240:ドストレート策謀 ※
本話はジョハリス視点となっております。
ご注意ください。
「そうか。ではこの場は一時皇后に任せて、朕はヒービィとサタを連れて離れるとしよう」
皇帝陛下のその言葉と共に、皇帝陛下、皇太子殿下、サタ、機械知性の女性、それから濃密な気配としか言いようのない何かがウチの近くから離れていく。
正直に言って助かったっすね。
サタとメモクシどころか、ヴィー様ですら気づいていなかったっぽいっすけど、この温室に入ってからずっと何かが居る感じがして、気が気じゃなかったすから。
此処で離れたって事は、たぶん目的はサタの方だったという事っす。
まあ、敵意は感じなかったから、サタなら大丈夫っすよね。
「さてヴィー。単刀直入に聞きます」
と言うわけで、ウチは目の前の状況への対処を優先するっす。
口火を切ったのは皇后殿下。
真剣な表情でヴィー様を見つめており、ヴィー様も真剣な表情で対面しているっす。
「貴方はサタの事をどう思っているのですか? 好いているのですか? 好いているとしたら、それはどういう意味でなのですか?」
ド直球でいったっすねぇ……。
対するヴィー様の返答は?
「好いています。伴侶にしたいと言う意味で」
「「「!?」」」
これまたド直球で返したっすねぇ……。
そして、ヴィー様の言葉を受けて、周囲に詰めている人員たちの一部に動揺が広がったっすね。
皇后殿下とヴィー様の母様や侍女たちが動揺していないのは……まあ、予想していたって事っすよね。
なお、ウチとメモクシとミゼオン博士にしてみれば周知の事実に近い話っすから、当然驚かないっす。
「ただですね。こういう話には相手の気持ちもありますし、外見から勘違いしそうになりますがサタはまだ社会経験が豊富とも言い難く、ここで私から積極的に詰め寄るのは色々と良くないと思っているところですので、下手な干渉はしないでいただきたいと言うところなのですが、皇后殿下」
「なるほど。慎重なのは良い事ですね。しかし、慎重すぎるのも機を逸する事になります。サタは成人資格を持っていますから、もうちょっと積極的に行っても問題はないと思いますよ。別に今の時代、一度や二度の離婚ぐらいは大した問題ではありませんし」
「問題でしょう。私にも立場と言うものがありますし、サタの能力を考えたら、不仲になるのも問題ですから。それに、サタの立場と性格を考えると余計な横やりを入れてくる連中への対策もない内にと言うのは……」
「横やり、ですか」
あ、皇后殿下とヴィー様の母様が微かにだけど笑ったっすね。
ついでにミゼオン博士もどうしてか笑っているっす。
これは……たぶん、やられたっすね。
「横やりについては今日のお茶会もあるので、どうとでもなると思いますよ」
「本当ですか?」
「ええ、本当です。サタの親御さんと言ってもいいミゼオン博士は此処に居て、ミゼオン博士はイセイミーツ子爵家と繋がりがある。となれば、サタとイセイミーツ子爵家の間にも縁があると言えますから、養子縁組の一つや二つぐらいは行っても問題はないでしょう?」
あ、はい。
これもう、裏でミゼオン博士、イセイミーツ子爵、皇后殿下で話し合いをして、必要な時はイセイミーツ子爵とサタが養子縁組を結ぶことを保護者レベルでは納得している状態っすね。
と言うか、この方向性を見出していたから、シンクゥビリムゾ王子によるミゼオン博士への干渉を皇帝陛下たちは止めなかったとか、そんなところっすか。
うーん、人造人間と一般家庭の養子縁組は……まあ、事情次第ではない事もないし、貴族は家同士の繋がりとか必要と聞いているっすから、別におかしな事でもないっすか。
それ以上に敵の策すら平然と利用して、自分たちの利益に繋げてしまうところに帝星バニラシドの伏魔殿具合を感じるっすね。
「幸いにして、今回の件でイセイミーツ子爵はヴィー側の人間と思われても居るでしょうし、彼の家ならば婚姻が結ばれた後に貴方や陛下へ妙な事を言ったりもしない。でも、それなりの利益はお互いに与えられる。私としては最良の養子先だと思うのよね」
「なるほど……」
まあ、少なくとも味方にとってはメリットしかない婚姻にはなりそうっすね。
ならウチは黙っておくっす。
「まあでも必要になったらの話ね。サタとヴィーが自分で横やりを入れてくる連中を叩きのめしてしまうと言うのも、貴方たちの力を示す上で悪い選択肢ではないし。そもそも、この先に進むかどうかは貴方たち次第だものね」
「……」
それにしても……皇后殿下もヴィー様も横やりがある前提で話をしているっすね。
という事は、話が進むにしろ、進まないにしろ、帝星バニラシドに居る間にそう言う連中がちょっかいをかけてくる事は確定でいいって事っすかね?
うんまあ、ヴィー様の見た目なら、見た目に惑わされて分不相応の欲をかく男の一人や二人ぐらいいてもおかしくはないっすか。
となれば、護衛としても、運転手としても、ウチの仕事が多少は忙しくなりそうっすね。
「ところで、ヴィーはサタのどんな所に惹かれたのかしら? その辺りについて少し詳しく聞きたいのよね。ネイにも話していないようだし」
「そうですね。母として、私も聞きたいところです」
「皇后殿下!? 母様!?」
しかし、誰それと結婚したいほどに好きかどうかっすかぁ……。
スライム種であるウチはその気になれば単為生殖でも問題ないっすからねぇ……。
とりあえず、お茶と茶菓子をじっくりと味わう事にするっす。
こっちの話もサタたちの話も当分終わりそうにないっすから。
04/02誤字訂正




