180:変なのホイホイ ※
本話はヴィー視点となっております。
「さて、今日はもうこれで活動終わりか?」
「そうですね。夕食も外で済ませましたし、後は体を奇麗にしたら寝るだけですが……」
サタの温室を受け取った後。
私たちは行きとは別の道を通る事で観光を楽しみつつ、ホテルにまで戻ってきました。
十分な食事はその途中で済ませましたし、書類作業や情報の整理についても今日の所は問題ありません。
なので後はもう休むだけなのですが……まだ少し時間の余裕がありますね。
では、聞いてもらえないかもしれませんが、尋ねるだけ尋ねてみましょうか。
「サタ。サタが購入した温室を今から見に行くことは出来ますか?」
「ん? 昼間にも見ただろ? 見に行ったところで同じだと思うんだが」
「昼間の時はmod無しの素の状態だったじゃないですか。今はサタが色々と弄り始めていて、動き始めているところですよね? 気になるので見てみたいのですが……駄目ですか?」
「んー、何も楽しい事なんてないと思うが……まあ、それでいいなら」
どうやら見せてもらえそうです。
と言うわけで、普通に外出する程度の準備だけ整えて、私たちは揃って部屋の中に立ちます。
「えーと、温室の入り口に合わせる形でゲートは繋げる。空気の組成や重力、気温と言った生存条件は普通のヒューマンが裸でも問題ないように調整してあるが、一応最初にメモクシが入って確認をしてくれ」
「かしこまりました。サタ様」
「あれ? サタは付いてこないんすか?」
「全員がこの部屋から居なくなるのも、来客があった時とかに困るだろ。この俺は此処に居る。温室の方は温室担当の俺を用意してあるから、案内はそっちがやる。ゲートについては開けっ放しにしておくから、満足したら出て来てくれ」
「分かりました」
サタの本体の腕がほんの一部だけ現れて円を描き、その内側の光景が変わっていきます。
と同時に、事象破綻に伴う独特の臭気が漂ってきますが……繋がっている先が温室内であるためか、前回よりもだいぶ薄い臭いになっています。
そして、最初にメモが入って一応の安全を確認し、それから私とジョハリスがゲートの向こう側へと移動します。
「それで温室担当のサタが居ると言う話でしたが……」
サタの温室は直径50メートルほどの球体ですが、その内部は細かく区切られていて、私たちが今居る場所は普通のコロニーや宇宙船の通路のような場所にしか見えません。
また、重力や気圧などについても弄られていて、非常に快適な環境が維持されています。
事象破綻の臭気もしばらくすれば鼻が慣れてそこまで気にはならなくなるでしょう。
トイレなどがないので、普通の人間が長時間滞在するのには向かない場所なのは分かっていますが、安全面まで考えたら、いざと言う時はこちらへと一時的に逃げ込むのはありなのかもしれません。
「ああ、此処に居るぞ」
「「「?」」」
声がしました。
状況的に温室担当のサタのはずです。
しかし、その声は聞き覚えのあるものではなく、多少低めながらも少女のような声でした。
不思議に思いつつも、声がした方を見れば、ちょうど梯子が下がっている空間から飛び降りる姿が見え……。
「「「!?」」」
私とジョハリスは大いに驚き、メモクシも表情こそ変えていませんが、驚いているようでした。
ですが、それも当然の事でしょう。
「サ、サタ。その姿は……」
「ん? ああ。これか。前に言ってた、生まれて最初の頃に使ってた女性の姿の人形って奴だ」
現れたサタは少女の姿をしていました。
基本の造形は私より頭一つ分ほど小さいヒューマンの少女ですが、ヒューマンにはないパーツが色々と付いています。
具体的には、側頭部からはヤギのような角が生え、腰からは一対の蝙蝠の翼と二本のタコ足のような形をした尻尾が生えています。
ですが、それらも含めてバランスが取れた、整った容姿をしていて……たぶんですが、きちんと衣装と化粧を整えた私と同じくらいに人目を惹きつけると思います。
今の化粧もせず、白衣にシャツにズボンと言う、特に着飾っていない状態でもです。
「む、無茶苦茶可愛いっすね……」
「まあな。おかげで外では使えない。変なのが寄ってくるのが目に見えているからな」
「賢明な判断ですね。ヴィー様と今のサタ様が一緒に歩いていたら、真っ当な人生を歩み続けている方ですら、犯罪者の道へと落としかねません」
ただ、どことなく見覚えがある顔でもあります。
そうですね……セイリョー社のミゼオン博士、どことなく彼女を思わせる顔をしています。
「でもサタ。そんな人形をどうしてここに?」
「どうしてって、ただの再利用だぞ。外で使えないなら中でって話だ。こっちの人形は外のに比べて指先が細いし、色々と便利なmodも積んでいるから、温室内の作業には向いているしな」
「なるほど」
なお、これは後で聞いた話ですが。
サタがヒューマンも模した人形を作る際、男性の物ならばある程度自由に容姿が調整できるのに対して、女性の物を作るとほぼこれで容姿が固定されてしまうそうです。
アニマがどうの、初期イメージが強固過ぎただの、理屈は色々とあるそうですが、今更変える事は難しいと言うのだけは確かで、だから今後も表に出すことはないだろうとの事でした。
「とりあえず温室内の案内をするぞ。その為に来たんだしな」
「「「……」」」
そう言うと、少女体のサタは当たり前のように宙に浮かんで、音もなくゆっくりと空中をスライドして移動していきます。
「アレは確かに変なのホイホイっすね」
「ジョハリス様に同意します。ダースどころかグロスで寄ってきかねません」
「アレを見て何も起きなかったセイリョー社の社員の方々の精神力は凄まじいですね」
そして私たちもゆっくりと後を追いました。