241:垣間見える恐れるべき事態
「帝国の現在の領域拡大スピードは……」
「此処の星系の開拓状況は……」
「宇宙怪獣教の勢力が少しずつ増してきており……」
「教育方針の見直しをだな……」
時間は幾らでもある。
そんなチラリズム=コンプレークスの言葉をきっかけとしてか、皇帝陛下と創造主様はあれやこれやと話しまくっている。
たぶんだが、普段はそんなに時間を取れないか、創造主様の方が勝手に話を切り上げてしまうから、この機会にアレコレと話をしているのだろう。
そして、横で聞いていて、漏れ聞こえてくるだけでも……まあ、間違っても表に出せないような情報が流れ出てくる。
「『バニラOS』の展開、拡大、維持、どれもチラリズム=コンプレークス頼みなんですか」
「ええ。なので父上も主も現状を良しとせず、代替案を探っているところですね。とは言え、この世界独自の発展のためだとかで、主による直接的な解決策はNGですし、こういう質問の場でも直球の質問ははぐらかされますので、外枠を埋めるような質問で情報を探っているそうです」
ヤバい情報その1。
バニラ宇宙帝国の基盤と言ってもいい『バニラOS』だが、最初に作ったのがチラリズム=コンプレークスなら、今現在も拡大と維持のために必要な諸々の大半を頼っているらしい。
つまり、創造主様に何かがあったり、創造主様が人類に愛想を尽かしたら、その瞬間にバニラ宇宙帝国どころか、『バニラOS』が存在している事を前提として組み上げられてきた人類文明そのものの崩壊が見えてくることになる。
うーん、俺がチラリズム=コンプレークスの代わりをする事は……無理だな。
理論も理解しきれないし、出力が明らかに足りない。
たぶん、百年や二百年は研鑽に専念しないと駄目だ。
「宇宙怪獣教って割と由緒正しい宗教だったんですね」
「父上と主曰く、主と一般的な宇宙怪獣、その両方に接触した人間の一部が気が付いた結果だろう、との事です。とは言え、それは原初の頃かつ中枢部での話で、今となっては一般的な宗教の一つでしかありませんよ」
ヤバい情報その2。
宇宙怪獣教は割と由緒正しいと言うか、一部の信徒は色々と情報を握っているらしい。
聞けば、興りと言うか開祖の時点で、当時の皇族と少なからず関わりがあったそうで……この辺がバレると、場合によっては継承権問題とかにも発展するらしい。
なので、迂闊には出せない情報のようだ。
なお、先ほどから俺が話している相手は皇太子殿下である。
どうやら皇太子殿下も今の地位になってからチラリズム=コンプレークスと少なからず交渉をしているらしく、結構な量の情報を得ているらしい。
「成人資格証発行機関の役割が思っていた以上に大きい」
「私も試算してみて驚いたのですが、費用対効果が著しく高いのですよ。成人したか否かを認める機関が存在していると言うのは。少なくとも妙な連中が表立って群れる事を防げる。とは言え、それで得られる利益を考えると、主以外には現状は任せられないでしょう」
ヤバい情報その3。
帝国の司法や行政から独立した機関と思われていた成人資格証の発行機関だが、トップがチラリズム=コンプレークスという事で、実際には帝国とズブズブの関係である。
いやまあ、これについては薄々察してはいたけどな。
あまりにも影響力が強いし。
問題は、そのトップが文字通りの神であり、極めて放任主義ではあるものの、自分の目的を阻害するような本当に駄目な奴を意図的に選別して、弾いていたと言う事実だろうか。
今までは機械的にと言うか、傍目に見ても駄目だろうなと言う連中だけ弾いていると思っていたから、これが明らかになったら、色々と騒ぎになりそう……いや、ならないかもしれないな。
発行されない連中、マジでヤバい連中ばかりだし。
まあ、口は噤んでおこう。
「この世界の事をおおよそ全て把握しているとか、出来る事の規模が違い過ぎる」
「まったくです。主と関わっていると、我々帝国はまだ卵の殻すら破れていないのではないかと思わされるぐらいです。実際には卵の殻くらいは破れていると言ってもらえていますが」
ヤバい情報その4。
ある意味では当たり前なんだが、野生の宇宙怪獣含めて、この世界の戦力全てよりもチラリズム=コンプレークス一人の方が強いし、情報を持っているし、知覚能力も高い。
正に創造主であり、皇太子殿下のある種の諦めともとれる呟きには納得しかない。
ここまで次元が違うと、本人がどれほどまでにその気はないと言い続けても、見捨てられるのではないかとか、恐ろしい事をさせられるのではないかと言う畏れを抱かずにはいられない事だろう。
と言うか、マジで目的は何なんだ?
これほどの存在が何の目的も無しに動いている方が、よほど怖いんだが……。
「さて、そろそろ話を進めましょうか。幾らでも時間があるからと、無駄話をし続けているわけにはいきませんから」
「あ、はい」
「主、それに父上。本題をお願いいたします。何故サタを招いたのか、そしてサタと我々にどのような情報を与えるのか。そちらをお願いします」
「そうだな。そろそろいい感じに頭が空っぽになって来ただろうしな」
「む、そうだな」
と、どうやら本題に入るらしい。
俺は居住まいを正す。
そして、合わせてチラリズム=コンプレークスが口を開く。
「俺は現在、帝国を揺るがしている宇宙怪獣の突発的出現事件の犯人を知っている。そして、現生人類ではノーヒントでの此奴の捕捉と打倒は不可能であると判断した。だから情報を出させてもらう」
「感謝いたします」
その言葉はこれまでの飄々とした雰囲気が嘘のように、厳かな空気を伴って告げられた。
「敵の名はフナカ=コンプレークス。外の世界から偶然に迷い込んだ、俺の元部下だ」
そして、その言葉が意味するのは、敵もまた神と称される存在である、と言う事だった。




