183:第五プライマルコロニー
「……。本当に第三プライマルコロニーと第五プライマルコロニーが繋がってしまいました……」
「これが宇宙怪獣の力。帝国軍……いえ、ヴィリジアニラ様と協力関係にあるお方の力……」
さて、両方の拠点に集まっている機械知性たちは呆然としているが、無事に第三プライマルコロニーにある機械知性たちの拠点と、第五プライマルコロニーにある機械知性たちの拠点を俺の作ったゲートによって繋げる事が出来た。
「今回は向きの調整なども合っているんですね」
「合っていると言うか、合わせただな。接近ルートも含めて、かなり気を使った」
「ありがとうございます。サタ様。おかげでデータが破損している事はなさそうです」
「っすね。これなら、ちゃんと『異水鏡』でデータが取れそうっす」
と言うわけで、普通に移動。
本来ならば一日がかり……とまではいかなくとも、手続き込みで半日は見ていいプライマルコロニー間の移動を一時間とかからずに終える事が出来た。
なお、念のためにゲートは閉じておく。
長時間維持しておくと、どんな問題が起きるか分かったものじゃないしな。
「さて、これからどうするんだったか?」
少し話はズレるが、ホテルを出てから第五プライマルコロニーへ移動するまでに俺たちが何をやったのかを思い出す。
まずやったのは、シブラスミス星系を統治している貴族や、それに協力する機械知性、各種治安維持機構への連絡だな。
連絡の中身は協力の申し出と具体的な内容、特殊かつ秘匿されている技術を用いて移動する事、他にも細かく色々とあったはずだが……まあ、要するに、第三プライマルコロニーに居るはずの俺たちが第五プライマルコロニーに居ても問題にならないように辻褄を合わせてもらった、これだな。
で、連絡が終わったところで、実際にゲートを繋げる場所として、まず間違いなく外に証言が漏れる事がない機械知性たちの管理場所を利用させてもらう事となり、そちらへ移動。
それから実際にゲートを繋げたわけだが……うん、大変だった。
『異水鏡』で感知している俺ではない宇宙怪獣のものと思しきOSの反応を消さないように、エーテルスペースから第五プライマルコロニーに接触する際には進路や精度にかなり気を使った。
また、以前の転移のような事故が無いように、方向の調整にもかなり気を使った。
おかげで今の俺は精神的な休息として、手近な椅子に腰かけているところである。
「そうですね……。メモ、ジョハリス」
「かしこまりました」
「分かったっす」
「じゃあ俺はゆっくりと第五プライマルコロニーから離れておくぞ」
さて、第五プライマルコロニーでまずやる事は『異水鏡』による調査か。
まあ当然だな。
そのために来たわけだし。
「計測できました。計測結果を表示します」
「やっぱり距離が近いとはっきり分かるっすね」
調査が終わったらしい。
メモクシが機械を操作して、第五プライマルコロニーを外から見たようなホログラムと、その一部に注目したホログラムが表示される。
「異なるOSの反応ですが、先日と同じように突然発生しています」
「本当に何もないところから突然出て来ている感じっすね」
「そして現れた反応は棒状のものを頭上に掲げるように構え、振り下ろし、高速で少し移動した後に……消失しています」
これは……本当に細かく見えているな。
人相や正確な身長までは分からないが、どういう動きをしているのかについては、十分に分かるレベルだ。
「メモ。一応確認しますが、時刻や場所は犯行現場と一致していますか?」
「一致しています。ですので、今回の事件は異なるOSの保有者による犯行とみていいでしょう」
ふむふむ。
懸念だった、実は無関係の一件でした、と言う可能性はなくなったようだ。
後はそうだな。
とりあえず今見えている範囲だと……身長は180センチ前後で、棒状のものは1メートルくらいの長さがある感じか。
で、本当にただの一振りで相手を絶命させている。
ここまで分かるのは中々に便利だ。
「つまりは宇宙怪獣ですか」
「恐らくは」
「まあ、この速さで移動する生身の人間はまず居ないっすよね」
「だな。これで目撃証言も無いんだから、完全に人じゃない」
しかし、『異水鏡』が便利だからこそ、犯行後の移動の異常さも浮かび上がったな。
こいつは『異水鏡』のデータ通りなら、秒速100メートル近い速さで走っている。
標準的な気体で満たされた環境の音速に直すなら、マッハ0.3前後は出ている計算だ。
身体強化modだけでは無理で、サイボーグ化やパワードスーツ込みでも厳しく、間違っても生身の人間に出せるような速さではない。
もっと言えば、こんな速さで走れば風圧などで周囲に相応の被害が出るはずなのだが、それも出てないし、証言もない。
捜査の包囲網が形成される前に逃げ出したと言うのはありそうだが、そんなのは誤差になりそうなくらいに異常だ。
うん、これだけでももう相手を真っ当な人間と見なさなくていいのが分かるな。
「ヴィリジアニラ様。こちらの情報は捜査機関にお渡ししてもよろしいのでしょうか?」
「構いません。ただ、特殊なmodを用いての捜査なので、裁判の証拠に用いることは出来ないという事は伝えてください」
「かしこまりました」
まあ、何にしてもだ。
此処までの時点で、俺の警戒レベルは既に急上昇している。
なにせ、今回の相手は、周囲の人間に気づかれることなく音のような速さで駆けて、シールドを無視した一刀によって、被害者を真っ二つに出来るのだから。
俺、メモクシ、ジョハリスはともかく、ヴィリジアニラが狙われたら、見ることは間違いなく出来るだろうけども、位置とタイミング次第では対処しきれない可能性がある。
何時何処で相手が仕掛けて来てもいいように警戒はするべきだろう。