237:皇帝陛下の方針
「なるほど。事前に部下から報告は聞いていたが、実際に対峙した人間の意見はやはり別物だな」
ヴィリジアニラの報告を聞いた皇帝陛下は至極真面目な顔で何かを考えこむような姿を見せる。
「陛下、どうされますか?」
「シルトリリチ星系が怪しい事は間違いない。故に調査が必要である事は確かだろう。だが、現時点では処断までは出来ないな。バニラ宇宙帝国は法治国家なのだ。明確な証拠もなく罰を下しては、それこそ国が揺らぐ」
それは当然の話。
だが、当然であるからこそ、しっかりと示しておく必要がある、と言う事なんだろうな。
「厄介なのは、今、シルトリリチ星系のガイドビーコンが宇宙怪獣によって破壊され、あちらからこちらへとやってくる事が気軽には出来なくなっている点だな。おかげでシルトリリチ星系を治めているネモフィラ公爵をこちらへと呼び出す事が出来なくなっている」
シルトリリチ星系のガイドビーコンを破壊したのが宇宙怪獣だと言う話は初めて聞いた気がするな。
しかし宇宙怪獣か……確かにシルトリリチ星系内で宇宙怪獣が暴れているような状況だったら、最高責任者はその場から動けなくなるだろうし、言い訳としては成立するな。
だが、黒幕が宇宙怪獣を生み出せることを考えると、非常に自作自演臭い感じがある。
うーん、皇帝からの呼び出しを断るためにガイドビーコンを破壊した?
あり得そうではあるなぁ。
「となれば、こちらから秘密裏に調査員を送って探るしかないだろう。調査員の行方が分からなくなってしまう、宇宙怪獣が退治できない、ガイドビーコンが復旧出来ないと言うのならば、それこそ堂々と軍を送り込むのが正着となるだろうな」
俺がそんな事を考えている間にも皇帝陛下は今後の事を考え、平然と手を打ち、それが上手くいかなかった場合の手も打ち、聞き届けた何人かが動き出す。
とは言え、この辺りはヴィリジアニラの話を聞く前から決まっていた事だろうな。
「皇帝陛下、私たちはどうすればよいか窺っても?」
「……。特別な事情が無ければ、この先については朕たち上層部の仕事だ。ヴィリジアニラたちにやってもらう事があれば、別途命令を下す。間違っても勝手に動かないように」
「かしこまりました」
で、シルトリリチ星系の件については、この先は俺たちは関わらなくていい、と。
まあ、俺たちに出来るのは囮と戦闘がメインで、前者はこの先の調査には不要で、後者は帝国軍が出てくるなら不要だもんな。
皇帝陛下としても、ヴィリジアニラを危険から離せて万々歳と言うところではないだろうか。
ヴィリジアニラにとっても、気にはなるが、無暗に命を懸けるような案件ではないだろうし、妥当だと思っているところだろう。
「ではこれで私からの報告は以上となります」
「そうか。ではこの先は素直にお茶を楽しむとしよう」
と言うわけで報告は完了。
バニラシド星系へと俺たちがやって来た目的は無事に達成された。
そして、陛下の言葉に合わせて俺はお茶を楽しむわけだが……。
ああうん、流石は帝城、流石は皇帝陛下。
お茶の香りも別格ならば、水の質も別格。
濃く、けれど不快ではない程度に濃密な香りが口から鼻へと抜けて、気分を軽やかにしてくれる。
少しだけ混ぜられた砂糖も当然のように最高級品で、お茶の香りを一切邪魔せず、けれど話し合いに必要な甘さを舌と脳の両方へと与えてくれるようだ。
「ヴィー」
「私は皇帝陛下としか呼ぶ気はありませんが」
「……」
ヴィリジアニラさん、本当に皇帝陛下への対応が塩ですね。
「父上、過度な干渉、強要はそれこそ嫌われますので、少なくともこの場では諦めてください」
「そうですね。諦めるべきです。相手の事を大切に思うのならなおの事」
「陛下。申し訳ありませんが、この件に関しては私も陛下の味方にはなれませんので」
「そうか……」
そして、この件に関しては皇帝陛下の味方は居ないのか。
お付きの文官や護衛の方々も、諦めろと言う視線を送っているようだし……ああうん、俺もこの件に限っては皇帝陛下に協力しないでおこう。
触らぬ神に祟りなしと言う奴だ。
「さて、話題は変わるのだけど、今回のお茶会はヴィーの報告を聞くためだけのものではない。いや、私としてはこちらの方が本題と言ってもいいくらいだね」
「どんなお話でしょうか、ヒービィ兄様」
「君が新たに雇った二人、サタとジョハリスについての話だ。一通りの人となりは報告書で受け取っているけれど、メモクシ以外の部下を持とうとしなかったヴィーが受け入れた二人がどんな人間なのかは、私は是非とも知りたい」
「そうですか」
話題は変わって、俺とジョハリスについて。
つまりはこちらへと話題の矛先が向くわけだが……。
何をどう答えればいいんだろうな?
正直、緊張で舌が回らなくなりそうな感じもあるんだが。
「ヒービィ兄様はどのような事を聞きたいのですか? サタたちにもプライバシーや守秘義務と言うものがあるので、何でも答えられるわけではありませんが……」
「心配しなくても、そこまで深い話を聞く気はないよ。ヴィーに雇われる前はどんな生活をしていたのかぐらいなものだ」
えーとまあ、それくらいなら、セイリョー社の規則に違反しないように話せば大丈夫そうか。
ジョハリスもそれぐらいなら何とかと言う感じの顔をしている。
「そうですか、ではまずはジョハリスからお願いしますね。話したくない事は話さなくても構いませんから」
「わ、分かったっす」
何とかと言うだけで、ガチガチに緊張している事は変わりないようだが。




