203:マガツキとスーメレェは何処に?
「それにしても三日っすかぁ。普通の人間は三日飲まず食わずだと相当ヤバい状態になるっすよね?」
「らしいな。と言うか水抜きだと、一日保つかどうかも怪しいとは聞いたことがある」
マガツキとスーメレェが何処で何をしているのか、それを考える上で重要なのは、スーメレェの健康状態だと思う。
マガツキが自身の身体制御modを用いて人間に干渉する場合、メモクシが常時展開している『異水鏡』に引っかかるのは知っての通り。
となれば、個人コロニーから逃げ出したマガツキが使い手をスーメレェから変えていない事はほぼ確定。
また、身体制御modの応用で以って、通常ではあり得ないような挙動を取らせている可能性も低い。
ほぼ間違いなく、今のスーメレェは普通の人間か……個人コロニーでの扱いも考えれば、普通の人間以下の体力状況にあるはずだ。
「捜査当局から送られてきた資料通りなら、個人コロニーから脱出した時点のスーメレェは衣服すらも身に着けていなかったはずです」
「チェンジリングで置かれたスーメレェそっくりの人造人間が既に死んでいて、公的にはスーメレェは既に死んでいる存在になっている事を考えれば、公的機関を頼る事も出来ませんね。そうでなくとも頼れない状況ですけど」
体力なし、食料なし、衣服なし、金銭なし、支援なし。
そんな状況で三日間か……。
うーん、俺にはちょっと想像がつかないな。
必要なものがあるなら、エーテルスペースで生み出してしまえばそれで済むから。
ただ、普通の人間なら死んでいてもおかしくなさそうな状況なのは分かる。
「やっぱりどこかでミスって死んでいる気がするっす」
「そうでなかったら、第六プライマルコロニーの裏組織的なところで殺人事件の類が発生してそうな気がする」
「この手の事情に疎い方が保護している可能性も一応ありますよ?」
「ヴィー様。その場合なら素直にシブラスミス星系の政府に連絡を入れているかと」
「いえ、案外居るそうなんです。そう言う善意の方が」
うーん、善意の協力者か……。
まあ、居てもおかしくはないよな。
セイリョー社の人たちだってある意味そうなわけだし、スーメレェの手元にマガツキがない状態なら、俺だって最低限の施しぐらいは与えると思う。
ただ、俺だったら、保護した後にメモクシの言うように政府に連絡を入れるだろうけど。
ニリアニポッツ星系じゃないんだから、政府は信頼できるはずだ。
そうでなくとも、知り合いの機械知性くらいは探して頼る。
下手な人間より、信頼が置ける種族だからな。
でも、政府にもメモクシにも連絡が入ってこないなら……うーん、ジョハリスの言う通りに死んでいるか、あの個人コロニーの連中の関係先あたりに乗り込んで、そこで人知れずに暴れ回ってから休息を取っている事になりそうだ。
「ところでサタ様。殺人事件が発生しているなら、『異水鏡』に反応があるのでは?」
「いや、『異水鏡』はあくまでも異なるOSの稼働を捉えるだけだからな。マガツキの場合、マガツキ自身のシールド貫通modや身体制御modを使わないなら、反応はない」
「その場合、スーメレェ自身が結構な武闘派って事になってしまいそうっすけど、そう言う情報はあるっすか?」
「少し待ってください。改めて確認してみますが……そう言う情報はないですね」
改めてスーメレェの経歴書を確認してみる。
ああ確かに、刃物を取り扱う経験もそうだが、格闘術やブラスターの技術を学んだ形跡もないな。
ただ、マガツキには身体制御modの応用で思考の書き換えがあるからな……そこで技術をインストールしてしまえば……うーん、出来るのか?
理論上で出来るかの検証をするには、ちょっと資料が足りないな。
「ですが、裏組織に入り込んでいるくらいは……いえそれでもマガツキをどうするかと言う問題がありますね。マガツキ視点だと、刀の自分こそが本体なわけですから、何処かに置き去りと言うわけにもいきませんし」
「うーん、本当に何をやっているのやら……」
「謎ばかりっすねぇ。現地で捜査している人たちの苦労が偲ばれるっすよ」
うーん、あれもこれも可能性としては挙げられるのだけど、と言う感じだな。
これはもう本人が出てこない限りはどうしようもないのではなかろうか?
「このまま行くと今日も何事もなく……」
さてどうしたものかと、俺の思考は再び変な方向へと巡り始めようとして……。
「感有りです。ジョハリス様」
「分かったっす!」
「「!?」」
状況が動いた。
メモクシが声を上げ、ジョハリスがメモクシの中に入ったという事は、『異水鏡』に反応があったという事だ。
「サタ」
「分かってる。念のために温室へのゲートは作っておく。俺が第六プライマルコロニーへと飛ぶのはそれからでいい」
メモクシたちが相手の位置を精査している間に、俺は部屋に温室へのゲートを作成。
必要ならばヴィリジアニラが温室にあるコクピットへと向かい、パワードスーツの俺を操作できるように準備だけしておく。
「そうですね。それも必要です。ですが、連絡が来ました。第六プライマルコロニーの『ジチカネト』建造に関する専用港にて、マガツキらしき刀を持っているエルフの少女と遭遇。現地の警備部隊との間で交戦が始まったとの事です」
「ヴィー様の言葉に補足しますが、マガツキで確定です。『異水鏡』に反応があります」
「思いっきり暴れ回っているっすね」
「分かった。本体はそちらへと向かわせておく」
どうやらマガツキは第六プライマルコロニーで暴れているらしい。
そして、俺の本体がエーテルスペースを進んで第六プライマルコロニーに向かっている間に、メモクシ経由で現地の映像が入ってくる。
そこに映っていたのは……。
顔が焼け爛れ、潰された状態と言っても過言ではない状況になっているエルフの少女が、マガツキとブラスターを手に十数人の警備部隊とやり合っている姿だった。




