198:ブラッドコロニー
「っ!?」
「味方だ。安心しろ」
「何もないところから……」
「これが宇宙怪獣……」
俺が転移したのは個人コロニーに接舷中の帝国軍宇宙船、その倉庫部分の指定されたポイントだ。
突然現れた俺に対して思わずブラスターを構えてしまった人間が居たが、それは初めて間近で予兆の無い転移を見た人間としては極めて正常な反応なので、俺から何かを言う事はない。
「サタ・セーテクスです。主であるヴィリジアニラ・バニラゲンルート様の要望で帝国軍に協力をさせていただきます」
「ありがとうございます。私は当艦の艦長の……」
と言うわけで、お互いに名乗り、状況のすり合わせ。
それによればだ。
帝国軍は一応個人コロニーに対して、犯罪者が入り込んだかもしれないと言う名目の下に、内部監査をすることを伝えたらしい。
が、個人コロニーは申し出に対して受け入れも、拒否も無しで、完全に無視の状態。
より正確に言えば、無視ではなく通信の途絶と言うべき状態になった。
なので今は強行突入をして、中の状況を改めているようだが……中々に凄惨な状況になっているようだ。
「なるほど。では既に宇宙怪獣マガツキと名付けられた刀はコロニー内には居ない可能性もあるのですね」
「そうです。ただ、あくまでも可能性なので、油断はしないでください。宇宙怪獣は何でもありだと考えた方が妥当ですので」
「分かっていますのでご安心を。それと、宇宙怪獣は何でもありと申しますが、行動すればするほどに証拠が残るのは人間と変わらないのでしょう? ならば、我々の役目は重要なものとなるはず。全霊を尽くさせていただきます」
「ありがとうございます。こちらとしても、安心できます」
で、こちらからも既にマガツキが別の場所に逃げている可能性については告げる。
うん、流石は帝国軍人。
既に相手がこの場に居ない可能性程度では警戒を緩めないし、今後を考えればここの探索こそが重要である事もよく分かっているようだ。
「では中へ。気密服などは……」
「要らないのでご安心を」
「分かりました」
では、すり合わせも終わったところで個人コロニーの中へ。
なおここで俺に対応する人間は艦長さんから、コロニー探索を担う無数の小隊の中から一小隊が選ばれ、その小隊長さんへと変わる。
で、軍がぶち破った扉から中へと入り、エアロックを抜けて、コロニー本体に着いたわけだが……。
「これは酷い。嗅がなくても分かるぐらいに血の匂いがする」
「私も帝国軍人を長く勤めていますが、ここまで酷い現場は覚えがないですね」
一言で言えば、惨状。
床や壁、天井ごと切り裂くような刀傷が幾つもあると同時に、刻まれた刀傷よりも多い数の死体が転がっている。
そして、その死体から流れ出た血はコロニーの内側を真っ赤に染めていて、鉄臭い独特の香りがコロニー中に染みついている。
「これは、今回の任務が終わったら気密服は全とっかえで、隊員は全員、感染症の検査を受けるべきでしょうね」
「まあ、そうでしょうね。俺もこのコロニーの捜査が終わったら、今使っている体は廃棄する事になるでしょう」
小隊長さんと愚痴をこぼしつつ、俺は死体の一つを確認。
うん、頭頂部から股間に向かって一閃し、奇麗に真っ二つ。
明らかにマガツキの仕業だな。
「しかし、死体の数が思ったよりも多いですね。個人コロニーでも管理の為に各種人員は必要だと聞いていますが、こんなに多いものなのですか?」
「普通はもっと少ないです。コロニーの所有者は一応、稼いでいる個人投資家なんで、宙賊を含めた怪しい連中対策で護衛や警備を雇っていた可能性もありますが、それを含めてなお多いんで……まあ、何かはあったのでしょうな」
俺たちは奥へと向かっていく。
死体の状態は……見るからに普通の作業員、ガタイがいい感じの警備や護衛っぽい人間、おっと、身なりが良いのも居るな、商談か友人か……まあ、奇麗に胸部を横に真っ二つにされて、即死しているのだが。
とりあえず、死体状況からして、外から入ってきたマガツキの所有者から逃げるように奥へと向かっていっている感じはある。
気になるところだと……このコロニーの所有者が弾圧派であると言う事前情報があるからこそ気になるのだろうが、転がっている死体は全員ヒューマンのものだな。
ドワーフやエルフは一切含まれていない。
「……。はい。分かりました」
「どうかしましたので?」
「コロニー所有者の死体が発見されたそうです。執務机と椅子ごと真っ二つにされていたそうです」
「逃げなかったんですか?」
「入口の方に背を向けていたとの事ですんで、普通に行くなら侵入者に気づかずバッサリですかねぇ。これ以上は現場を見ていないんで何とも」
と、そんな事を思っていたら、このコロニーの所有者の死亡が確認されたらしい。
うーん、騒ぎに気付いていなかったのだろうか?
マガツキの切れ味は凶悪だし、マガツキ視点の持ったと言う概念を満たした人間を自分の手足にしてしまう身体制御modも危険極まりないが、逆に言えばマガツキの力はそれだけで、異常を知らせる時間ぐらいはあったと思うのだが……。
「そう言えば生存者の類は?」
「現状では一切確認されていないそうです。隠し部屋らしき怪しげな部屋も見つかってきているそうですが、そちらの中に潜んでいた人間も全員奇麗に斬り殺されているそうで」
「……。なんか地味におかしな状況になって来てますね」
「……。そうですね。外に異常を知らせるのはコロニー内の事情的に嫌がったとしても、備え付けの脱出ポッドで逃げ出している人間くらいは居てもおかしくないはずなんですが……」
俺と小隊長さんは慎重に奥へと進んでいき、制圧済みの部屋を一つずつ改めていく。
万が一を考えて、他の小隊に、宇宙船の艦長とも密に連絡を取り合って、お互いの無事を確かめながら進んでいく。
そして、この個人コロニーの主が何をしていたのかを示す部屋に辿り着いた。