216:バニラシド星系へ
『『カーニバルヴァイパー』。発進するっす』
バニラシド星系へ向かうフライトプランが完成。
また、星系の外からでも出来る現地の情報収集も完了した。
という事で、俺たちはシブラスミス星系第三プライマルコロニーから出発し、バニラシド星系へ向かって移動を始めた。
『念のために再度通達するっす。本船はこれから亜光速航行で12時間ほどかけてバニラシド星系行きのガイドビーコン及びガイドコロニーまで移動。それから超光速航行に移行し、約12時間かけてバニラシド星系に到着するするっす。その後は念のためにバニラシド星系側のガイドコロニー近くで一日停泊して情報収集。何もなければ、それから半日かけて帝星バニラシドの近くまで航行する事になるっす』
さて、今回のフライトプランはジョハリスの言う通り。
普段の物に比べると随分と余裕があると言うか、ゆっくりとしたものである。
だがこれは、帝星バニラシド及びバニラシド星系の警戒の厳重、俺と言う宇宙怪獣がやってくる異常事態、これら二つが組み合わさった際に何が起きるのかが想定しきれないために、余裕を持たせてある。
なお、今回は『カーニバルヴァイパー』の船名を変更しない。
変更するとしたらバニラシド星系に着いてから、その方が有利になる状況と分かってからだろう。
『自動航行のセット完了。これでしばらくはお休みっすね』
なお、超光速航行の時間を見てもらえば分かるが、バニラシド星系とシブラスミス星系は比較的近い位置にある星系である。
船の性能や亜光速航行のやり方次第では、一日かからないぐらいに近い。
こう言うところからも、シブラスミス星系が宇宙帝国の最初期に開拓されることになった理由を窺えるな。
「そう言えばサタ」
「ん? どうした?」
では、これからしばらくは暇なので、記事とレポートの執筆を筆頭として色々とやろうと思っていたのだが……ヴィリジアニラから何かあるようだ。
「サタの温室で育てている植物たちはどうなりましたか?」
「ああその話か。今のところは問題なく育ってる。最初は高速成長modも使ったが、生育が早い植物ならもう使っていないぐらいだな」
温室については現状では順調だな。
ヘーキョモーリュについては言わずもがな。
ミント、タイム、バジル、オレガノと言った成長が早めな植物については、既に十分な数になったので、通常の生育方法に移行している。
胡椒は……流石にまだまだかかるな。
「食べることについてはどうですか?」
「それはヴィーが食べたいって事か? そう言う意味だったらまだ駄目だな。ミントなんかは試しにお茶にしてみて、温室担当の俺が飲んでみたりしているが、薬効や通常のミントの差なんかが調べ切れていない」
「そうですか」
ヴィリジアニラが少し残念そうな顔をしているが、こればかりは譲れない一線と言う奴だな。
俺のOSで満たされているエーテルスペースで生育した植物には、『バニラOS』環境下で生育した同種の植物にはなかった特徴が現れる可能性がある。
そして、その特徴は毒性と言う形で現れるかもしれない。
そう考えたら、検査も無しに飲ませるわけにはいかないだろう。
「ヴィー。一応言っておくが、最低でも、科学的な検査、温室担当の俺の実食、『バニラOS』環境で生育した実験動物での検査、これぐらいはしないと絶対に外には出せないからな」
「分かっています。なので食い下がったりはしません」
「ならいいんだが」
なお、科学的検査とは、通常とは異なる環境で育てたことで、modに依存しない毒が生成されていないかの検査である。
温室担当の俺の実食は、含まれているmodに変化が生じて、食べた人間に悪影響を及ぼすかどうかを調べるための検査である。
実験動物での検査は、上記二つをすり抜けて有毒な何かが含まれていないかを確かめるための検査である。
本音を言えばセイリョー社を含む専門の会社、数社で、同様かそれ以上の検査もしてもらいたいところではあるな。
ただ、セイリョー社はともかく、他の会社に頼むとなると、相応のお金がかかるのが悩みどころなわけだが……うーん、ヴィリジアニラが求めるなら、諜報部隊の経費で落とせたりしないだろうか?
少量なら継続的な納品も出来るわけだし。
何かが見つかったなら、それを餌に……いや、迂闊にやると、変なのが絡んできて、面倒事が発生するとかもありそうだな。
うーん、難しいところだ。
「ただ現状はどうですか? 異常の類は見つかっていますか?」
「現状だと……通常の物よりも成分が濃い感じはあるな。薬効の類もその分強まっている感じはあるし、味も濃くなってる。少し風味も変わっているみたいだな」
「なるほど」
まあ、現状については教えても問題ないな。
なお、通常の物との違いは、ヘーキョモーリュには当てはまらない。
やっぱりヘーキョモーリュは少し変わっているらしい。
「ヴィー、もう一度言うが、まだ外には出せないからな?」
「サタ。分かっているので大丈夫です」
とりあえず、バニラシド星系に滞在中に最低限の検査が終わるかどうかは……外部に協力を求められるかどうか次第だろうな。
余裕があるのなら、バニラシド星系側にガイドコロニーに着いてからの一日の間に、一度セイリョー社に飛んで行くのも一つの手か。
覚えておこう。




