189:パワードスーツのサタ
「今日はパワードスーツの工房でも見に行きましょうか」
「また唐突だな。理由は?」
「先日、メモのボディを改修しに行ったとき、パワードスーツのようなものなら作れるかと言っていましたよね。なので、どういうパワードスーツがあるか知る事は、サタにとって有益かと思いまして。もしも良いものがあるならば、改修が終わった後の『カーニバルヴァイパー』に積むのも一つの手ですし」
さて、今日からしばらくは第三プライマルコロニーで警戒しつつ待機である。
と言う状態なのだが、そこで唐突にヴィリジアニラがこんな提案をしてきた。
うーん、パワードスーツかぁ……。
「んー、提案は嬉しいが……一度、向こうの温室で俺が作っているのを見てもらった方がいいか。パワードスーツと言ってもかなり特殊な代物だしな」
「そうなのですか? では、行ってみましょうか」
「じゃあ、開くぞ」
とりあえず実物を見せた方が早いか。
と言うわけで、俺はゲートを開き、ヴィリジアニラ、メモクシ、ジョハリスの三人をエーテルスペースにある温室へと招く。
で、温室の一室に作りかけのそれを置いて、温室担当の俺がヴィリジアニラたちをそちらへと誘導する。
「これが俺の作ってるパワードスーツと言うか、パワードスーツ型の人形だな」
「意外と大きいですね」
「この見た目から生物であると判断できる人はそう多くなさそうですね」
「威圧感が凄いっすねぇ」
パワードスーツ型の俺は身長が4メートルを超える、人間としては大型のもので、パワードスーツとしては標準か少し小さいくらいの物だ。
表面は金属質の甲殻で覆われていて、全体的にゴツゴツとしている。
顔つきは俺の本体をモチーフとして取り込んでいるので、だいぶ厳めしい。
一般的なパワードスーツとの違いとしては、ブラスターの類は一切なく、代わりに背中から四本の伸縮自在な触手が生えている事か。
ああそれと……。
「ちなみにだが、一応は中に乗り込めるようになってる」
「「「……」」」
「ぶっちゃけ、中に誰かが乗り込んで操るくらいなら、この温室に操作の為のモジュールでも置いておいて、コクピットにはそこまで飛んでくるためのゲートを準備しておくけどな」
「そっちの方がいいと思います」
一応、胴体部分の装甲が開いて、中に人が入り込めるようにはなっている。
が、このパワードスーツは俺の人形、俺の生体組織、生きている、なので、コクピットの中は何というかこう、我ながら乗り込みたくない感じに蠢いているし、湿っているし、熱っぽい。
うん、俺自身の人形操作に使っているmodに加えて、マガツキの使っている身体制御modと言う優れた制御modも手に入った事だし、ヴィリジアニラの勧めもあるから、温室に操縦席でも作っておいた方が健全だな。
「コホン。これは質問ですが、操作の為のモジュールが完成し、サタ様が許しさえすれば、戦闘の際にヴィー様をこちらへ転移させ、ここからヴィー様がパワードスーツ型のサタ様を操るという事は可能ですか?」
「理論上は可能だな。ヴィーがパワードスーツの俺を操れるかは試してみない事には何ともだ」
パワードスーツ型の俺をヴィリジアニラが操るのは……有りだろう。
相手が異相空間に入り込む方法が無ければ、ヴィリジアニラの安全が確保されると言うだけでも価値は十分にある。
戦力としては……ヴィリジアニラの操縦センスは問題なさそうだが、パワードスーツの視覚にヴィリジアニラの圧倒的なスペックを持つ視覚を反映できるかどうかだなぁ……。
これについては改めて頑張って組むしかないか。
「これ、完成しているんすか?」
「中身が俺だから動くだけなら問題はないぞ。問題はむしろ偽装面だろうなぁ……ちょっと詳しい奴が見れば、パワードスーツじゃないのは直ぐにバレる」
「なるほどっす。ちなみに何時から作ってたんすか? 根っこはメモクシの改修の件よりも前な気がするっす」
「実を言えばフラレタンボ星系の頃から構想を練るくらいはしてた。作っておけば、何処かで使えるんじゃないかと思ってな」
パワードスーツの腕を動かす。
するとそこに見えるのは無機質な保護膜ではなく、生々しい肉の表面だ。
なお、血とかもしっかり通っているので、甲殻を破られると……いや、受けた攻撃次第では色々とスプラッタになるだろう。
まあ、破壊されたところでちょっと作り直すのが手間なだけなのだが。
「とまあ、これが俺のパワードスーツだな。確かに本物を見れば、もっとそれっぽい見た目に出来るし、操縦席についてはそれこそ本物から貰った方が早そうではあるが……わざわざ工房を見に行く必要はあるか?」
「そうですね……」
個人的には工房を見に行くよりも、展示会場のようなところへ見に行った方が俺にとっては都合がいいんじゃないかと思わなくもない。
俺の思っている事はヴィリジアニラも分かっているのだろう。
だから、悩んでいるようだ。
「いえ、それでもやはり工房へ一度行ってみましょう。偽装、パワードスーツの操縦席、その他modとありますし、直接見たからこそ何か思いつくこともあるかもしれません」
「うーん、工房の人に迷惑が掛からないか?」
「そこは諜報部隊に縁のある工房へ赴き、端の方で勝手に、と言う形で何とかしましょう。口が堅い人が居れば、このサタを見てもらうのも一つの手だと思います」
「あー、本職のアドバイスか。生かせるかはともかく、確かに欲しくはあるな」
そんなこんなで俺たちは、帝国軍諜報部隊が懇意にしているパワードスーツの工房へと向かう事になった。
さて、折角行くなら、何かしらの学びを得て帰りたいところだが……どうなるだろうか?