190:パワードスーツ工房 ※
本話はヴィー視点となっております
「さて、着きましたね」
サタの温室でパワードスーツ型のサタを見た私たちは、それから一般的なパワードスーツについて知る事で、何かしらの知見を得られるかもしれないという事で、パワードスーツの工房へとやってきました。
なお、この工房は諜報部隊に縁がある工房ですが、表に出ている部分は普通の工房です。
「ではヴィー様。奥を使えるように交渉してきます」
「お願いします。メモ」
メモが私から離れて、店員へと話しかけ……そのまま通常ならばスタッフオンリーのエリアへと消えていきます。
これで、この後については大丈夫でしょう。
「サタ。パワードスーツについてはどうですか?」
「んー……ここまでしっかりと、それに細かく見る機会はこれまでになかったから、興味深くはあるな」
サタは店内に飾られている一般的なパワードスーツを観察しています。
最初は購入すれば、最低限の調整だけで直ぐに使えるものを。
次に、客の好みに応じて換装される部分のパーツを。
最後に実物はありませんが、オーダーメイドをすればどのようなものが作れるのかを。
「うーん、中々に興味深いっすね」
「ジョハリスも気になるのですか?」
「そりゃあ、気になるっすよ。ウチが使っているこれも、見方によってはパワードスーツの一種になるっすから」
「そう言えば、パワードスーツの定義から考えれば、確かにそうですね」
そもそもパワードスーツとは何か。
パワードスーツとは、簡単に言ってしまえば、人が身に纏う形で装着し、様々な能力を底上げあるいは付け足しするための装置になります。
その考え方から行けば、ジョハリスが使っている機体は、確かにパワードスーツの一種と言えるでしょう。
「これは物を掴んで斬る事に特化したアームか」
「おー、蜘蛛脚っすね。キャタピラよりも行ける場所は増えるんすよね」
もう少し乱暴な考え方をしてしまうなら、汎用性の高い重機、でしょうか。
基本的にパワードスーツは二足歩行で、多少の瓦礫は何ともしない高い踏破性を持っています。
中の人間の動作に合わせて動く腕と手も、生身の人間とは比較にならないような力を持っています。
外装はシールドmod抜きでも、多少の衝撃ではビクともせず。
感覚器も組み込むmodやセンサー次第ではありますが、生身では決して感知できないようなものまで認識可能です。
そして、どれほど傷ついても、所詮はただの機械なので、幾らでも替えが効き、修理が出来る。
そんな素晴らしい代物なのに、使われる場面が限られているのは……やはり大きさと値段の問題でしょうか。
一般的なパワードスーツだと、身長が5メートル前後はあり、横幅も相応のもの。
この大きさだと、やはりコロニーや宇宙船の細い通路は通れない事があります。
「これがコクピット部分だけを取り出した物か」
「そうみたいっすね。球体で外と完全に切り離されているものもあれば、パワードスーツの腕や脚に操縦者の手足を突っ込むのもあるみたいっすね」
「俺の場合、参考になるのはコクピット部分だけの奴だろうなぁ」
「サタ。必要なら購入しますよ。コクピット部分だけならそこまででもありませんし」
「んー……頼む」
サタが望んだので、球体型のコクピットを購入します。
これを基に改造を施していけば、メモが言っていたように温室からパワードスーツを操って、戦場に立つことも出来るかもしれません。
「ヴィー様、サタ様、ジョハリス様。許可が取れましたので、奥へどうぞ。工房の長の方が見てくださるそうです」
「分かりました。サタ、ジョハリス、向かいましょう」
「分かった」
「分かったっす」
私たちは工房の奥へと向かいます。
また、購入したコクピットについても、奥へと運んでもらいます。
「私が今回担当となった者です。ヴィリジアニラ様ならびにサタ様の事情については知っていますので、何でもお聞きください。答えられる範囲で答えさせていただきます」
出迎えてくれたのはヒューマンの女性。
服装はスーツを着ていますが、握手をした時の手の感じや、スーツを着慣れていない様子からして、普段は私のような貴族への対応よりも、現場でパワードスーツの調整を自らしているように思えます。
そして部屋の中ですが、パワードスーツの組み立てや調整のための機材が沢山ありますが、整理整頓が行き届いている奇麗な部屋です。
「ありがとうございます。ではサタ」
「分かった」
サタがゲートを開き、パワードスーツを出す……と言うより、パワードスーツ型のサタが歩いて出て来ます。
その様子に担当者の女性は……一瞬驚いていましたが、直ぐに何かを訝しみ始め、色々と気づいたのか悩み始め、それからまずは詳しく見てみようと真剣な表情をします。
「これが俺のパワードスーツと言うか、パワードスーツに似せた俺だな」
「なるほど。また、ぶっ飛んだものを……」
「えーと、とりあえずやりたい事としては、普通のパワードスーツに偽装するためにはどうしたらいいのかと、コクピットに繋げるにはどうしたらいいのかを一緒に考えて欲しい。こんな所かな」
「そうですか」
サタの言葉に担当者は少し悩み……。
「偽装についてはすっぱりと諦めてしまいましょう。そもそも不要です。なので、コクピットとの連動についてだけ考えましょう」
そうはっきりと口にしました。