170:第三プライマルコロニー到着 ※
本話はヴィー視点となっております。
『シブラスミス星系、第三プライマルコロニーが見えてきたっす』
「お、ようやくか」
『カーニバルヴァイパー』が宇宙空間に浮かぶ、円筒形の大きなコロニーへと近づいていきます。
アレが『カーニバルヴァイパー』……本当は『シェイクボーダー』と言う船名である私たちの船を改修する場所であると共に、私たちが暫く留まる事になるコロニーですね。
「他のコロニーに比べると泊まっている船が少ないように感じるな」
「第三プライマルコロニーは量より質を優先して生産を行っているコロニーですから、その影響ですね」
「ああなるほど」
シブラスミス星系には複数のプライマルコロニーがありますが、それぞれ方向性が異なっています。
第一プライマルコロニーは大衆向け、大量生産重視。
第二プライマルコロニーは研究と開発を重視。
第三プライマルコロニーは先述の通り、量より質を、高級品を、必要ならオーダーメイドを。
第四プライマルコロニーは他のコロニーで使う素材や生活用品を。
第五プライマルコロニーは展示会場を常設して、シブラスミス星系全体の広報を。
第六プライマルコロニーは自身よりも巨大な大型建造物の生産を。
と言う具合です。
そして、プライマルコロニー以外にも無数のサブコロニーとして……各企業のコロニー、採掘と精錬を専門としたコロニー、宇宙空間で宇宙船の整備作業をする人たちの作業拠点としてのコロニー、星系内限定で物資の運送を行う小型宇宙船向けのサービスをするためのコロニーなどなど、それぞれの目的と役割に応じたコロニーが建造、運用されています。
中には個人で所有している小型のコロニーもある事でしょう。
なので、ジョハリスは当然気を付けてくれていますが、サタにも後で不用意に本体を宇宙空間へと出さないように改めて注意をしておきましょうか。
何処で誰が作業しているのかが分からないのがシブラスミス星系ですし。
「到着っす。ヴィー様、一応確認っすけど、『カーニバルヴァイパー』を渡すのは明日の午後っすよね?」
そんな事を私が考えている間にも『カーニバルヴァイパー』は第三プライマルコロニーのドックへと入り、何事もなく停留されました。
そしてジョハリスが念のためにという事で聞いてきたので、私はそれに答えます。
「その通りです。ただ、午前の間に個人で持ち運べないサイズのものは業者に引き取ってもらう事になりますし、今日の間に表には出せない資料などは完璧に片づけておく必要がありますね。私物についても同様です」
なお、業者引き取りは様々な場所に及ぶのですが、食料品の一部などは、状態を確認した上で売却する事になります。
缶詰などがそうですね。
勿体なくはありますが、内装を色々と弄る以上、食料品や生活物資は一度全て外に出すしかありませんし、外に出した物を万全の状態で保管し続けておくのはコストがかかります。
なので、これについては仕方がない事ですね。
「了解っす。資料と私物についてはウチは大丈夫っす。ヴィー様も大丈夫っすよね。メモはどうっすか?」
「メモも問題ありません。そもそも物理的実体を持つ私物など殆ど持っていませんので。サタ様はどうですか?」
「まとめてエーテルスペースに送ったから問題ない」
「それは……大丈夫なのですか?」
「送ったと言っても、ちゃんと箱に詰めたり、袋に入れたりして、あっちで散らばらないようにはしてあるからな。何も問題はないぞ。なんなら図面通りに改修が終われば、ただ戻すだけで完成だ」
「なるほど」
一瞬、私の脳裏にサタの本体が居るエーテルスペースに大量の物が散らばっている光景が浮かびましたが、そう言う事は無いようです。
考えてみれば、サタの私室は普段から整理整頓がしっかりとされていますので、物を散らかすような人ではありませんでしたね。
しかし、後で荷解きの必要がないとは、羨ましくもありますね。
「いずれにせよ確認は必要ですので、これからメモたち四人で船内を一通り歩き回り、確認をしていきましょう」
「分かった」
「了解っす」
「そうですね。売るもの、売らないもの、廃棄するもの、そこに無いといけない物、あってはいけない物、きちんと確認していきましょうか」
私たちは『カーニバルヴァイパー』の船内を回っていきます。
こう言う事はなあなあで済ませると碌なことにならないと言うのが常識ですし、機械知性であるメモが居るからと頼っていい事でもありません。
なので、私たちはこういう時に合わせたマニュアルを表示させ、その内容に従って確認をしていきます。
「えーと、この辺は廃棄になっちゃうのか。だったら夕飯と明日の朝食で使うか」
「この辺の貴重品はちゃんと目録を作っておかないとっすね。手癖が悪い奴がいないとは限らないっすから」
「データを確認。大丈夫です。表に出しても問題のない情報しか船内には残っていません」
「コンテナの封印も大丈夫ですね。鍵も電子、物理、mod、いずれも私の手元にあります」
そうして確認の結果。
少しだけ食事が豪華になりました。
サタの調理技術が確実に上昇しているような気がしますね。