252:メッセージレイド
「うーん、やっぱりと言うか何と言うか、相手の急所に直結するような情報はないな」
「そうですね。ただ、そんなものがあれば、とっくの昔に誰かが対応していたはずですから、仕方がない事だとも思います」
諜報部隊の図書館で情報集めを始めてから数日が経った。
だが、二日目以降は特にこれと言った成果も無く、終わる事となった。
「明日からは私は帝星バニラシドのmod研究所に赴いて、設置式の『異水鏡』の調整に携わらないといけないし……時間切れかな?」
「ええ、一度切り上げましょう。そろそろ陛下とのお茶会で疲れたのでと言う言い訳も使えませんし、明日からは他にもやるべき事があるでしょうから」
「はぁー、諜報部隊の区画は正直に言って楽だったんすけど、これまでっすかぁ」
まあ、残念ながら時間切れだ。
明日からは、ミゼオン博士はmod研究所に行って、帝星バニラシドに呼ばれた理由である『異水鏡』のノイズ除去に関わる事になる。
ミゼオン博士の表情を見る限りでは、色々と重要な情報を得られたようなので、ノイズ除去は出来そうであるらしい。
なお、mod研究所の警備は俺たちが直接護衛するのと同じかそれ以上なので、俺たちがミゼオン博士を護衛するのも、ここで一度切り上げとなるようだ。
で、俺たちの方は……ヴィリジアニラ次第だな。
ヴィリジアニラがまだまだ調べたいと言うのなら、引き続き図書館で情報収集も出来るが、ヴィリジアニラの口ぶりからして、そう言うわけにもいかないようだ。
何かがあるらしい。
「む……またか」
「またですか」
「またっすか」
「またのようだね」
「またですか。ではサタ様」
「ああ、頼む。メモクシ」
それはそれとして。
今の俺には一つ困りごとがある。
それがこの情報端末に届いている大量のメールだ。
俺の書いた記事を経由して送られてくるこの大量のメールの中身は大別すると三種類。
一つは純粋な感想で、内容に関わらず素直に受け取っていいし、嬉しいもの。
一つはある意味依頼のメールで、ウチの店や商品を食べて、記事を書いてみないかと言うもの。
中には記事の感想を伴うものもあって、幾つかは時間を見つけて受けてみてもいいんじゃないかとも感じるものだ。
一つは実質スパムな勧誘のメール。
要約するとヴィリジアニラの事を捨ててウチに来いと言うお誘いであり、中には誘いに乗らなければどうなるのかを教えてやる的なものが含まれている。
ぶっちゃけ論外な連中なので、メモクシに頼んで機械的に処理してもらっている。
おかげでバニラゲンルート子爵家の一部が賑わっているとも聞くが……まあ、気にしないでおこう。
「はぁ……。これほどまでに自分が宇宙怪獣である事を煩わしく思ったことは無い」
「ロライラウソ男爵家、シャテポーン男爵家、デッスオカハ男爵家……この辺りは本当に論外ですね。厚顔無恥とすら言えます」
「凄いっすよね。襲撃の件抜きでも、どうしてこんな申し出の仕方で味方になってくれると思っているんすか?」
「もう暫くしたら静かになると思います。一網打尽にする準備は着々と進んでいますので」
さて、どうして突然こんなにメールが増えたのか。
簡単な話だ。
俺が宇宙怪獣であり、そんな俺が書いている記事があると言う情報が何処からか……恐らくはシンクゥビリムゾ王子の周囲から流れたのだ。
結果、その情報を手にしたものの中から、運よく繋がりを得る事が出来ればこれ幸いと、大量のメールを送られることになったわけである。
「うげっ」
「……。これなどはある意味で私に喧嘩を売っていますね」
「……。ああ、確かに喧嘩を売っているっすね」
「……。この方には鏡を叩きつけて差し上げるべきかもしれませんね」
なお、これらのメールの中で最悪なのは、男女の肉体関係を迫ってくるようなものである。
初手で浮気相手になりませんかとか、何を考えているんだいったい……。
ただただ不快な上に、暗にヴィリジアニラよりも私の方が魅力がありますよと言っているようなものだから、ヴィリジアニラの機嫌が目に見えて悪くなるから、本当に勘弁してもらいたい。
「サタ。サタはこの手のを煩わしく思っている、そうですね?」
「そうだな」
「そして、出来れば減らしたい」
「出来ればと言うか、可能な限りだな。こう言うのが来るせいで、必要なメールまで見逃していないかと不安になってくる」
「なるほど」
ヴィリジアニラが何かを考え始める。
そして、暫く経ったところで口を開く。
「メモ、皇室主催の婚活舞踏会が近々ありましたね」
「はいございます。日付としては……一週間後ですね。ヴィー様ならば一応は資格もありますので、招待状を手に入れる事は難しくないと思います」
「では手に入れてください。参加者用二枚、護衛用二枚で。私、サタ、メモ、ジョハリスの四人で行きましょう」
「かしこまりました」
婚活舞踏会ってなんだ?
いやまあ、この後に聞けば教えてくれるか。
「あ、全員着飾っていきますよ。下らない事を言ってくる連中をあらゆる意味で黙らせますから」
「ウチもっすか?」
「当然です」
「分かった」
「あ、サタは温室担当の方も準備しておいてくださいね」
「何故っ!?」
「言った通りです。あらゆる連中を黙らせます」
とりあえず、ヴィリジアニラには一切の容赦と言うか、加減をするつもりはないらしい。
その、何と言うか、責任者の方には今からでも詫び状を送った方が良いのではないだろうか。
サタは気づいていませんが、届いたメッセージの一部はヴィーの友人が居る家から届いている模様。
(本文中の分類で言うなら、前二種類ですね)




