188:情報不足の現状
「では、私たちは状況が動くまでは第三プライマルコロニーに居ますので、何かありましたら、連絡のほどよろしくお願いします」
「分かりました。協力、感謝いたします」
宇宙怪獣マガツキに対抗するための動きは始まった。
が、所詮は外様である俺……と言うか、ヴィリジアニラが積極的に動いても、邪魔にしかならないだろう。
なので、俺たちは基本的に第三プライマルコロニーに滞在する事となった。
「それでサタ。マガツキに対抗するためのmodのようなものはありますか?」
で、俺の転移によって帰ってきたところで、ヴィリジアニラの口から出て来た言葉がこれである。
さて、対マガツキ用のmodか……。
「一応、試作は始めてる。ただ、マガツキが使っている、相手の身体制御modや使い捨ての異相空間を生成し移動するmodから推測できる相手のOSには限りがあるから、上手くはいってない」
「そうですか」
残念ながら、特効と言えるほどのmodはまだ出来上がっていないな。
それっぽいのについても、それっぽいと言うだけで、きちんと効果があるかはまだ不明だ。
サンプル数が足りていないのが単純にきつい。
「やっぱり相手が有機物主体ではなく、無機物オンリーってのが面倒なんすかね?」
「それもある。宇宙怪獣同士ではあるが、流石に構成元素がまるで別物となると、訳が分からない部分が多い」
「本当に根っこから違う訳っすからねぇ。しかも、刀なんて明らかに人の手が入った姿という事は、たぶん何処かで誰かに弄られているっすよね?」
「その可能性もあるし、そうでないかもしれない。本当に情報不足なんだよ。今回は」
マガツキは刀の形をしている。
元々ああいう形をしている宇宙怪獣なのか、元々別の形……それこそ鉱石塊の宇宙怪獣が誰かに加工されてあんな形になったのか、ただの刀が何処かの黒幕の力で宇宙怪獣モドキになってから長い年月を経て本物になったのか……。
どれもあり得て、それぞれでOSの構成に影響を与えるかもしれないから、どうするのが正解なのかも分からないんだよな。
「ところでサタ様。サタ様のエーテルスペースと、マガツキの異相空間は別なのですよね?」
「別。ただこれもサンプル不足だから、常に別なのか、偶々別だったのかは分からない。下手をすると、俺の本体が居る場所を逆探知されて、襲われる可能性もある。そうならないように防衛策はもう張ってあるけど」
「なるほど。もう一つ、マガツキの異相空間は常に同じですか?」
「そっちは資料不足。次の異相空間に引っ込んだ時のmod構成を見れれば、多少は判断も付くと思うが、現状では判断不能としか言えない」
マガツキの異相空間については、使い捨てである事しか現状では分からない。
ただ、『異水鏡』の反応からして、異相空間とリアルスペースの間の道を繋ぐためには、マガツキ自身の意思と言うかOSの活動は必須だとは思う。
一番楽なのは、特定の使い捨て出来る異相空間を使い続けている場合だろうな。
この場合なら、こっちから異相空間に罠を仕掛けておくことも可能ではないかと思う。
まあ、ハマれば儲けもの程度の気持ちで、準備だけはしておこう。
「と、俺からもヴィーに質問。マガツキをヴィーの目はどう捉えているんだ?」
「……」
俺はヴィリジアニラに質問をする。
するとヴィリジアニラは困ったような顔をした後に口を開く。
「現状では脅威なしと捉えていますね」
「脅威なし?」
「いやいや、それはおかしいっすよねぇ」
「なるほど。所詮は一本の刀と言う事ですか」
ヴィリジアニラの言葉に対して、俺が最初に抱いた感想はジョハリスと同じものだった。
だが、メモクシの言葉で理解が出来た。
「ああそうか。マガツキって人は乗っ取るし、斬り殺すし、異相空間も利用して逃げるが……逆に言えばそれだけなのか」
「あ、あー……扱いとしては、ゼロ距離でいきなり襲われたらヤバい通り魔程度なんすね……それじゃあ、よほどの大物が襲われなければ、星系全体の危機にもならないっすよねぇ」
「そう言う事ですね。そして、サタ様の言葉を受けて、警戒しなかったり、欲をかいたりするような無能はシブラスミス星系の上層部には居なかったようです」
「そう言う事ですね。ですので、マガツキの探索については、十分に距離が縮まって、私自身が事件現場に遭遇するぐらいで無ければ、反応する事は出来ないと思います」
マガツキは宇宙怪獣である。
しかし、誰かが持たなければ自分で体を動かすことが出来るかも怪しい一本の刀である。
そうなると……確かにヴィリジアニラの未来視では、よほど事態が長引いたりしなければ、脅威判定は出せないかもしれないなぁ……。
ある意味では相性が悪いのか。
「一応、宇宙空間を眺めて、何処かにマガツキが漂っていないかを探すぐらいは出来ますが……」
「それはやるなら機械知性の仕事です。ヴィー様」
「そうですよね」
そして、単純な観測なら、ヴィリジアニラ一人でやるのは、むしろあり得ない行為である。
うん、これは本当に状況が動くまでは何も出来ない感じか。
「うーん、やっぱり待つしかないか」
「そうですね。それしかないと思います」
「いっそのこと、ウチらでない誰かが妙案を思いついて、パパっと事件解決して欲しいっすね」
「ジョハリス様に同意します。その方がメモたちとしては楽でしょう」
とりあえずジョハリスの言葉には揃って頷いた。
楽が出来るなら、そっちの方がいい。