227:帝星バニラシドに到着
『着陸完了っす』
さて、本来ならば帝星バニラシドのトップ層に宇宙船が着陸するのには、色々と面倒な手続きを踏む必要がある。
これは警備の為に必要な事であるのだが、本当に面倒なので、帝星バニラシド周囲にあるコロニーの幾つかは、この降下と着陸の手続きを専門的に行うために建造、運用されているほどである。
が、『カーニバルヴァイパー』は帝国軍諜報部隊所属で、しかも責任者は皇帝の庶子であり実績も多数あるヴィリジアニラである。
また、皇帝陛下の方から事前に話も行っていたのだろう。
手続きはかなり簡略化されて、帝国軍の基地の指定された場所へ着陸する事が極めてスムーズに認められた。
「では、此処からは軍の案内に従って移動する事になります。メモに付いてきてください」
「分かりました」
さて、『カーニバルヴァイパー』はこれから帝国軍の手で各種補充とメンテナンスである。
と言っても、シブラスミス星系で改修した際にその手の事は一通りやったと思うし、次に使うのはバニラシド星系を離れる時だろうから……しばらくは放置に近い状態だろうな。
で、俺たちはメモクシの後に続いて『カーニバルヴァイパー』を降りると、迎えとして用意されていた帝国軍の車両に乗り込む。
まずはミゼオン博士の為にイセイミーツ子爵家だな。
「凄い構造になっているな……この層は丸ごと道路と言うか、移動の為の層なのか」
「ミドル層、上部移動区画と言われている層ですね。サタの言う通り、この層は水平方向に高速移動をするための交通設備が整えられています」
俺たちが乗った大型の車両は空港から坂道を下って、トップ層からミドル層の一番上へと移動した。
で、ヴィリジアニラ曰くこの層は上部移動区画と言うらしく……本体で見る限り、とんでもない数の道路と架線が張り巡らされ、とんでもない量の車やトラムが走っている。
時々見える太い柱などは上下に移動するためか、各種配管がまとめられているエリアか……場合によっては各種整備や監視に必要な人員や資材を集めているところもありそうか。
後、俺たちから見て横に倒れている車が普通に走っている場合もあるので、重力制御modなども活用されているようだ。
なんにせよ、これほど大規模かつ秩序だった交通網を整備し、支障なく運用しているだけでも、帝国の圧倒的な実力が窺えると言うものだ。
ちなみにだが。
上部移動区画と言う言葉の通り、ミドル層の下部の方にも同じような区画があるそうだ。
この二つの区画はどちらも移動の為の区画だが、道は可能な限り被らないようにされていて、二つの区画を効率よく用いる事で、帝星バニラシドのミドル層の何処へでも短時間で移動できるらしい。
「縦方向の移動に変わったな」
「そうですね。この辺りは……トップ層の議会や各省庁が密集しているエリアに近いですね」
「イセイミーツ子爵家は官僚の一族ですので、勤務上都合が良い場所として、このエリアを選んだのだと思います。いわゆる高級住宅街になりますので、治安も良い方かと」
車の外の光景が変わる。
道路だらけの光景から、見るからに手がかかっている屋敷が何十……いや、何百件と立ち並んでいるものへと。
商業施設は殆ど見られず、閑静な空気が漂っている。
メモクシの言う通り、治安がよさそうなエリアではあるな。
「フラレタンボ伯爵の屋敷よりは狭いっすけど、豪華な屋敷ばかりっすねぇ」
「一目ではそうと分からないような、職人の手による補修の跡も多いね。それだけ年数を重ねて来た家が多いという事か」
なお、このエリアに入った時点で、俺の本体は帝星バニラシドの外へと避難させてある。
万が一にも貴重なmodが使われている品とかを壊してしまったら、賠償額がどうなるか、分かったものじゃないからだ。
いざと言う時には躊躇わないが、危険には出来るだけ近づかないのが妥当と言うものである。
『到着いたしました』
「メモ」
「はい、間違いありません。イセイミーツ子爵邸です」
と、目的地に到着したらしい。
俺たちは周囲を警戒しつつ、車を降りる。
「ここがそうなのか。うん、趣味が悪い人物ではなさそうだね」
イセイミーツ子爵邸は見た限りでは普通の屋敷だ。
適度に手が入った前庭に、手入れの行き届いた質のいい白亜の屋敷。
庭に変な形の樹木が植わっていたり、見るからに凶暴そうな獣が放されていたり、黄金製っぽい像が立っていたり、集団行動をしている人間が居たり、屋敷の壁が極彩色で彩られていたり、砲門が屋根から生えていたり、なんてことは一切ない。
本当に普通の屋敷だ。
なお、今言った屋敷たちは、本体で他の区画を覗いた時にチラリと見えてしまったもので、全部実在するものである。
どうやら本当に区画ごとに文化が違うらしい。
「お待ちしておりました。ヴィリジアニラ様、ミゼオン博士」
と、一人の老執事が現れて、屋敷の前で待つ俺たちに向けて一礼をする。
その後、ヴィリジアニラとミゼオン博士が幾つかのやり取りをしてから門扉が開かれて、俺たちは屋敷の中へと招かれる。
「イセイミーツ子爵はどちらに?」
「申し訳ございません。主は現在仕事中でして、こちらへと急いで向かっているところです。本当は朝から屋敷で待機していたかったそうなのですが、緊急の仕事が入ってしまったそうで」
「そうですか。官僚のお仕事はお忙しいから仕方がない事ですね」
「そうですね。仕方がない事ではありますが……ですがご安心を。主がお帰りになるまで、しっかりともてなしをさせていただきますので」
そうして俺たちは屋敷の一室、応接室のようなところへと通された。
とりあえずとして、出されたお茶は非常に上質で美味しいものだったと言っておく。
03/21誤字訂正




