176:一瞬の反応
「一応確認だ。何かしらの反応があったよな。第六プライマルコロニーの周囲に居る俺の本体でもなければ、此処にいる俺の人形でもない反応が」
「ありました。一瞬と言っても差支えの無い時間でしたが、私の目は確かに第五プライマルコロニーの辺りで反応があったのを捉えています」
「ヴィー様に同意します。それと記録はしてありますので、反応があった瞬間まで戻して、出力をします」
「サタじゃないのも確実っすよ。普段から感じているサタの反応とは明らかに違うのを、ウチは確かに感じたっす」
俺の確認をする言葉に対して、直ぐにヴィリジアニラ、メモクシ、ジョハリスが返す。
そして、反応があった時の『異水鏡』がどのように反応していたのかが、メモクシによってホログラムに投影される。
うん、少なくとも俺の見間違いと言う線は無くなったようだ。
「反応があったのは第五プライマルコロニーの辺りっすね」
「第五プライマルコロニーと言うと……色々な催し物が開かれているコロニーだったか?」
「ええ、その通りです。一本の幹を取り囲むように螺旋状の枝葉が設置されていて、その一部の枝葉が展示会の会場として常時使われています。シブラスミス星系としては他の星系への広報や企業同士の交流をメインとしているコロニーになりますね」
ホログラムがメモクシの目から投影されているものではなく、部屋に設置された機器によるものに変更される。
まあ、話し合いや検証をするなら、固定された機器から投影されている方が楽だからな。
で、ヴィリジアニラの言う通り、第五プライマルコロニーは大きな木の先端を切り取ったかのような形をしている。
サイズについては、他のプライマルコロニーとそんなに変わらない。
で、反応があった場所は……根本としか分からないな。
「メモクシ。一応聞くが、もう少し解像度を上げるとか、正確な場所を探るとかは出来るか?」
「申し訳ありませんサタ様。範囲を重視している状態では、これ以上の解像度は得られません」
「あ、第五プライマルコロニーだけを注視するってのも無理っすよ。『異水鏡』はアクティブソナーじゃなくて、パッシブソナーとしての性質が強いっすから」
「そうか。まあ、そうだよな」
残念ながら、第五プライマルコロニーの何処で反応があったのかを正確に知る事は出来ないようだ。
もっと詳しく知りたいなら、同じコロニーに居るくらいでないと無理そうだな。
なお、『異水鏡』の誤作動の類は考えていない。
反応直前の時点で俺の本体を正確に把握していたのだから、誤作動の類は考えなくてもいい。
閑話休題。
さて、これからどうするか。
いや、どうするにせよ、ヴィリジアニラがどう動くことを望むか次第であり、俺に決定権がある事じゃないな。
「……」
で、ヴィリジアニラは……少し考えているな。
たぶん、色々な情報を処理しているのだろう。
未来視と言うか脅威の感知についてもしているに違いない。
「まず大前提として……」
そうしてヴィリジアニラが口を開き、俺たちは立ち振る舞いを正して聞く。
「宇宙怪獣である事と帝国の敵である事はイコールで繋がりません。サタがそうであるようにです」
「それはそうっすね」
「ですので、私たちが知るべきはこの宇宙怪獣が帝国に害をなす存在であるか否かと言う一点だけであり、それ以上は問うべきではありません」
「同意いたします。ヴィー様」
「そう言うわけですので、私たちが直接接触を図るのは、その必要性が生じるまでは無しです。サタも本体を第五プライマルコロニーとその周辺に近づけないようにしてください。エーテルスペースに居るならば大丈夫だと思いますが、万が一があるかもしれませんので」
「分かった」
うん、ヴィリジアニラの判断は妥当なところだと思う。
相手の正体や在り方も分かっていないのに攻撃を仕掛けるのでは、こちらが犯罪者だ。
俺と同じように帝国に恭順を誓い、平和に暮らすことを望んでいる宇宙怪獣の可能性だってある。
だから、相手を刺激しそうな俺たちが最初から出ていく必要性は確かにないな。
だが、調べない訳にもいかない。
俺がそうであるように、メーグリニアがそうであったように、シルトリリチ星系の黒幕がそうである可能性が高いように、宇宙怪獣の持っている力は圧倒的だ。
帝国上層部で存在が共有されていない宇宙怪獣が、人間社会に紛れ込む形で出て来てしまったのならば、何かしらの方法でその人となりは調べるべきだろう。
何かがあってからでは手遅れになりかねないのだから。
「そう言う事ですので、機械知性の皆様。申し訳ありませんが協力をしていただけるでしょうか?」
そして、幸いなことに、事を荒立てずに調べる方法は直ぐ近くにある。
シブラスミス星系で暮らしている機械知性たちだ。
「帝国軍諜報部隊所属、ヴィリジアニラ・エン・バニラゲンルート様のご要望を確認いたしました」
「要望の内容を精査。内容、権限、どちらも問題ないと判断いたします」
「オーダー、承りました。我々機械知性の力が及ぶ範囲でと言う制限はありますが、調べてみます」
「お願いいたします」
と言うわけで、ヴィリジアニラは難なく機械知性たちの協力を取り付ける事が出来た。
まあ、相手が宇宙怪獣だし、ニリアニポッツ星系での一件もまだ影響を残しているであろう時期だし、ヴィリジアニラの立場まで考えれば、第五プライマルコロニーの監視カメラチェックや特異な事件の有無くらいは調べてくれるよな、うん。
「では少し待ちましょうか。まずは一時間後に初報をお願いします。その後については、それから考えましょう」
「「「かしこまりました」」」
「承りました。ヴィー様」
「分かったっす」
「了解だ」
さて、一番いいのは素直に見つかって、普通に何年も一般人として暮らしている、とかかなぁ。
そうすれば、この話はもうここで終わりにしていいのだから。