178:雑多な地下街
「さて、今日は俺の温室を受け取りに行くんだよな?」
「ええ、その通りです」
翌日。
俺たちはホテルを後にすると、第三プライマルコロニーの中を歩いて移動していく。
今日の目的はメモクシ経由で仕様書を送り、作ってもらう事になった、俺のエーテルスペース内で使用する温室の受け取りである。
「しかし……俺だけで行っても良かったんじゃないか? わざわざ全員で行く必要なんてないと思うんだが」
「そうかもしれませんね。ですが、私はサタがどういう温室を求めたのかについて興味があるので、見に行きます」
「ヴィー様が行かれるならば、メモは当然付いていきます」
「一人だけ仲間外れとか寂しいっすよ? 後単純に興味があるっす」
「ああうん、そうか……じゃあ、一緒に行くか」
ぶっちゃけ、俺の個人的事情で購入する物なので、ヴィリジアニラたちが一緒に居る必要はないのだが……興味を引いたらしい。
それだったら、一緒に行った方が何かと都合がいいだろう。
「此処から一度下降だな」
と言うわけで、移動していくのだが……。
物が物なだけに、コロニー中心のビル街ではなく、コロニー地下の宇宙空間に接しているエリアで建造されているし、受け取りもそちらでだ。
「「「~~~~~」」」
「昨日行った機械知性たちのエリアとは混み合いが別物っすね」
「あっちは機械知性によって完全管理されていたが、こっちは色々な店舗兼工房が入っている上に、それらを訪ねてやってくる観光客も多いようだからな。空気も含めて別物になるのは当然ではあるな」
そして、その地下だが……とにかく混んでいる。
人の行き来が阻害されるほどではないが、質のいい工業製品を求めた客が帝国各地から集まっているのだろう。
様々な人種、格好の人間で賑わっている。
なお、一部に魔法少女マジカル☆パンプキンの主役や、その敵組織の幹部であるムシクイ★クロッキーのコスプレをしている人や、他のアニメや小説作品のキャラの格好をしている人も見えるが……まあ、目立つだけで気にする必要はないな。
「……」
「ヴィー?」
「いえ、何でもないです。何人か帝星バニラシドに勤めていらっしゃる貴族の方を見つけてしまっただけなので。ただの休日でしょうから、私が気にする事ではないですね。ええ」
「「「……」」」
そう言うヴィリジアニラの顔はどうしたものかと言う顔をしている。
本当にただの休日だと判断できるならそう言う顔はしないだろうし、ヴィリジアニラはニッチな趣味である程度で顔をしかめるような性格でもない。
シンプルに犯罪ならもう連絡は入れているだろうし、即座に止めなければいけない犯罪なら俺たちに動くよう指示も出すはず。
なのでまあ、妻帯者が妻ではない女性と一緒に居て、それが仕事上の付き合いには到底見えないとか、そんな浮気現場的な物を見てしまったとか、そんな感じなのだろう。
うん、皇帝陛下にでも伝えて、色々と活用すればいいのでは?
俺は関わらないでおく。
「あー、サタ。こっちは地上から宇宙港まで直通の通路ってのは無いんすね」
「あー、そうだな。個人経営クラスの工房が多いのと、何かあった際を考えて、複雑化しているらしい」
「大昔、テロリストや他の宇宙国家から攻撃を受けた際に、相手が簡単には利用できないようにと迷路のような構造にした名残だそうです。前者はともかく後者との遭遇は未だに無いようですが」
さて、話題を変えつつ俺たちは道を進む。
重力方向も弄られているので、非常に分かりづらいが、人形視点では多数の脇道がある左右に曲がりくねった道を進んでいくような形で、本体視点では少しずつコロニーの外側へと向かっていくような形でだ。
「他の宇宙国家っすかぁ……それがあるなら、その国は『バニラOS』と異なるOSで動いている国って事になるんすかね?」
「恐らくは。『バニラOS』はバニラ宇宙帝国独自のOSであり、版図を示すものですので。別の国があるならば、その国に合わせたOSが展開されているはずです」
「もしかしたら宇宙のどこかには巨大な宇宙怪獣の背や体内に作られた国家などもあるかもしれませんね」
「それはあり得るな。惑星サイズの宇宙怪獣だって居るわけだし」
話題は無事に変わったようだ。
しかし、他の宇宙国家かぁ……捉え方によっては、宇宙怪獣は単体で別の国扱いになるのかもな。
……。
うん、そんな扱いをされても困るだけだな。
サイズも力も違い過ぎる、
「そう言えば、歴史の授業を見ていると、銀河の外に飛び出していった宇宙船とか、そうでなくても帝国の外にまで飛び出していった宇宙船とかあるんすよね。ああ言うのもどうなったんすかね?」
「さあ? 『バニラOS』の外は別のOSが展開されていないなら『ブランクOS』の領域ですからね。彼らも対策をして飛び出してはいるはずですが……」
「大きな物ですと、1000年以上前にmodを頼らずに一万年以上航行できるコロニーサイズの船などが出ています。彼らからの連絡はないので、今どこで何をしているのかは一切不明ですが」
まあ、結論が出ない話だな。
なにせ相手からの連絡が無いし、こっちからの観測も出来ていないのだから。
「さて到着だな」
そうこう言っている内に、宇宙港の1スペースを占有する形になっている工房へと到着した。
コロニーの内外を仕切る気密シールドの先には、俺が頼んだものと思しき温室も浮かんでいる。
では、受け取ってしまおう。