210:事後調整 ※
本話はヴィー視点となっております。
『では、成果の分け方についてはこれでよろしいだろうか』
『異議なし』
『了承した』
『同意しましょう』
「異論はありません」
サタが事情聴取を受けている頃。
私もまた話し合いに参加していました。
今の議題は今回の一件について、どこからどこまでを私たちの成果とし、どこからをシブラスミス星系の帝国軍や治安維持機構の成果とするのかについてです。
とは言え、揉める事は殆どありませんでした。
私としては、私たちでしかこなせかった部分を成果として貰えれば、それで十分だったからです。
と言うより、これ以上貰うと、余計な揉め事を招きそうだったので引いたのが実態です。
『では次の議題ですが、今回の件をどこまで公表するかについてです』
『本音を言えば公表はしたくないところですな。マガツキの件だけならばそこまでではありませんが、個人コロニーの件があまりにもショッキングだ』
『あの一件は報告を聞いただけの我々でも眉をしかめるものでしたからな……世間に知られたら、どういう反応があるか……』
『弾圧派の連中の動きを抑制するのに使うにしても、衝撃が強すぎますからなぁ。あまりにも凄惨だ。だが、隠すのもそれはそれで……』
さて次の議題は……私は口を挟むべき話ではありませんね。
これはシブラスミス星系の中の話であり、シブラスミス星系に属さない人間に口を出す権利はありません。
『では、望む者だけが見られるようにしておきましょうか』
『それが無難でしょうな。それにしても幾つかのセーフティを設けておきましょう。全てを無造作に開示するのは得策ではない』
『ですな。万が一にも未成年が見てしまったらと思うと、とてもではないが見せられない』
なので私が黙っていると、無難な方向にまとまっていきます。
実際、隠すとそれはそれで非難が噴出しますし、大っぴらにするとそれはそれで非難が噴出します。
となれば、調べたいと思った人間なら触れられるようにしておく、くらいが無難なところでしょう。
なお、それはそれとして、あの個人コロニーが放置されていたのは現地当局の失態に他ならないので、戒めとして幹部クラスは全員、後で読了する事も決定づけられたようですが。
『後は……スーメレェの扱いですな』
『人が宇宙怪獣になった件は……フラレタンボ星系のメーグリニアと言う人間の例がありましたか』
『マガツキは今回の物以外に五本製造されている事も分かっている。同様の事例が起きる可能性は考えるべきでしょうな』
「全てを明らかにする必要はないと思います。マガツキを手にすれば宇宙怪獣になれるなどと言う誤った認識が広がれば、被害は甚大なものになってしまうかと」
『ヴィリジアニラ様の言う通りですな。マガツキは見かけても絶対に触らない。触れば体を乗っ取られる。これ以上の情報は世間には出すべきではないでしょう』
『マガツキについてはそうですな。スーメレェと言う個人についてです』
『そちらはどうでしょうなぁ……』
結論を言ってしまいましょう。
スーメレェについては……個人コロニーでマガツキが暴れた時点で死亡していたことになりました。
幸いにして、マガツキを握っていた時のスーメレェもシュウ・スーメレェも顔は本来のものとは異なるものになっていたので、カメラなどに情報は残っていません。
何時か家族が真実に気付いたならば明らかにする準備はありますが、逆に言えば気づかなければ今のままにしておくことになりました。
スーメレェ自身が人間への復讐を誓うようにして宇宙怪獣と化したこと、家族に二度も娘を失う苦しみを味合わせることの是非。
そう言った要素から、スーメレェ周りの情報は公表されず、真実を知れる人間も限られることになりました。
『ーーー……』
『ーーー……』
その後も細かい話は続き……終了。
超光速通信を利用した会議の画面が閉じられます。
「お疲れ様です。ヴィー様」
「お疲れ様っす。ヴィー様」
「ありがとうございます。メモ、ジョハリス」
さて、会議は終わりました。
サタは……まだ時間がかかりそうです。
メモのおかげでパワードスーツのサタ視点の情報はあちらに渡ったはずですが、それはそれとしてサタの証言も必要なので、これは仕方がない事なのでしょう。
「しかし、ヴィー様……」
「なんでしょうか? メモ」
「いえ、また皇位継承権が上がってしまいそうだな、と」
「言わないでください。気にしないようにしていたのですから」
「申し訳ありません。ですが事実ですので」
皇位継承権の順位が上昇する。
個人的にはこれほどに問題がある話もありません。
「ああ、継承順位が上がりすぎると、面倒事が起きるとか、そう言う奴っすか」
「そういう奴です。特にこれから帝星バニラシドへと向かうわけですし、そこで上がっていると変なら絡み方をしてくる連中がですね……」
「何かしらのお零れにあずかろうとか、そんな奴っすかぁ……確かに嫌っすねぇ……」
この際、私の継承順位が上がった事で継承順位が下がった人間から恨まれるのは良いとしましょう。
妥当ですらあるので。
中には私と同じで、下げたかった人間もいるかもしれませんし。
ですが、私からのお零れを得るために擦り寄ってくる連中については……本当に関わりたくありません。
何かしらの利益を持ってくるならまだしも、そうでないどころか、害すら持ってくる人間も少なからず居るのですから。
「でも、帝星バニラシドに向かわない訳にはいかないんすよね?」
「ええ、向かうしかありません。シルトリリチ星系の件を皇帝陛下に伝えるためにも、シルトリリチ星系の情報を得るためにも、他の選択肢はありません」
「では、向かう前に対策を考えましょう。揉め事はないに越したことはありません」
さて、もしも本当に皇位継承順位が上がるのなら……どうしましょうか?
対策は考えなければいけません。
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