231:皇室の面々
「では、本日の件を踏まえつつ、現在のバニラ宇宙帝国内における三人の重要人物について説明をしていきたいと思います」
俺たちは無事にヴィリジアニラの生家であるバニラゲンルート子爵家に着いた。
で、ヴィリジアニラが母親と話をしている間に、俺とジョハリスはメモクシから皇帝陛下周りについてレクチャーを受ける事となった。
なお、メモクシが映像と音声を繋いでくれたので、ミゼオン博士とメイドたちにもついでにレクチャーを受ける事となる。
「まずは皇帝陛下。御名をゴールヤマオーキン・エン・バニラ・P・バニラシドと申しまして、殆ど公然の秘密ではありますがヴィー様の御父上です」
皇帝陛下は……ヴィリジアニラにそっくりな金髪に目の色をしているな。
男女差と掘りの深さを除けば、ヴィリジアニラとの間に血の繋がりがある事は誰の目にも明らかだろう。
「陛下の立ち位置としては穏健派であり、今のペースで堅実に帝国を拡張しつつ内政を重視しています。ただ、一部の動きを見ていただければ分かりますが、必要とあれば強硬策も辞さないお方です。なので、陛下を甘く見た連中は悉く痛い目に会わされていますね」
「まあ、そうでないと帝国の統治なんて出来ないだろうしな」
「っすね。でもおかげでいい暮らしをさせてもらっているとは思うっす」
皇帝陛下の立ち位置は現状維持。
ただ、あからさまな腐敗や不正を許すような方ではないし、治安維持だって怠っていない。
本当に必要ならば星系一つ見捨てるような判断も出来るだろうし、皇帝と言う立場に相応しい方であると個人的にも思える。
ちなみにだが。
陛下には正室である皇后殿下の他に、側室が二名、ヴィリジアニラの母親を含めて妾が十数名居て、子供も皇后殿下の間に二人、側室それぞれの間に二名ずつ、妾の子供たちがヴィリジアニラ含めて数名……能力的に庶子として認められなかった子まで含めると十数名は居るそうだ。
実に子沢山である。
だが、この内、現実的な範囲の皇位継承権を持っているのは正室の子、側室たちの子の他は、ヴィリジアニラぐらいなものであるらしい。
実に能力主義である。
まあ、皇位継承権を持っていなくても、庶子と認めていなくても、自分の子供と判断できる子にはきちんと支援を行っているそうなので……外野がとやかく言う事ではないのだろう。
「皇太子殿下の御名はヒービィカネカラ・エン・バニラ・P・バニラシド。路線としましては現皇帝陛下の路線を継続する方向ですね。差を見出すなら……若干、新技術の開発や普及へ注ぐ力を増やしたいと思っている。と言うところでしょうか」
次に皇太子殿下。
見た目としては、皇帝陛下を若くしたような感じ。
ただ若干だが、髪の毛の色が赤っぽいようにも思える。
バニラ宇宙帝国の次期皇帝と言う立場ではあるが、その地位に驕ることなく、堅実に実績を上げ、確固たる立ち位置を確保しているようだ。
何事も無ければ、彼が次の皇帝になっても何の問題も起きない事だろう。
ちなみに女性関係は皇帝陛下を見習わなかったようで、正室である皇太子妃殿下以外には、その皇太子妃殿下の薦めで迎え入れた側室が一人居るだけとの事。
後、既に子供が一人居るらしい。
「ヴィーとの関係は?」
「良好です。兄妹のような付き合いですし、実利面もあります。なので、少なくとも軍を唆すような人物とヴィー様ならば、ヴィー様を取ってくださるでしょう」
「なるほど」
ヴィリジアニラとの関係も悪くないと言うのなら……うん、問題はなさそうだ。
と言うか、ヴィリジアニラが皇位継承権の順位上昇を嫌がっているのは、万が一にも皇太子殿下の地位を揺るがしたくないからではなかろうか?
「最後に皇位継承権第二位、シンクゥビリムゾ・エン・バニラ・P・バニラシド王子ですね」
「側室の子供ってのは聞いてるっす」
最後にシンクゥビリムゾ王子。
見た目はだいぶ赤よりの金髪で、整った容姿をしている。
メモクシ的にはあまり好ましくない人物のようで、紹介する言葉の端々にトゲがあったが、それを抜いて噛み砕くと……。
いわゆる強硬派、強権派であり、今よりも帝室と貴族の権利を強める事を狙うと共に、一般市民に対する監視を強めて、犯罪の撲滅を狙っている、と言うのが表向きの話。
実態としては特権階級の利権保持を狙っていて、帝国の拡大よりもそちらの方が優先順位としては高め。
ヴィリジアニラとの仲も良いとは言えない。
と言うところのようだ。
うんまあ、口に出すと拙いから言わないが、要するに敵だな。
ただ、皇位継承権第二位を持っているだけあって、実務能力などはきちんとしている。
なので、メモクシが持ち合わせている情報通りなら、仮に彼が帝位を継いでも大きな問題は起きないそうだ。
どちらも帝国を維持していくと言う点では、大きな変わりはないしな。
「ん? そんなのが、あんな馬鹿な要求をしたんすか?」
「実は、そこがこちらとしても引っ掛かっている点です。支援する企業や貴族からの突き上げがあったとしても、あのような悪手を打つ方ではなかったと思うのですが……」
ジョハリスの言う馬鹿な要求とは、勿論ミゼオン博士の件である。
だが言われてみれば確かにではある。
バニラシド帝国の皇位継承権の仕様を考えたら、極度に実力がない人間では例え正室の子であっても、継承権を与えられないのだし。
うーん、俺たち視点では分からないような何かとかがあるのかもな。
『警戒はしておくべきだね。人を洗脳できる武器であるマガツキがバニラシド星系にあるかもしれないんだろう? もしかしたらそう言う事なのかもしれない』
「そうですね。警戒しましょう。何かあってもいいように」
とは言え、こちらから何かを出来るわけでもなし。
やれるのは、マガツキのような特殊な存在が向こうにないかどうかを確かめるのと、そう言うのがあってもいいように立ち回る事だけだろう。
「以上で、帝室の今後に関わる三名のレクチャーを終えます」
余談だが。
皇帝陛下の父君と祖父……つまりは前皇帝と前々皇帝はご存命であるらしい。
が、皇位から降りると共に、よほどの緊急事態でなければ政治には関わらないと言う誓約を結ばれているそうで、今は辺境の惑星で悠々自適な生活を送られているらしい。
なので、今後も俺たちに関わる事はなさそうである。




