204:帝国軍VSマガツキ ※
本話は第三者視点となっております。
「目標を発見! 至急応援を頼む!!」
シブラスミス星系第六プライマルコロニー、コロニー外建造巨大構造物専用港。
現在は帝国の最新鋭戦艦となる予定である『ジチカネト』を建造するために必要な物資と人員をやり取りする事に専念している港で、その戦闘は起きていた。
「何人やられた!?」
「出会い頭に二人、その後避け損なったのが……五人、累計で七人ってところだな」
「クソったれ。刀一本で軍人七人斬り殺すとか、どこの映画かアニメから出て来やがった」
「あながち間違いじゃねえな。なにせ相手は宇宙怪獣様だ。俺ら一般軍人からすれば、本来スクリーンの向こう側の存在だよ」
戦場に居るものの片方、集団の方は港の警備を任されていた帝国軍の部隊。
彼らは最新鋭のブラスターを手に持ち、軍服を身に着け、各種modを展開し、全員で一個の生物であるかのように連携が取れた動きで以って、自分たちを鼓舞する軽口と共にブラスターを放ち続けている。
「……」
対するは一人のエルフの少女。
その顔は潰され、焼け爛れたかのように歪んでおり、緑色の瞳に意志の光は感じられない。
右手に持つは一本の刀、左手に持つのは違法改造された痕跡が見えるブラスター、衣装も含めて身に着けているものはいずれも血塗れであり、周囲には独特の臭気を放っている。
その姿は少女がこの三日間どうやって生き抜いてきたのかを窺わせるには十分なものだった。
エルフの少女の名前はスーメレェ・コモン・クランレス。
手にしている刀の形をしている宇宙怪獣マガツキに操られている少女だ。
「斉射用意! 撃て!」
「!?」
スーメレェは本来は被害者と言ってもいい少女相手ではあるが、それを操るのが宇宙怪獣であり、しかも敵対的となれば、手加減などしてはいられない。
故に帝国軍は容赦なく軍用かつ高グレードのブラスターをスーメレェに向けて照射する。
その火力は人間一人が相手であれば、容易にシールドを破壊し、そのまま殺害することが出来るようなものだ。
「……」
「クソ。戦艦用のシールドでも積んでいるのか、あの女は!」
が、スーメレェの体には傷一つない。
三日間の潜伏中に非合法組織から奪い取って来た、違法かつ本来ならば戦艦用のシールドmodを無理やり運用する事で、大半のブラスターを無効化したからだ。
そして、特に弾幕が厚かった方向に向けてはマガツキを振るう事で、放たれたブラスターを両断、破壊し、凌ぎ切ったのだ。
「と言うか、何本かブラスターの光線を叩き切ってたぞ。どこのフィクションだ」
「負けるなフィクション! 現実に生きる俺たちがツラくなる!!」
「泣き言言ってないで撃て! 撃てぇ!!」
「防いだってことは、防がなきゃ拙いって事だ! 構わずぶち込め!!」
「……」
だが、その事実に怯むことなく帝国軍はスーメレェに向けて次の攻撃を撃ち込んでいく。
これ以上攻撃を受ければただでは済まないと、スーメレェの体を操るマガツキも回避を選択し、港内に存在しているコンテナなどを遮蔽物として逃げ、シールドが回復するまでの時間を稼いでいくと共に距離を詰めていく。
「っ!?」
「……」
そうして一番距離が近かった帝国軍の兵士の下にまで駆け寄り……。
『総員に告ぐ。許可が下りた! 施設損壊を気にする必要なし!』
「そいつは感謝だ!」
「ッ!?」
兵士はフロアの床を砕くような勢いで後方へと跳躍して、振り下ろされつつあったマガツキの刃から逃れる。
と同時に、それまで兵士が居た場所が爆発して、スーメレェの体を吹き飛ばす。
「……」
『最悪、港ごとで構わん! 確実に仕留めろ!!』
「「「了解!!」」」
床に叩きつけられたスーメレェは直ぐに立ち上がり、次の獲物に向かって襲い掛かろうとする。
だがそれよりもはるかに早く状況は変化する。
「!?」
港の中に何十何百と言う鉄板が放たれ、降り注ぐ。
一つの鉄板のサイズは2メートル四方程度であり、直撃すれば当然ながら無事では済まない。
自分へと襲い掛かってくるそれらをマガツキは次々に切り裂いていくが、刃が届かない位置にある鉄板はフロアの床に突き刺さり、込められていたmodを展開していく。
この間に帝国軍の兵士たちは既に港の外へと逃げ出しており、マガツキが次の兵士を斬るためには鉄板の雨を抜ける必要があった。
だからマガツキは鉄板を一刀の下に切り裂き、先へ進もうとして……ぶつかる。
斬ったはずの鉄板が、その場から動かせなかったがために。
『ふふっ、切れ味の良すぎる武器と言うのも困りものだな』
「……!?」
鉄板に込められていたmodの正体は四辺の空間固定。
つまり、一度斬られた程度では、依然として壁として機能し続けるものであり、今回のマガツキ対策として第六プライマルコロニーで用意しておいた策である。
『悪いが攻撃をされてなお、かけるような慈悲は我々にはない。くたばれ』
そうして足を止めたマガツキとスーメレェへ向けて、更なる鉄板、特定範囲内の温度を上昇させる熱操作mod、空気の組成を致死性の物へと変更する空調mod、重力を強めるように変更された重力modと言った、港の損壊を気にする必要が無くなった帝国軍による避ける手段のない攻撃が注がれていく。
それは正に帝国軍と言う集団だからこそ持ち得る、多種多様な力による暴力と言っても過言ではなかった。
「ーーーーー!」
そのような状況でマガツキが取れる手段は唯一つ。
転移によるその場からの離脱だった。
異相空間を経由する事で、超長距離を移動する技術は、帝国にはハイパースペースを利用した物しかなく、ハイパースペースとは別の異相空間を利用するマガツキの転移を止める手段は帝国軍には存在しない。
そもそも、無限と言ってもいい数が存在する異相空間への移動を妨げるのは現実的ではなく、阻むのであれば、事前に向かう異相空間の座標とでも言うべきものを知らなければ、妨害など
出来るようなものではない。
本能的にそれを知っていたからこそマガツキは自らの異相空間へと飛び込み……。
「かかった」
サタの仕掛けた網にかかり、マガツキとスーメレェの体に耐えがたいほどの激痛が走った。




