233:冷静に怒る
「こ、こんな事をしてタダで済むと……ぐっ!?」
「質問に答えろ。これでも手加減はしている」
俺の前には道路に膝を着く数人の男たちが居る。
身動きが取れない程度に重力をかけていて、中には道路へ完全に這いつくばる状態になっている者も居る。
が、力を緩める気はない。
「わ、我々は貴方の敵では……」
「その判断をするのはお前らじゃないんだが?」
今の俺は食事の邪魔をされて怒っているからだ。
流石に殺す気や治療に手間がかかる状態になってもらう気はないので、優しく転ばせた上で道路に押さえつけるに留めているが、怒っている事は確かなのだ。
だから、既にヴィリジアニラには連絡してあるし、メモクシからの返答も返ってきている。
返答は……バニラゲンルート子爵家に関係のある人間を回収に向かわせているので、そちらに渡せばいい、と。
ついでにこの辺りのカメラをハッキングしたのか、正規のものなのかは分からないが、この場に居る人間の誰が何処の家の人間なのかを教えるデータも流れてきた。
なるほど、こいつらは捨て駒で、周囲に居る野次馬の一割くらいは貴族の縁者と。
詳しい事は後でメモクシに教えてもらうとして、今回のは牽制と情報収集が目的なんだろう、たぶん。
「わ、私はノリイキーミ男爵家の……」
「ふーん。ロライラウソ男爵家に仕えている使用人で、際どい工作や調査を専門にやって来た人間ねぇ」
「!?」
俺は声を発した人間の言葉へ被せるようにメモクシからの情報を話す。
それだけで、ロライラウソ男爵家とやらに勤めている誰かさんは顔を青褪めさせる。
うん、本当に捨て駒みたいだな。
俺……と言うか、ヴィリジアニラについて最低限の情報を得ているのなら、メモクシと言う機械知性の存在についても知っているはず。
機械知性相手に生半可な偽装が通じない事は帝国市民なら知っていて当然の事実。
それらの情報が与えられていないと言う時点で、この男も、ロライラウソ男爵家も捨て駒だな。
「お前はシャテポーン男爵家、そっちのはデッスオカハ男爵家……」
「「「!?」」」
だからと言って手加減をしてやるつもりはないので、淡々と所属を告げてやる。
ついでに野次馬の何人かと敢えて目を合わせて、お前が貴族の縁者である事は分かっているぞと言う視線を送ってやる。
何故ここまでやるかって?
此奴らが捨て駒だと言うのなら、本命はこの後に来る。
本命の連中が暴力的手段に訴えてくるとして、それが俺相手なら構わないが、ヴィリジアニラやミゼオン博士をターゲットにされるのは非常に困る。
だから脅す。
薪としてちょうどいい連中を使って耳目を集め、他に馬鹿な事を考えた人間への戒めにする。
……。
うーん、なんだか、自作自演の気配もしてきたな。
ヴィリジアニラ自身はやらないだろうけど、バニラゲンルート子爵家とメモクシなら、それくらいの策謀は出来そうだ。
ああいや、自作自演の可能性は無くなったな。
「おいおい、何で交渉に爆弾を持ってきているんだ。しかも、シールド貫通mod付きって、所有しているだけで黒判定が出るぞ。流石に危ないから握り潰させてもらうぞ」
「!?」
なんか妙な動きをしている奴がいたので懐を探ったら、シールド貫通mod付きの爆弾を持っていた。
しかも爆発と同時に無数の鉄片をまき散らす仕様の奴だ。
自作自演で持ち込むような奴ではないし、危険なので、俺は本体の腕を呼び出し、包み込み、握り潰す。
するとちょっとした炸裂音と共に爆発するが……俺の本体には傷一つない。
まあ、所詮は対人用の爆弾という事か。
「通してください! 警察です! お待たせしました。危険人物は……倒れている方ですね」
と、このタイミングで警察と言う名のバニラゲンルート家の縁者が到着。
爆発音によってパニックになりかけた野次馬を落ち着かせながら、こっちへやってくる。
「一応俺も連れて行ってくれ。動けなくしているのは俺だし、こう言うのは両方調べるべきだと知っているしな」
「ご協力、感謝いたします」
俺は警察が拘束の態勢を整えた人間から順番に、重力制御modによる拘束を解除していく。
抵抗を試みる人間は……流石に居ないようだな。
「あ、こいつはシールド貫通mod付きの爆弾を持っていたんで、念入りかつ注意深くお願いします。必要ならmodを無効化するための墨も一度浴びせますが?」
「お願いします。この男は他のものとは少し毛色が違うようですしね」
なお、爆弾持ちだった奴は他の男たちと違って厳重な封印をされた上で運ばれていく事になった。
当然だな。
「しかし、貴族ってのは怖いですね。目的は分かりませんが、人の食事を邪魔して声をかけてきた上に、大惨事を招きかねないものをファーストコンタクトから持ち込んでくるとは」
「怖いと言う点については同意いたします。ただ、ファーストコンタクトから爆弾を持ち込むような貴族は、流石に極少数の例外であると言わせてください。いくら何でも度を越している」
爆弾持ちは流石に例外、ね。
それはまあそうか。
あの爆弾、爆発させた際の感触からして、野次馬含めて、この場に居る人間の大半を殺傷できる威力があって、所有しているだけでも違法な代物だった。
そんなものを使う連中は例外だよな、そりゃあ。
「事情聴取。どれぐらいかかるか……」
「直ぐに済みますのでご安心ください」
なお、事情聴取はあっさり終わって、俺はバニラゲンルート子爵家に帰された。
余談ですが。
重力制御modによる制圧は、かなり繊細な技術の集合体だったりします。
なにせ、ほんの一瞬だけ無重力状態にして浮かせた後、つま先と後頭部に負荷をかけて回転させ、それから軟着陸させるように絶妙な加減速をして伏せさせ、最後に身動きが出来ない程度に適度に分散させた重力をかけていますので。
なお、宇宙怪獣スペックで繰り出されるため、普通の人間が持つような重力制御modでは対抗する事は出来ない模様。




