175:改修されたメモクシ
「お待たせいたしました。ヴィー様、サタ様、ジョハリス様」
予定時刻をほんの少しだけ過ぎた頃にメモクシは戻ってきた。
なお、メモクシが戻ってくる頃は俺もヴィリジアニラもジョハリスも人形焼きを食べていた。
うん、南瓜餡が美味しいな。
「なるほど……色々と変わったみたいですね、メモ」
「はい、色々と変わりました」
「変わった……? ジョハリス、その、メモクシの変わった点って分かるか?」
「ウチも協力したから、中身については色々と変わったのを知っているっす。外見については……ウチの目では分からないっすね」
さて帰ってきたメモクシだが……俺が見る限りでは、行った時と全く変わらないメイド服姿の小柄なアンドロイド少女のままである。
勿論、中身については改修の結果で色々と変わっているのだろうけど……それは外見にまで出ていないだろうからなぁ……。
「サタ様、ジョハリス様がメモの外見の変化について分からないのは当然の事だと思います。設計上はまったく変わっていないのですから。変化に気づけるとすれば、それはヴィー様だけであり、メモ自身にも分からないくらいでしょう」
「なるほど」
「まあ、そうっすよね」
「私は目が良いですから」
どうやらメモクシの外見の変化はヴィリジアニラにだけ分かる程度だったらしい。
と言う事は、ミリ単位か、もしかしたらそれ以上に細かいレベルでの変化だったという事だろうか?
まあ、気にしても認識できないし、これ以上は気にしなくていいか。
「さてメモ。それで目的とした改修の方は?」
「理論上は問題ありません。試用も上手くいっています。実践はこれからですね。ジョハリス様」
「分かったっす」
ジョハリスの入った機体がメモクシの背中側へと移動。
メモクシがジョハリスの機体を背負うようにして接続。
で、メモクシの目が光って……。
「『異水鏡』の起動、成功しました。結果をお出しします」
俺たちの眼前にホログラムの形でシブラスミス星系の星系図が表示される。
そして、第六プライマルコロニーの近くに建造途中の戦艦である『ジチカネト』があって……その近くに見覚えのある形のシルエットが表示されている。
「こちらは今現在のシブラスミス星系内に存在している宇宙怪獣の反応ですね。見ていただければ分かるように、第六プライマルコロニーの近くにサタ様の本体が居ます」
「もしかしなくても、サタは今、腕を動かして、大きな輪を作ったりしています?」
「してるな。どうやらリアルタイムで反映してるらしい」
うん、もしかしなくても俺の本体だな。
試しに腕を動かしてみれば、ホログラムに映っている俺の影も、若干のタイムラグこそあれど、きちんと動いている。
どうやら『異水鏡』はきちんと動いているようだ。
なお、今現在俺たちは諜報部隊ではない機械知性たちの前で堂々と話をしているが、相手が機械知性たちなので、口留めについては問題ない。
なので、このまま話を続ける。
「上手くいって何よりっす。他の機能についてはどうするっすか?」
「そちらについても一応試しておきましょう。一人で動作確認をした限りでは問題はなさそうでしたが」
メモクシの胸の辺りからジョハリスの声がする。
うんまあ、構造的にやっぱりそう言う事になっているよな、と言う感想だ。
そして、俺がそんな感想を抱いている間にも、メモクシとジョハリスは色々と表には出ない形でやっているらしい。
こう、ガショガショと全身が動いている。
これは……ある意味ではメモクシとジョハリスが合体しているようなものなのか?
とりあえず戦闘能力については上がっていそうだ。
ガショガショ動いているのを見る限りではだが。
「ちなみにですが。精度が大幅に下がり、どれほど頑張ってもコロニー内限定でしか探れないようになってしまいますが、メモ単体でも『異水鏡』を使う事は可能です」
「へー。メーグリニアみたいに人間サイズの宇宙怪獣がコロニーのどこかに潜んでいると言う状況なら、使えそうだな」
「でもその距離でウチが一緒なら、何処の部屋で何をしているかまで見えるんすよね。だから、ウチが近くに居ないのも前提になるっすね」
メモクシはいつの間にか『異水鏡』をかなり使いこなしていたらしいと言うか、限定的にならノイズを除去して運用する事が出来るようになっていたらしい。
ただ、わざわざ一人で使う必要があるかと言われれば……だいぶ怪しいようだ。
もしも宇宙怪獣が相手なら、俺が前に出るのが普通なのだが、それが叶わずにメモクシが前に出る状況ならジョハリスと合体している状態の方が戦闘能力的にまだ安全だろうしな。
まあ、一応覚えておこうぐらいの機能か。
「しかし合体か……うーん、パワードスーツ的なものなら俺でも作れるか?」
「サタ様?」
「サタが何か考えているっすね」
「サタにパワードスーツは……意味があるんですか?」
「いやまあ、作れそうなら作っておけば、何かはあるかなと思ってな」
どうやら呟きが漏れていたらしい。
うんまあ、理論上は作れる。
ただ、流石に専門外だし、可能なら、制御に関係するmodの一つや二つくらいは実物から確認したいところではあるな。
なお、俺の生体組織で出来た鎧をパワードスーツと呼ぶべきかについては、横に置いておく。
「おや?」
「ん?」
「今一瞬……」
「何かあったっすね」
と、此処で展開し続けていた『異水鏡』に俺ではない宇宙怪獣の反応があった。
ほんの一瞬であり、正確な位置まではヴィリジアニラの目でも分からなかっただろうが、間違いなく反応はあった。
反応があったのは……第五プライマルコロニーの何処かだ。