206:見たままに
本日は二話更新です。
こちらは一話目です。
「斬られ……」
人形の俺の体が崩れ落ちていく中、俺の頭の中では何をやられたのかについての思考が激しく巡る。
刀の延長?
違う、マガツキ改めシュウ・スーメレェが手にしているの長さは変わっていない。
力場の生成?
違う、切断部位に圧力は感じず、斬られたと言う結果だけを押し付けられたような感覚であり、シールドmodが働いていない。
OSの作用と押し付け。
肯定、これは行われていると言うか、そうでなければ説明がつかない。
シュウ・スーメレェの表情は分からない。
これが意図した結果なのか、偶然なのか、想定していない力の発露なのか、何も窺えない。
「これ……はっ……!?」
重量のバランスで斬り飛ばされた上半身が反転し、俺の背後の空間を瞳に映し出す。
そこに映っているのは、シュウ・スーメレェが宇宙怪獣となった瞬間にこの場へと入り込んできた帝国軍兵士たちと兵士たちだったものの姿。
巨大な何かに押し潰されたようなものも居れば、首から下が消し飛んだものも居るし、逆に何故か上半身だけが消し飛んでいるものも居て……無傷なものも居る。
特に、俺の体で隠れる位置の扉から出て来た者たちは、ほぼ無傷と言っても過言ではなかった。
ああなるほど、理解した。
「死ネ。人間と言うダケで罪ダ」
シュウ・スーメレェが振り払った刀をしっかりと握りしめ、頭上に掲げる。
「ふざけたことを言うな。人間であるだけで罪なんてあるわけないだろ」
「!?」
そして、それが振り下ろされる前に、俺は前の人形を消し、新たな人形をシュウ・スーメレェの背後に出現させてチタンスティックを振り、頭を横から打つが……手応えは硬い。
まるで金属の塊に叩きつけたかのようだ。
が、衝撃はあったようで、少しだけ吹き飛ばされ、刀の振りは止まり、よろめく。
「? どうなっている?」
「それはこっちの台詞だ」
さて、シュウ・スーメレェの能力の一端は理解した。
が、これを口にしていいかどうか。
ある意味では、シュウ・スーメレェは生まれたばかりの宇宙怪獣であり、自身の能力把握を仕切れていない可能性がある。
そこで俺がお前の能力はこう言うものだと説明する事は、能力を歪な形で固定化できる可能性があると同時に、理解を促して発展させてしまう可能性もある。
俺が思っている通り……人間限定かつ刀を使う必要があるが、見たままに切り裂き、ひき潰す……と言う能力を発展されると、メーグリニアのように碌でもない方向に強くなりそうだしなぁ……。
「帝国軍兵士に告げるぞ。普通の人間が何人居ようがどうにもならない。寄越すなら無人兵器だ。扉にロックをかけて、送り込め」
悩んだ末に俺は端的に伝える事にする。
そして、兵士たちは直ぐに動き出し、広大なこの空間に居る人型の生物は俺とシュウ・スーメレェだけになる。
「今度こそ殺す」
「やれるものならやってみろ」
シュウ・スーメレェが刀を振るう。
それを俺は人外の素早さで以って視界外まで飛ぶことによって回避。
それから、跳ね返るようにシュウ・スーメレェに向かって飛び込む。
「死ネ」
シュウ・スーメレェが横なぎに刀を振る。
その前に俺は体を掻き消し、シュウ・スーメレェの背後に転移する。
「くたばれ」
全力でチタンスティックを振り下ろす。
やはり手ごたえは硬く、有効打になっている気配はない。
「軽い。だが斬れない。ならこうだ」
「!?」
シュウ・スーメレェが左手のブラスターを逆手に握って発射する。
当然のようにシールドを貫通してきた光線は俺の体を貫き、圧倒的な熱量によって体を爆散させる。
「「「一発で駄目なら何発でもってな」」」
「!?」
その爆発に紛れ込ませる形で俺は八体の人形を同時に表へと出すと、シュウ・スーメレェに向かってチタンスティックを全方向から突き出す。
素材の差か、OSの差か、刺さりはしない。
だが、文字通りの同時攻撃によって叩き込まれた衝撃は、シュウ・スーメレェの体内で重なり合って、増幅し、乱雑な連打よりも効力を発揮する。
致命傷には程遠いが、それでも多少のダメージにはなった事だろう。
「そうか、何人も居るのか。なら全員まとめて死ネ」
「「「!?」」」
シュウ・スーメレェの反撃が来る。
目の前に居た一人が刀で断ち切られる。
それだけで……同時に出していた人形が全員一斉に斬られた。
なるほど、見たままの光景で斬れると言うのは、見たものと同じ姿をしているものが居ると言う認識で斬れば、その同じものまで斬れると言うものであるらしい。
此処まで来ると斬撃の延長と言うよりは、呪いのような、非物理干渉系の、現代の帝国科学では効果不確かなmodの方が近いのかもしれないな。
幸いなのは、俺の人形と本体は姿が大きく異なっている上に、OSが『バニラOS』とも違うし、異相空間でもあるおかげで、俺の本体までシュウ・スーメレェの呪い斬撃は届かないと言う点。
シュウ・スーメレェのOSやmodの解析をしている感じだと、現状ではと言う但し書きも付きそうだが。
「これで増殖男は……」
「勿論終わってない。悪いな」
「……」
さてどうしたものだろうか。
とりあえず放置は厳禁だ。
俺の思っている通りなら、シュウ・スーメレェは映像一つあれば、後は十分なエネルギーさえ確保すれば、帝国要人をどこからでも殺せるような危険な宇宙怪獣である可能性が高い。
だが、真正面から挑むにはこちらの火力が足りないし、本体を出すのはリスクが高すぎる。
今はまずシュウ・スーメレェが立つ足場の裏側に次の俺を出し、声を出させることで足を止めさせたが……。
『サタ、準備が出来ました』
ヴィリジアニラの声がした。
どうやらパワードスーツの俺をヴィリジアニラが操る準備は出来たらしい。
パワードスーツの俺の準備と防護策も……たぶん大丈夫。
『リスクがあるぞ。最悪、貫通して斬られる』
『それも覚悟の上です。サタたちには悪いと思いますが、此処で退くわけにはいきません。今は帝国の危機ですので』
『分かった。なら俺はシュウ・スーメレェのOSの解析に頭を向けるから、パワードスーツの俺の制御は任せた』
護衛失格とか言われそうな案件ではあるが、仕方がない、か。
俺はこれまでの戦闘中に取得した断片から、シュウ・スーメレェのOSの解析と専用毒modの構築を始める。
「何処に居る?」
「此処だよ。さあ、第二ラウンドだ」
そして、シュウ・スーメレェの背後に、ヴィリジアニラが操るパワードスーツの俺が現れて、拳を振り下ろした。




