235:着飾ったヴィーたち
「これでよし」
今日はいよいよ皇帝陛下たちとのお茶会である。
と言うわけで、朝一番でミゼオン博士はイセイミーツ子爵邸からバニラゲンルート子爵邸へと移動。
昨日の間に打ち合わせた通りに、バニラゲンルート子爵家の方々や外部のプロの方にも手伝ってもらって、各々身だしなみを整える事になった。
「問題はありませんね」
「そうですね。これならヴィーお嬢様の隣に立っても見劣りはしないかと」
で、俺は特に問題なく完了。
まあ、普通のスーツを着るだけだからな。
細かいところはプロの方に従うだけだし。
「でも折角なら温室担当と呼ばれている方の少女を着飾りたかった……」
「それはね、言ったら駄目な奴よ……」
「まあ、不特定多数の方を惑わすわけにもいかないから……」
「……」
なお、お茶会に当たって、メモクシから温室担当の俺を出してはどうかと誘われたが、丁重にお断りしておいた。
皇帝陛下や皇太子殿下は大丈夫だと思うが、それ以外にも色々な人が居る場所にあの姿の俺を出すのは、あまりにもリスクが大きいからだ。
なにせ、俺自身ですら、温室担当の俺は変なのホイホイと言う自覚があるぐらいだからな。
そんな危険物を必要もないのに外へ出すべきではない。
「サタ様。お着替えは終わりましたか?」
「ああ、終わったぞ」
と、ここでメモクシが現れる。
メモクシの格好は普段と大差ないメイド服だ。
だが、普段よりも質が良いメイド服と言うか、新品になっていると言うか、染み一つ見えないものになっている。
「では、ヴィー様をお迎えに参りましょうか」
「分かった」
俺とメモクシは一緒にヴィリジアニラの下へと向かう。
そして待っていたのは……。
「サタ、メモクシ」
「……」
「普段もお綺麗ですが、今はもっとお美しいですね。ヴィー様」
フラレタンボ星系でのお茶会で着飾ったヴィリジアニラよりも更に綺麗になったヴィリジアニラだった。
新しく作られたドレスは、青と緑を基本としているのは変わらないが、細かい構造や装飾は変わっていて煌いている。
金色の髪も、青緑色の燐光を纏う瞳も、玉のような肌も、普段とは比べ物にならないくらいに煌いている。
化粧や香水も程よく、しかし最もヴィリジアニラの魅力を引き立てるように、施されている。
そんなわけで……俺は完全に見惚れていた。
「サタ? 見惚れているのは分かりますが、感想をお願いします」
「あ、うん、はい。えと、その、とても……綺麗です」
「ありがとうございます。サタにそう言ってもらえるのなら、気合いを入れた甲斐があると言うものですね」
返事が上手く出来ない。
だが言う事は言えたと思う。
言えたよな?
うん、言えたはずだ。
バニラゲンルート子爵家の方々の半分がドヤ顔をしていて、半分がニヤ付いているから。
「さて、後はジョハリス様ですね」
「呼んだっすかー?」
と、ここでジョハリスが現れる。
ジョハリスは……俺より少し背が低いくらいの人型になっている。
「お、あー、それがスライム種の正装か」
「その通りっす。正確には歴史上最初のスライム種が人型を取って活動したいと言ったから、正装になっただけの、ウチを含む後のスライム種にとっては割と困りものの衣装っすね」
ジョハリスの口から酷く辛辣な意見が出て来たが……まあ、スライム種にとっては面倒な物なんだろうな。
なにせ、顔の部分だけ穴が開いている、人型の全身スーツに入り込んで、人の形を保ち続ける必要があるのだから。
modの力を借りていると言え、常に全身の筋肉に力を込めろと言われているような物らしいので……うん、そりゃあ大変だろう。
「ですが、とても綺麗ですよ。ジョハリス」
「えへへ、ヴィー様にそう言ってもらえるなら、頑張った甲斐もあるっす」
だが、その頑張りの甲斐もあってか、身に付けている衣装は煌びやかでありつつもスタイリッシュな形だ。
水や水流をモチーフにした装飾品を体の各部に付け、チューブ状の髪の毛のようなパーツはその太さと透明度で以って独特の雰囲気を出している。
こう、メモクシとは別方向でメカと有機体が合体しているような……特殊な雰囲気があるな。
余談になるが、普段ジョハリスが使っている機体に入りそうな量と、今のジョハリスの体を構成している量が全く合わない点については触れてはいけないところであるらしい。
そこら辺は乙女の秘密だとか何とか……。
うん、だったら触れないでおこう。
「うーん、実に華やかだね。こんなところに私が混ざってもいいのか、悩むところだ」
「安心してください、ミゼオン博士。博士もお綺麗ですよ」
「そうかい? ならいいんだが」
最後にミゼオン博士。
まあ、シンプルめなドレスで、装飾品も控えめ、全体的に落ち着いている感じだな。
この場では比較対象がヴィリジアニラになってしまうので、流石に分が悪いが、普通の場なら何も問題はないと思う。
「ではヴィー。また後で会いましょう」
「はい、母様」
そうして俺たちはバニラゲンルート子爵邸がある区画に存在している、トップ層にある帝城からアンダー層まで続く柱のような場所へと向かう事になった。
さて、どんなお茶会になるだろうか?
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