191:偽装よりも
「そもそもとして、このパワードスーツ……いえ、パワードスーツに似せたサタ様の目的は何でしょうか?」
偽装については諦めた方がいいと言った担当者の女性は、パワードスーツの俺の細部を確認しながら、俺に目的を尋ねてくる。
目的か……。
「目的としては人間サイズの俺以上、本体未満のサイズの相手で、叩き潰すのではなく捕らえるのを優先したいような敵を相手取るとか、サイズ的に本体を呼び出すのに支障がある場面での戦力とか……後はメモクシたちが壁代わりにするとかもありだとは思っている」
「なるほど。では、それらをこなすのにパワードスーツであると偽装する必要はありますか?」
「……。言われてみれば……ないな」
言われてみれば確かにパワードスーツであると偽装する必要はないな。
そもそもとして、何で俺はパワードスーツだと偽装しようと……。
「そう言えば、そもそもサタが偽装しようとした理由は何っすか?」
「んー……周囲への威圧感と言うか違和感と言うか、その辺を抑えようと思っての事だな。ほら、このサイズの生物って居ない訳じゃないが、多くはないだろ? で、その時に見慣れない生物だと余計な軋轢を招くかと思った部分があるんだが……」
「必要な時に呼び出すスタイルなのでしょう? であれば、変なのが居ると思われても大した問題にはなりません。そもそも帝国貴族なら、変わった護衛の一人や二人くらい居ても、そこまで問題にはならないでしょう。だったら、偽装にリソースを割くよりも、目的達成にリソースを割いた方が効率的だと思いませんか?」
「思います」
あーうん、納得しかない。
確かにわざわざ偽装する必要はないなぁ。
「ちなみにサタ。偽装をしないならどんな事が出来るようになりますか?」
「色々と出来るな。ぶっちゃけ骨格を保つ必要もなくなるし、色についても気にしなくていいと思う」
ヴィリジアニラの言葉を受けて、パワードスーツの俺の腕に付いている甲殻が細かく割れ、関節が無くなったかのように波打ち、色は床や壁と寸分違わないものへと変化する。
「なるほど。サタ、偽装は無しの方向で行きましょう。関節なしで自由自在に動く手足に、何処でも最高効率の迷彩を纏える方が、はるかに有用です」
「そうなのか。じゃあそうするか」
「ええ、本当に有用です。ところで手足に吸盤を出して、壁に張り付いたりすることは?」
「理論上は出来るはずだな」
「ではそれも付けましょう」
「分かった」
うん、ヴィリジアニラが求めるなら、そっちの方向で行こう。
まあそれでも、普段は人型を保っておく。
そうしておいた方が、相手の不意を突くことが出来るからな。
「……。どこでも高レベルの迷彩を纏えて、壁や天井に張り付けて、筋力は宇宙怪獣……どこかのパニック映画に出てきそうな代物っすね」
「そうですね。ただ、サタ様が宇宙怪獣である事を考えれば、当然の事だとも言えます。それに迷彩と言っても、多少のmodで見破れる程度の精度ですから問題はないでしょう」
「サタっすよ? その内にこっそりと迷彩強化modとか搭載してても驚かないっす」
「だとしてもヴィー様への報告は上げるでしょうから、帝国としては問題はありませんね。いえ、精度を上げるだけなら……」
ジョハリスとメモクシが何か言っているが……まあ、気にしなくていいか。
「となると問題はコクピットとの連動か」
「そうですね。上手く連動させられて、私の目の能力をパワードスーツへと移せて、私の思っている通りに動かせるようになるのが理想的だとは思いますが……」
「んー……パワードスーツとの連動ではなく、他の生物との連動ですからね。私としても初めての作業なんでどうやれば……まあ、とりあえず、基本的な原理の説明からしていきましょう。そうすれば、サタ様の方で何か案が思いつくかもしれませんし」
担当者の女性がコクピット内の操作がどうやってパワードスーツに伝わるのかを教えてくれる。
えーと、それによればだ。
今回、ヴィリジアニラが購入してくれたコクピットの場合。
中でのレバー操作やボタン操作で動かすのが基本ではあるが、それと同じくらいにレバーや座席から伝えられる操縦者の電気信号も重要であるらしい。
なんでも、どう動くつもりなのかが曖昧にでもパワードスーツに伝わっている事で、実際に操作をした際にスムーズな動きに繋げられるらしい。
となればだ。
「うーん、俺が使っている身体制御mod、マガツキが使っている身体制御mod、両方を基に新しいmodを作って上手く噛み合わせれば、普通の人間のように動く程度なら何とかなる……か?」
「そうですね。先読みmodはコクピットに最初から入っているものを利用して、そのmodの結果と操作を電気信号に変換し、それを伝えれば、操作については何とかなるかもしれませんね」
パワードスーツが動くのも電気信号とmod。
俺が動くのも電気信号とmod。
であれば、信号の変換を上手くできれば……うん、動くことは何とかなりそうだな。
「サタ。私の目の能力をパワードスーツの目にも持たせることは?」
「そっちはちょっと無理があると思う。ヴィーの目のmodがどうなっているのか俺は知らないし、分かっても再現できる気がしない」
「そうですか……では、そちらは現状では諦めるしかありませんね」
ヴィリジアニラの目の能力をパワードスーツにも持たせることは?
うん、それはちょっと無理があるだろう。
下手に触れたら、俺の命も危うくなりそうな気がするし。
かと言って、ヴィリジアニラの視界に合わせてゲートを展開し、直接見れるようにすると言うのは……ヴィリジアニラの安全を損ねることになりかねない。
なので、この件については現状は無理としか言いようがない。
精々が、俺に出来る範囲でパワードスーツの俺の視力を上げておくぐらいだろう。
「ところでサタ様。このパワードスーツの貴方はブラスターなどの武装を持たせないので?」
「あ、あー……」
話は移って武装についてだが……武装……武装はなぁ……。
「何か問題が?」
「そう言えば、サタはセイリョー社からブラスターを使うなと言われた。そんな資料がありましたね」
「事象破綻っすか?」
「いえ、そう言う書き方ではありませんでした。サタ様、折角ですので、事情を窺っても?」
「そうだな。折角だし出しておくか。隔離されたスペースとかあります?」
俺とブラスターの間にはちょっとした問題がある。
それについて説明するなら、実際に見てもらうのが早い事だろう。
と言うわけで、俺は安価かつ低出力なブラスターmodを借りて、個室に入った。