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サタヴィーの宇宙帝国漫遊記  作者: 栗木下
5:シブラスミス星系
199/319

199:人の皮を被ったケダモノ

「「「……」」」

 この部屋で行われていたことを理解した帝国軍の軍人はこう呟いた。


 このコロニーを支配していたのは人間ではなく、人の皮を被ったケダモノだ、と。


 俺はその言葉に全面的な同意を示す。

 あまりにも常軌を逸した光景が広がっていたからだ。


「はぁ……。私たちは……帝国は……もっと早くにこのコロニーへと踏み込むべきだった。証拠がないからと見逃すべきではなかった」

 切り裂かれた金属製の檻、その中で倒れているエルフやドワーフと言ったヒューマン以外の種族である裸の少年少女たちについては、宇宙怪獣マガツキに斬り殺されただけだ。

 その表情は正面から殺されたのに、何処か救われたようなものだったが。


 部屋の片隅には人造人間製造装置が置かれていた。

 当然ながら違法な物であり、オリジナルとなる人間の体組織を基に、数日だけ生きられる赤子のような人造人間を作り出すと言う悪辣な物だ。


 部屋の中央にはどう使われていたのかを語るのも悍ましい器具が幾つも置かれ、吊り下げられている。

 そして、何が行われていたのかを記録し続けるカメラが何台も、部屋の中心へと向けられている。


 記録されている映像を見た軍人の大半は吐くか、怒りに震えるか、酷いものは卒倒した。

 文字通りに、見るに堪えない、光景が映し出されていたからだ。


「正直な意見として、マガツキの方がよっぽどマトモなんじゃないか? 現状は目的不明で、意思の疎通も図れない相手だけどさ」

「誠に遺憾ながら、私も同意せざるを得ない。マガツキはこれまでから見て我々と敵対しているし、最終的には倒さなければいけない相手だが、それでも此処の連中よりははるかにマシだと思う」

 弾圧派と呼ばれる連中の中でも、此処に居るのは特に異端の連中だったことだろう。

 こんな連中が主流なら、今頃帝国は弾圧派の兆候が見えただけで、総力を挙げる体制になっている。


「「「……」」」

 暗く、重い、沈黙が降りる。


「小隊長さん。被害者の方には申し訳ないですが、俺は俺の仕事をします。此処の連中は許しがたいが、それはそれとして、マガツキを追うのが俺の仕事なんで」

「分かっています。サタ殿はご自身のお仕事を。彼ら彼女らの収容はこちらでやります」

 だがそれでも自分の役目は果たさなければならない。

 だから俺は部屋の中を見ていく。

 マガツキによって斬られたものの順番を見ていき、最後に斬られたものの前に立つ。


「此処がそうか」

 痕跡は分かり易いほどに残っている。

 マガツキが自身のOSの領域を大きく展開した痕跡も、大量の血を門とした転移が行われた痕跡も、中に死体の無い檻と檻の外で腹を割かれて死んでいる人間が居ると言う状況も、全部残っている。


「この男はヒューマンだし、コロニー側の人間だろうな。マガツキによる身体制御modの痕跡もある。となれば、最初にこいつがマガツキを拾って、どうやったのかは分からないが、一人の生存者も許さずに皆殺しにした。と言うところか」

 檻の外に居る男は自分で自分の腹を割いたように傷がついている。

 だが、その近くに凶器となるような刃物はなく、代わりに檻の中へ向かって何かを差し出すように腕を伸ばし、息絶えている。


「檻に居たのが誰なのかは……まあ、あの陰鬱な記録から確認するしかないだろうな」

 他の檻と違って、何かを差し出された檻は傷一つ付いていない。

 だが、血の残り方や状況から、中に誰かが居たことは間違いない。

 となれば、檻の外で死んでいる男から、檻の中に居る誰かへとマガツキが渡されたことはほぼ間違いないだろう。

 そして、マガツキを手にした誰かはOSの領域を広げ、自分の正確な所在や転移先を悟られないようにした上で逃げ出したのだろう。


「転移先は……使い捨ての異相空間であること以上は分からないな。だが異相空間の座標自体は使い回しなのか。となれば、俺が先に展開しておいてもマガツキが変わらずに使う可能性は高いし、罠を張っておく価値はあるな」

 檻の中の床に広がっている血を少し舐める。

 それだけで、マガツキの転移がどのようにして行われたの解析が始まる。

 うん、必要な情報は得られた。

 なので、この個人コロニーを訪れた目的の最低限はこなせたと言えるだろう。


「これでよし、と」

 とりあえずマガツキの使う異相空間に罠は張っておいた。

 俺特製の墨と毒を合わせた網で、かかればマガツキが宇宙怪獣と言えどもただでは済まない。

 それと折角だからヘーキョモーリュの球根を粉末状にしたものも混ぜ合わせたので、身を隠して逃げることも困難になるだろう。

 本来使い捨てにされるべき異相空間を維持し続けるのは少々骨ではあるが……マガツキの凶行は止めないといけないので、これくらいは頑張る他ないだろう。


「サタ殿の目的は達する事が出来た。と言う顔ですな」

「ええなんとか。ただ、マガツキの行先を直接追えるようなものではなかったので、第六プライマルコロニーと『ジチカネト』の内部で警備をしている人たちには頑張ってもらう事になるでしょうが」

「それぐらいは喜んでやらせてもらいますとも。きっと、誰でもそう答える事でしょう」

「ありがとうございます」

 さて、必要な情報を得ることは出来た。

 罠も張った。

 後はマガツキを追い詰められれば、何とかはなる事だろう。

 そして、マガツキを追い詰めるのは、俺よりも帝国軍や警察の方が適任だ。


「では俺はこれで。ヴィー様に報告する必要もあるので、一度戻らせてもらいます」

「分かりました。ただ、伝え方にはお気をつけを。この場はあまりにも衝撃的すぎる」

「そうですね。気を付けたいと思います」

 俺は個人コロニーに居る人形を消し去り、新しい人形をヴィリジアニラの下へと送った。

Q:何が行われていたの?

A:人間の手で行える範囲の『土蛇』と『天沢館』。つまり、詳しく描写すると怒られるレベルの行為。

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[良い点] 一様土蛇は所業はともかく根底に有るのは愛だから(震え) [気になる点] この状況で宿主にされた人間の思考がマガツキに悪影響与えそうで恐ろしい
[良い点] ヒトの心を持った怪物とケダモノに堕ちたニンゲンのネタ好き [一言] 作者さんのノクターン作品への誘導ありがとうございます
[一言] なるほど、つまりは性癖か
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