214:マガツキたちの行方
「ヴィー様、サタ様、ジョハリス様」
『カーニバルヴァイパー』の改修は無事に終わった。
シブラスミス星系でやる事についても、一通りは終わったと考えていい。
と言うわけで、今の俺たちは次に向かう星系であるバニラシド星系、そして帝星バニラシドについて、簡単な調査を行うと共に航行計画と向こうに着いてからの予定を組みつつあった。
そんなところに、普段よりも神妙な顔をしたメモクシが現れた。
何かがあったらしい。
「メモ、何がありましたか?」
「緊急の事態ではありません」
だが、緊急の話ではないらしい。
なのに機械知性であるメモクシの表情が変わる?
あーうん、出来れば聞きたくない類の話ってところか。
俺と同じことを察してか、ヴィリジアニラもジョハリスも居住まいを正す。
「マガツキが暴れた個人コロニー。あちらで行われていた調査が一通り完了いたしました」
「「……」」
「話してください」
「かしこまりました」
あーうん、確かに緊急の話ではない。
だが、あそこにいた連中の所業的に、確実に今日の飯が不味くなるタイプの話だ。
色々と納得がいってしまった。
だが、聞かない訳にはいかない話だな。
わざわざメモクシが出してきたわけだし。
「不快な事に彼らは自分の犯罪の証拠を売買していたため、調査についてはそれほど難しくはなかったようです」
「被害者が襲われた現場はシブラスミス星系だけでなく、周囲の各星系でも、ですか」
「はい。ただ、彼らは自分で人を浚うわけではなく、これまた不快な話ですが、金銭で購入していたようですね。なので、実際に誘拐を行っていた犯罪グループは別にあります。なので現在、帝国軍と各星系の治安維持組織が総力を挙げて叩き潰しているとの事です」
「ウチたちが関われる案件ではないっすね」
「だな」
犯罪の証拠映像はたっぷり。
違法な取引記録もたっぷり。
ならば、芋づる式にと次々に捕らえているのが現状のようだ。
あ、ニリアニポッツ星系でニリアニテック元子爵の下で活動していた連中の一部も関わっていたみたいだな。
へー……ふーん……なんか、これまでに捕まった連中の罪状も増えそうだな、これ。
「あの個人コロニーの資金源については?」
「厄介なことに大部分は真っ当な投資事業で稼いでいたようです。それに先述の取引。それと極一部ですが、あの個人コロニーを犯罪組織の取引現場に用いる事でも資金を得ていたようですね。現状では追えているようです」
しかし、個人コロニーを持てるほどに稼いでいたのに、それでやる事がアレか……。
人間性と才能は別物だって言うのがよく分かるな。
「マガツキで暴れていた男については?」
「あの個人コロニーで雇われていた整備業者だったようです。コロニーの実態を知っていたかは不明です」
さて、俺たちに関わると言う意味では本題は此処からだな。
メモクシによればだ。
個人コロニーで暴れた男は雇われの整備業者。
残されていた資料から察するに、外部の掃除や通信設備の整備と言った業務に携わっていたらしい。
コロニーの特性上、外のニュースなどは殆ど入ってこなかったそうなので、マガツキの事は知らなかった事だろう。
で、事件当日はコロニーの外で作業をしていたらしいので……そこでマガツキに遭遇し、手に取ってしまったのではないかとの事。
「襲撃の手順は……流石はマガツキと言うか、マガツキに洗脳されて動いた人間と言うか……自分の知識をよく生かしているな」
「そうですね。元から外との関わりも薄かったようなので、この手順で襲われれば、各個撃破は容易だったでしょう」
その後については……通信、脱出、警備と言った要点を先んじて破壊した上で、身体スペックをフルに生かして、不意打ち、奇襲、正面突破、罠、何でも利用して、皆殺しにしてみせたようだ。
うーん、他のコロニーでこんな事をされていたらと思うと……恐ろしくて仕方がないな。
「でもこうなると、マガツキが来てしまったのは偶然だったんすかね?」
「一見するとそうですね。ですが、そうとも言い切れない情報も少しずつ出て来ています」
「と言うと?」
メモクシが指で示した先にはシルトリリチ星系との繋がりを示す部分が書かれている。
どうやら、人身売買の一部はシルトリリチ星系との間で行われていたらしい。
また、資金の一部を投資と言う形で流している様子も見られたようだ。
マガツキの製造を依頼した人間にもシルトリリチ星系の人間であった疑惑があったはずだし……狙われた可能性は否定できなくなってきたな。
「……。メモクシ、他のマガツキの足取りは?」
「五本のうち一本は依頼主が持っていき行方不明。残り四本の内三本はどうにか所有者を突き止め、確保に成功。現在は破壊に向けて慎重に準備をしているとの事です。そして残り一本は……所在不明です。ただ、直前の動向からバニラシド星系周辺に在り、恐らくはマガツキとして目覚めているかと」
「「「……」」」
そして、マガツキが一本、目覚めた上でバニラシド星系で行動している可能性がある、と。
遭遇すればどうとでも出来るだろうが、逆に言えば、遭えなければどうしようもないからな……。
厄介な事だ。
「既に帝国中にマガツキの情報は広がっています。手に取れば死ぬのと同じな上に制御どころか交渉もままならないとなれば、裏側の人間でも知識がある者なら表に出るように誘導するでしょうが……」
「個人コロニーの件のように知らない人間が手に取れば、また暴れ出す、と」
「はい」
俺も、ヴィリジアニラも、ジョハリスも、どうしたものかと頭を悩ませる。
悩ませるが……。
「まあ、俺たちに出来る範囲だと、出たところ勝負にしかできないな」
「そうっすね。警戒以上の事は出来ないっす」
「そうですね。それしかなさそうです」
やはり手が届かない位置に居る相手はどうしようもないな。
これはもう現地の人間たちを信頼して任せるしかない。
俺たちはそう結論付けて、溜息を吐いた。




