174:シブラスミス小惑星塩
「お待たせいたしました。ご注文の品でございます」
「「ありがとうございます」」
待つこと一分ほど。
俺とヴィリジアニラが注文した品……シブラスミス小惑星塩なるものを使った焼き鳥串とスポーツドリンク、南瓜のジュースと南瓜の種入りクッキーが届く。
「ふむふむ。シブラスミス小惑星塩……」
シブラスミス小惑星塩とは。
シブラスミス星系に存在している小惑星の大半は鉄や銅、炭素と言った原子で出来ている一般的な小惑星なのだが、一部は塩化ナトリウムを主成分とした岩塩の塊であるらしい。
この塩は宇宙空間で生成された塩という事で、他の星系の惑星上で採掘される岩塩や、海洋から精製される塩とはまた別の風味を持つらしく、シブラスミス星系及び周辺星系で珍重されている品のようだ。
なお、最近ではどういう過程を経て生成されるかが判明したため、人造のシブラスミス小惑星塩と言うのもあるらしく、風味は変わらず、けれどお値段は控えめな品も出てきたようだ、
さて、ウンチクはこれくらいにしておいて、食べてみよう。
「ではまずは一口」
俺は焼き鳥串を口に含み、一切れ分を食べる。
肉を噛むと、熱々の肉から汁が漏れ出し、口の中に濃いうま味が広がる。
塩味の焼き鳥なので、当然ながら塩味を感じるが、それだけではなくスッキリ爽やかな口の中が広がるような風味も感じる。
多少濃い目の味付けだったが、後味はサッパリしていると言う感じだ。
なるほどこれがシブラスミス小惑星塩か。
俺の舌で感じた限り、成分的にはそこまで変わった塩ではない。
分子構造や配分については、宇宙空間で精製されているからか、多少変わったところはある。
一番違うのは……やはりSwか。
光る輪っかを生み出すシブラスミス星系のSwは、見方によっては人の脳内の電気信号に反応しているSwであり、多くの人の脳の活動にはナトリウムが関わっている。
だから、シブラスミス星系のSwはナトリウムとの関わりが深いと認識でき、塩の味にも多少だが影響を与えるのだろう。
まあ、表に出すのは美味しいと言う感想だけでいいな。
「うん、美味しい」
「そうですね。美味しいです」
と言うわけで、続けてスポーツドリンクも飲む。
こっちは……やはり少し味が濃い目だな。
うーん、シブラスミス星系は様々な工業が行われている星系であり、肉体労働や繊細な作業が多い星系であるとも言える。
なので失ったミネラル分を効率的に補給したり、ストレスを解消したりする目的で、他の星系に比べて濃い目の味が好まれるのかもしれないな。
「サタ、串を一本いただいてみてもいいですか?」
「構わないぞ。代わりにヴィーのクッキーを一つ貰ってもいいか?」
「はいどうぞ」
俺とヴィリジアニラはそれぞれの食べ物を交換する。
で、俺は直ぐに南瓜の種入りクッキーを口へと運ぶ。
「ふむふむ」
「なるほど」
なんと言うか……ホンワカする味だな。
クッキー本体は柔らかめで、自然な甘みのクッキーだ。
そこへカリカリに炒められた南瓜の種が加えられていて、固めの触感、焦がされた風味、南瓜特有の匂いをもたらしてくれている。
栄養は当然ながら満点であり、懐かしさや素朴さを感じさせながらも満足が行く品と言う感じだな。
この出来だったら、貴族のお茶会でお出しされていても何もおかしくないように思えるな。
「さて、暫くはニュースサイトでも巡っておくか」
「そうですね。とは言え、特別な事件は何も起きていないように思えますが」
さて、これで一通りは試し終えた。
と言うわけで、俺は自分の情報端末でシブラスミス星系のニュースサイトを見てみる。
えーと、主なニュースとしては……新作のアニメ映画の売れ行きが好調だとか、新しい技術が開発されましたとか、『ジチカネト』の建造状況がどんなもの何かとか、ニリアニポッツ星系の宇宙船レースにも出てた『ファステストランス』が何処かのレースで勝ったとか……平和なニュースが多いな。
いい事だ。
とは言え、全く悪いニュースがないわけではない。
一番多いのは……やはり業務作業中の事故のニュースか。
不注意、操作ミス、マニュアルを守らなかった、マニュアルの方がおかしかった……まあ色々とあるな。
とは言え、シールドmodがある現代では大抵の事故は機器の破損は招いても、人の怪我まで招くことは無いし、光る輪っかのSwがあるから救助も円滑で、大事にまでは至っていないようだな。
他の悪いニュースは……窃盗や殺人の話がどうしてもあるな。
とは言え、こちらも現代、監視カメラがそこら中にあるので、俺が確認した限りではどの事件も直ぐに解決されているな。
まあ、今の帝国で殺人事件を起こしていながら逃げ切るとなったら、メーグリニアのような常識の埒外にあるような力を使うか、ニリアニポッツ星系での犯罪のように組織だった隠蔽を行うかのどちらかは最低でも必要なのだから、これは当然の結果とも言えるな。
「ふぅー、上手くいって良かったっす」
「お帰りなさい、ジョハリス」
「お帰りだジョハリス。メニューはこれだな」
「ありがとうっす。じゃあウチはこの人形焼き『魔法少女マジカル☆パンプキン』をお願いするっす」
「かしこまりました」
と、ここでジョハリスが帰って来た。
どうやらジョハリスが居ないと出来ない部分の作業は終わったらしい。
ちなみにジョハリスが頼んだ人形焼き『魔法少女・マジカルパンプキン』は、『魔法少女マジカル☆パンプキン』の主役の形をしたパンケーキの中に南瓜餡が入っているおやつだったようだ。
うーん、メモクシが帰ってくるのが遅れるようなら、俺も頼んでみようか……。