192:サタにブラスター
「改めて言っておきますが、俺が安全だと言わない限りは決して部屋の中には入らないようにお願いします」
「分かりました。誰も入らないように私の方からも注意を払っておきます」
通された部屋は、ブラスターmodの試射室で、軍用個人向けのグレード5ぐらいまでなら幾ら撃ち込んでも大丈夫なようにシールドmodが展開されている。
対して俺が持っているのは小型拳銃型のブラスターmodで、品質は民生品、個人向けのグレード1、つまりは最弱のブラスターmodであり、殺傷モードで人に直撃しても全力で殴られた程度の爆発しか起きず、肌が多少赤くなりつつも衝撃を受けて怯むくらいの威力しかない。
俺ならばシールドmodなしでも、かすり傷すらつかないだろう。
「では」
そんなブラスターmodを俺は教本通りに……両手で持ち、脇を閉め、適度な緩さを持ちつつも腕を伸ばして、銃口を10メートルほど離れた場所にある人型の的へと向ける。
この時点で銃口は人型の的の中心……胸部の真中へとしっかりと向けられており、ブラスターmodには反動と言うものも存在しないため、後はトリガーを引く際に銃がぶれなければ、確実にブラスターは的へと命中するだろう。
そんな状態で俺はトリガーを引き……。
「逸れましたね」
ブラスターの軌跡は的の右を通り、そのまま壁に当たった。
「今度は左っすね」
二射目は一射目の鏡写しのように、的の左を通った。
「頭部……いえ、掠めたくらいですか」
三射目、的の頭部……人なら髪の毛だけを焼くような軌道。
うーん、困った事に今日は調子がいいな。
「は?」
そんな事を思いつつ放った四射目。
放たれたブラスターは3メートルほど真っすぐに飛んだ後、進路を175度ほど回転させて、俺の腹へと突き刺さった。
シールドmodが機能したので、勿論、怪我はない。
「え、は? 何が起きていて……」
五射目は空中で八度ほど折れ曲がった後に直進して天井に当たった。
「なるほど。これはセイリョー社から使わないように言われるのも納得ですね」
六射目は何故か出力だけが向上して、的の胸部が綺麗に爆散した。
「そうですね。特定の方向ではなくランダムでは、手の施しようがありません」
七射目はブラスターが球体になって1メートルほどゆっくりと飛んだ後、静かに蒸発して消えた。
「こう言う事もあるんすねぇ。modって不思議っす」
八射目は大きなカーブを描いて飛び、俺の脚の間を通った後に壁に着弾した。
「ええっ……ナニコレ……」
九射目は何故か発射点が横に1メートル程ずれた上に、ランダムな方向に10発ほどブラスターが放たれた。
「おっ」
「あっ」
「「「!?」」」
十射目はブラスターごと爆発した。
俺は怪我をしてないが……煙が酷いな。
「ゴホッ。あーまあ、こんな感じだな。ブラスターが爆発してくれたから、もう安全だ」
「サタ。その言い方ですと、ブラスターが爆発しない方が危険だったように思えますが?」
「いやぁ、セイリョー社時代にエネルギー切れを起こしたブラスターを所定の置き場に置いたら、誰も触れていないのに、ダンスをするようにブラスターが乱射されたことがあってな……」
「……。それなら確かにブラスターが爆発している方が安全ですね」
と言うわけで、ブラスターが無くなったので、今回の実験は終了である。
ちなみにだが、今回の実験中、エーテルスペースに居る本体の俺はこの部屋を取り囲むように腕を伸ばすと共に、何時でもゲートを展開出来るようにしていた。
滅多に起こる事ではないが、出力が大幅に上がった上でシールド貫通modが付与されたり、発射点が何十メートルもズレたりすることもあるので、備えは万全にしておく必要があったからだ。
「とまあこんなわけで、俺はブラスターmodを使えない訳だな」
「しかし不思議な現象っすねぇ。これ、原理的にはどういう事なんすか?」
「詳しい事は俺にも分からない。ただ、解析してくれたセイリョー社の社員曰く、俺のOS環境下だとブラスターmodの根本的な部分に破綻が生じる。しかし、その破綻が乱数を含む物であると同時に、起動そのものを妨げるものではなく、更には特殊な回路を形成するのでウンタラカンタラとは昔に言われたな」
「なるほど分からんっす」
なお、安全性を考えて、セイリョー社での実験は十数回行ったところで打ち切りとなった。
一番酷い時は……うん、発射点から着弾点までを直径とするように大爆発を起こしたんだったな。
あの時は本当に酷かった。
「ちなみにセイリョー社の方は矯正を試みましたか?」
「一応な。ランダム性が高すぎて無理だって結論になったけど」
矯正modは……幾つか試したけど、どれも効果なしだったな。
悪化した場合も矯正modのせいか、俺のOSのせいか、判別が付かなかったし。
「しかし、こうなると武装はどうすれば……」
「まあ、その辺は……」
なお、パワードスーツの俺の武装については、どれぐらいの筋力を出せるのかと、背中に生やしてある触手の硬さと長さを示したら、何も問題なしと言う話になった。
まあ、パワードスーツの俺を使うような場面なら、戦闘距離は100メートル前後程度だし、相手の攻撃はほぼほぼ無意味。
そう考えれば、自前の武装だけで十分だろう。
と言うわけで、コクピットの件をどうするかを改めて真剣に話し合い、調整を重ねる事にした。
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