207:見えないように
本日は二話更新です。
こちらは二話目です。
「っ!?」
ヴィリジアニラ操るパワードスーツの俺の拳が、シュウ・スーメレェの首を後ろから潰すように叩く。
が、叩かれる直前に前に向かって跳び始めていたのだろう。
足元に転がるのではなく、前方へと吹き飛ばされる。
「パワードスーツ程度で防げるとで……もっ!?」
シュウ・スーメレェは吹き飛ばされつつ体勢を整え、反転し、俺をしっかりと視界に捉えながら刀を振る。
が、刀が振られるよりも速く、俺はシュウ・スーメレェの視界の外にまで飛び出す勢いで跳躍して、斬撃から免れる。
「防げないが、避けられる」
「っ!?」
だけでなく、俺が以前やっていたように重力制御とゲートの合わせ技で以って空中跳躍からのシュウ・スーメレェへの落下で高速移動。
返す刃で次の攻撃を仕掛けようとしたシュウ・スーメレェの腕へと蹴りを叩きつける。
流石のシュウ・スーメレェと言えども、体勢を整えていない状態で、人外の筋力で蹴られればただでは済まないらしく、感触からして骨は確実に折った。
「~~~~~!」
そして、そのまま背後へ。
反撃として放たれたブラスターを回避しつつ、シュウ・スーメレェの視界外へと再び移動する。
うん、此処までの時点でよく分かる。
ヴィリジアニラの視力と身体制御能力に、パワードスーツの俺が持つ規格外の身体能力が組み合わさった結果として、俺自身が操るよりもはるかに強くなっている。
なお、念のためにだが、外に流す声はヴィリジアニラの呟きを俺の声に変換して流している。
動きだけなら中身が変わったことは明らかだが、声が同じなら直ぐにはそうと分からないだろうしな。
「ふざっ、ケルナ!」
「ああそれと、弾くことも出来るな」
「っ!?」
身体制御modの応用だろう。
シュウ・スーメレェは素早く折れた右腕を繋ぎ直すと、刀を振る。
が、行動の始点も、刀の軌道も見えているヴィリジアニラに対して、拳が届く距離でそれは通用しない。
振られた刀の腹を正確に叩くように、かつ直接触れはせずに拳の甲に準備しておいた力場生成modでもって、刀を弾き、体勢を崩す。
「ふんっ!」
「ーーー!?」
そして放たれるのは背部に仕込んである四本の触手を右腕に絡ませた上での、通路の床を叩き割るほどに力強い踏み込みから放たれる全力のパンチ。
生半可な金属塊程度なら一発でスクラップになるような一撃はシュウ・スーメレェの腹へと突き刺さり、キロメートル単位でその体を吹き飛ばす。
感触からして背骨、腰骨、内臓の幾つかを粉砕した感触はあるが……、まあ、この程度で死ぬ宇宙怪獣ではないな。
「追撃だ」
それを分かっているから、ヴィリジアニラも追撃の為に突っ込む。
背部の触手も足のように使って、先ほど以上の加速で以って宙を駆けていく。
「我らのが……」
対するシュウ・スーメレェも……普通に宙に立ったな。
何のmodを利用したのか、応用したのかは流石に分からない。
そして、迎撃の為にブラスターを放ち、銃口の大きさを無視したシュウ・スーメレェの上半身が隠れるほどに大きな光線が放たれるが……ヴィリジアニラの目にはどの程度の規模で来るのかまで見えていたのだろう、難なく軌道を変えて避けている。
なお、突き抜けた先、俺たちの背後では『ジチカネト』の外壁に大穴が開いている。
「速い!」
で、この一撃は僅かながらにでも時間を稼ぐための物であったらしい。
シュウ・スーメレェは自分の視界を完全に隠すように、刀を振り上げつつある。
なるほど、見たままに斬ると言うmodなら、確かにそれが最も殲滅能力が高い。
振り上げ切る直前まで、コチラの姿をしっかりと認識していれば、絶対に避けられないのだから。
だが、俺単体ならともかく、ヴィリジアニラ相手にそれは最悪手だ。
「見えなければ斬れないのに、視界を隠してどうする?」
「!?」
今この瞬間だけはシュウ・スーメレェの気持ちがよく分かる。
あり得ない、これだ。
だが、そのあり得ないをヴィリジアニラは実現した。
だから、俺の拳は刀を振り上げ切った直後のシュウ・スーメレェの顔面に叩き込まれている。
「何が……!??」
「悪いが、俺とお前の相性は最悪と言ってもいい」
俺の体の輪郭がぼやけ、姿が不鮮明になる。
透明になったわけではない、その場から消えたわけでもない。
ただ体表の色を変えただけ。
ただし、シュウ・スーメレェの視界から見える光景をヴィリジアニラが逆算、結果を反映する事によって、背景と完全に同化してしまっているのだが。
「だったラ……!?」
「ならば近寄って斬ればいい? それはもうやった事だ」
接近して斬ろうにも、その刀は弾かれて届かない。
ブラスターを撃ち込もうにも、その被害範囲は正確に予想されて届かない。
目に正しく映らない以上、斬る対象を定めることは出来ない。
能力の発展系なのか、パワードスーツの俺に入れ替わる前の俺をイメージして切り裂いてきている気配もあるが……パワードスーツの操縦手は俺ではなくヴィリジアニラだし、パワードスーツに中身なんて無いし、エーテルスペースにまで攻撃は届かせないしで、通用していない。
ヴィリジアニラが操るパワードスーツの俺の拳だけが届いて、シュウ・スーメレェのリソースを削り取っていく。
「シュウ・スーメレェ。お前の事を哀れだとは思う。だが、帝国に仇為すと、お前が自分の在り方を決めたのならば、俺には叩き潰す以外の選択肢はない」
「我ノ……シュウ様の……スーメレェの……復讐が……」
そして、ようやくではあるが、俺の本体で生成していた、対宇宙怪獣シュウ・スーメレェ用の毒modが完成した。
既にシュウ・スーメレェの全身はボロボロになっており、全身から出血するだけでなく、力が入らない部位が重力に引かれるだけになっている。
無暗に苦しませる意味がない事は、俺もヴィリジアニラも同意見だ。
「赤髪の墓荒らしめ……人の皮を被ったケダモノめ……それを人間として扱う社会め……」
だから、右の拳に毒が装填されて、躊躇いなく拳は引かれる。
「眠れ」
「皆、呪われろ。永劫に」
拳がシュウ・スーメレェの頭を叩き潰す。
注入された毒modが即座にシュウ・スーメレェの全身とOSへと巡って、後からの検分も許さないほどに破壊していく。
「呪いか……まあ、受け取る部分があるのは否定しないが」
そうしてシュウ・スーメレェの体は消え去った。
塵一つ、呪い一つ残さないように。
03/01誤字訂正




