を超えると、視線をヴィリジアニラの指示通りに向けながら、ゆっくりと移動していく。
周囲には俺たちと同じように宙に浮かぶ車両が幾つもあるが、さて何か見つかる……。
「なるほど。あちらに洞窟がありますね。公式の地図にも載っていない違法なもののようです。となると、利用していたであろうエレベーターはあちらで……」
ああうん早い。
俺の目には密林の木々に阻まれて洞窟なんて見えていないのだが、ヴィリジアニラにはそんな事は関係ないようだ。
「サタ。恐らくですが相手はマガツキですね。責任者に自分を握らせ、所有させる事で、こちらへの攻撃を企てたのかと。何故狙ってきたのかについては……これからですね」
「なるほど」
マガツキか。
確かに一本、帝星バニラシドに入り込んでいると聞いているし、そのマガツキが何かを仕掛けてくることはおかしな話ではないな。
だがなぜ仕掛けてきたのかは分からない、と。
「一度ミドル層に戻りましょうか。この先は帝国軍に任せた方が早そうです」
「分かった」
俺は帝国軍人さんたちに断りを入れると、温室に繋がるゲートを閉じた上で、アンダー層に入る時に使ったエレベーターに向かって飛行を始めた。




