215:バニラシド星系での予定
「さて、改めてバニラシド星系について話をしましょうか」
「分かった」
「分かったっす」
マガツキについては置いておくとして。
此処からはバニラシド星系についてだ。
「今回私たちがバニラシド星系に赴くのは、シルトリリチ星系の件について、皇帝陛下に直接伝えるためです。なので、これが第一目的だったわけですが……」
「だった?」
「ヴィー様の家であるバニラゲンルート子爵家が既に動いている事からも分かるように、既に皇帝陛下には情報は伝わっています。なので、絶対に会う必要はなくなりました」
「なるほどっす。個人的な所感ぐらいしか、もう伝えられる情報が無いって事っすね」
まずは目的。
これについてはヴィリジアニラの言う通りなのだが、確かに最近の諜報部隊の動きを見ていれば、皇帝陛下に情報が伝わっている事に疑いの余地はないな。
それでもなお伝える事があるとしたら、ジョハリスの言う通り、直接接触した人間だからこその情報くらいしか、出せる話はないか。
「はい。ジョハリスの言う通りです。なので私としては会わなくてもいいかと思ったのですが、皇帝陛下、皇后陛下、皇太子殿下、母様の四人が私たち四人に会いたいと言う要望を出したため、会う他なくなりました」
「へー、ん? 四人?」
「え、ウチもっすか? サタはまだしもウチもっすか!?」
「はい、ジョハリス様もです」
「あ、絶対に胃が痛くなる奴っす……スライムだから胃なんて無いっすけど……」
となれば、確かに無理に会う必要は無くなるわけだが……向こうからの要望があったのなら、会う他ないな。
流石に相手の地位と立場が強すぎる。
会わないと言う選択肢はない。
しかも、俺、ジョハリス、メモクシも招かれるのか……。
まあ、俺については正体が宇宙怪獣と言う特殊な立場であるし、それを考えれば、皇帝陛下たちが会いたがるのも、そこまでおかしな話ではないか。
「あ、もしかしてっすけど、倉庫にあったアレとかソレとかって……」
「ええ、そう言う事です。大丈夫ですよね?」
「ふ、普段ならともかく、相手が相手なんで、少し考えてもらえると……」
ん? 倉庫?
変なものは納入されていなかったと思うんだが……もしかしなくてもジョハリスの衣装とかも入っていたのかもな。
スライムは専用の機体を使う方が一般的ではあるけれど、訓練を積んで、専用の衣服を身に付ければ、普通の人のような見た目にもなれたはずだ。
まあ、俺が気にする事ではないな。
「サタ様。分かっていると思いますが、お茶会は王宮、それも皇族のプライベートスペースで行われることになります。あちらでも対策は講じていると思いますが、modを用いた製品も数多くあります。ですので、迂闊にサタ様のOSを広げないようにお気を付けください」
「あー、そうだよな。そこは確かに注意しないと拙いか。壊した物次第じゃ、何十年か働いた程度じゃ返せないような賠償金とか払われそうだ」
「間違って壊した程度で怒るような方々ではありませんし、賠償を求めるような方々でもありませんが、周囲までそうとは限りませんので、念のためにご注意くださいませ」
と、俺は俺で注意をする必要があるみたいだな。
だが、その注意内容には納得するほかない。
場所が場所だけに貴重品も重要な品もありそうだから、注意はしておかないとな。
「と、それでお茶会? 懇親会? 面会? とにかく皇帝陛下たちに会った後の予定については?」
さて、ついでなので、お茶会の後についても聞いておく。
「名義上はお茶会ですね。それでお茶会後の予定についてですが、まずはシルトリリチ星系について調べます。帝星バニラシドにある諜報部隊の本部ならば、シルトリリチ星系についても一通りの情報があるはずです」
「ふむふむ」
「大昔のどうでもいい情報以外は何でも揃っているはずですので、ヴィー様が知りたいことは一通り知れるはずです」
「ウチたちも色々と調べられるっすかね?」
「求める情報にもよりますが、ヴィー様に同行する形なら基本的には大丈夫かと」
お茶会後は情報収集。
これもバニラシド星系へ向かう目的の一つだったから、納得がいく話だな。
「情報収集の後は?」
「得られた情報と皇帝陛下の要望、諜報部隊の任務次第ですね。つまり、予測が付けられません」
「どのような情報があるかも分かりませんので、確定はさせない方が無難でしょう」
情報収集の後は不明。
これもまあ、情報収集と言う行動で得られるものを考えれば、当然の話ではあるな。
ただなぁ……。
「でも、マガツキが一本、バニラシド星系に来ているっぽくて、そこにウチたちと言うかヴィー様のこれまでを考えると、一騒動はありそうっすよね」
「そうですね。一騒動はあると考えていいと思います。そうでなくともバニラシド星系は政治の中枢という事で、色々とある星系なので」
「つまり、何かしらのトラブルに巻き込まれることはほぼ確定と考えていいわけか……」
「バニラシド星系に限っては、ヴィー様が何もしなくても、トラブルの方から寄ってくると考えていい、メモはそう思っていますね」
うん、全員がそう思っているのは想定外だったが、何かしらのトラブルが起きる事は確定であるらしい。
まあ、こればっかりはこれまでと言うか、俺たちの実績がな……。
俺とヴィリジアニラが契約して以降、トラブルなしで星系を移動できたことは無いのはただの事実だし。
ヴィリジアニラの任務自体がトラブルを引き寄せるようなものだし。
うん、仕方がないな。
「では、バニラシド星系で何があってもいいように、全員で十分な準備を整えた上でバニラシド星系へと向かいましょう」
さて、準備が完了次第、バニラシド星系だ。
いったい、何が待っているだろうか?




