234:王子の狙いは何ぞや?
「さて、説明をお願いできるか。メモクシ」
「私からもお願いします。メモ」
「かしこまりました」
事情聴取が終わり、バニラゲンルート子爵邸に俺は戻った。
そして、ヴィリジアニラたちも明日のお茶会に向けた準備を終えたらしく、帰ってきた。
と言うわけで、何処か疲れた様子のジョハリスは放置しておき、今日俺の身に起きた件についてメモクシに尋ねることにした。
「まず連中の元締めは?」
「シンクゥビリムゾ王子です。とは言え、間に何人も人を挟んでいますし、命令を曲解している者が事実と詐称の両方で居るでしょうから、捜査の手が王子にまで及ぶことはないでしょう」
「なるほど」
元締めについてはやはりとしか言いようがないな。
だが、自分にまで手が及ばないように、安全策は十分に講じている、と。
まあ、こう言っては何だが、今回の件は一部の貴族の使いが一般人に対して威圧的行動に及んだところ返り討ちにあって捕縛された、程度の事だからな。
メモクシが辿り着けているように、きちんと探れば、公的な証拠を伴う形でシンクゥビリムゾ王子にまで行き着けるのかもしれないが、辿り着いたところで大きな影響を及ぼせるとは考えづらい。
うん、元締めについては気にしない方がよさそうだ。
「目的は威力偵察の真似事、と言うところでしょうか」
「そうですね。それでよいと思います。だとしても無様なものですが」
「まあ、控えめに言って捨て駒だよな。俺どころかヴィリジアニラについての情報も正しく得ているか怪しいレベルだったし」
連中の目的は威力偵察……の真似事。
俺がどんな人間なのかを探るためだろう。
基本的には。
「そうですね。捨て駒でもあります。彼らに対する事情聴取は順調に進んでいますが……」
では彼らの上は?
俺に手を出してきた連中は、一応でも貴族の家に仕えている連中だった。
となれば、命令者が居るわけで、その命令者の思惑もある事になる。
で、その辺りについても当然、警察は訊いているわけだが……。
「情報収集、功績目当て、嫉妬などからの嫌がらせ、この辺りが主なようですね。どうやら王子はわざと部分的な情報を流したようです」
「なるほど。そうなると、王子の目的はサタの情報収集以上に、マトモな情報収集と判断が出来る部下の選別と言う事ですか」
「そうなると思います。サタ様に何かあっても自分の懐は痛まない。サタ様と敵対したところで既にそうだと言える状態だから関係ない。だから、うまく利用したと言うところでしょうか」
「なるほどなぁ……貴族って怖いな」
どうやら俺を利用して、使える身内と使えない連中を選別したらしい。
容赦がないと言うか、何と言うか。
てか、俺についてはまだしも、店に迷惑をかけるな。
その一点で以って、俺はシンクゥビリムゾ王子が嫌いになる、いや、なったな。
「と、例のシールド貫通mod付きの爆弾を持ってた奴は?」
「ヒボウガボー男爵家の人間ですね。そちらは他の者から隔離した上で、厳重な警備の下に取り調べを行っている最中です」
「他の者とは罪状も違うので当然ですね」
シールド貫通modは許可を得なければ扱えない上に、許可があっても特定の場所や状況以外で用いることが禁止されているmodだ。
つまり、あの場に持ち込まれた時点で犯罪行為である。
ましてや爆弾に付加しているなど……俺が対処をせずに爆発してしまった際の事を考えれば、タダでは済まない事は確実だろう。
「なお、帝星バニラシド内にあるヒボウガボー男爵家には既に捜査の手が及んでいます。元より評判がいい家とは言い難い家でしたので、探れば少なからず何かがあるでしょう」
「なるほど」
「帝国にとって害のある家が潰れるなら良い事ですね」
流石は帝星バニラシドと言うべきか。
警察の動きも早い。
「そう言えば、あの場には他の貴族の家の人間も居たみたいだけど、そちらは?」
「王子としても隠す必要がある情報だとは思っていないでしょう。あの場に居た人間から雇い主に話が流れ、雇い主から更に上に居る人間へと情報を送っていると言う話は流れて来ますね。内容は……正確なものもあれば、聞くに堪えないものもありますが」
「そこでもまた選別が行われる、と言う事ですか」
「そう言う事でしょう」
うーん、一手で幾つも意味を持たせてくる。
やっぱり貴族は怖いな。
と言うか、メモの言い方からして、もしかして皇太子殿下とか、他の皇帝の子供とか、大貴族とかも、あの場に手の者を行かせて、俺の情報を探っていた?
なんか本当に怖くなってきたな……。
「ヴィー。俺の対応は間違っていなかったよな?」
「間違っていないですね。アポイントメントなし、威圧的行動、店への迷惑行為……爆弾の件を抜きにしても、彼らは無礼で敵対的でした。なので、そんな相手でも怪我をさせずに一瞬で制圧して見せたことがプラスの評価になる事はあっても、マイナスになる事はないかと」
「いや、俺としてはヴィーの迷惑にならないかと言う意味で何だが」
「そちらはもっと問題がありませんね。私の立ち位置と在り方から考えて、むしろ行動しない方が問題だったくらいだと思います」
「そうか、ならいいんだが」
うーん、問題がないならいいか。
「さて、サタ。そろそろ明日の予定についても話をしておきましょうか」
「うん? 分かった」
この件については此処までだな。
俺とヴィリジアニラとメモクシは、それから明日のお茶会について話をした。




