169:光る輪のスターウェア
「ふむふむ。これがシブラスミス星系のSwか」
さて、シブラスミス星系のSwについて。
その効果を簡単に述べるならば、生きている人間の頭上に仄かに光る輪っかが出現する、と言うものである。
なので、ヴィリジアニラ、メモクシ、ジョハリスの頭上には光る輪っかが出現している。
「そうですね。問題なく機能しているようです」
「メモは機械知性なので少し形が違いますが、正しく機能しているようです」
なお、ヴィリジアニラとジョハリスの頭上に出現している光る輪っかは真円を描いているのだが、メモクシの頭上にあるものは直線を組み合わせて♯に近い形になっている。
この形の違いは……ちょっと歴史の授業とか、どういう意図でこのSwが作り出されたのかと言う話に繋がってくるので、少し長くなる。
『ガイドコロニーからのスキャンは問題なく終わったっす。と言うわけで、『カーニバルヴァイパー』は予定通りに第三プライマルコロニーに向かって出発するっす』
『カーニバルヴァイパー』がガイドコロニーから離れていく。
では、特にやる事もないので、色々と確認をしていこう。
「この光る輪っかのSwは生きている人間にしか作用しない。此処で言う人間とは、帝国基準で人間と規定できるだけの知性を持った種族である、だったか」
「ええ、その通りです。だからメモにも出現しています。サタに出現していないのは……私たちの前に居るサタが遠隔操作されている人形であって、本体ではないからですね」
「だろうな。Swの構成を見ている限り、脳やそれに類する器官の一定以上の活動を検知して反応している感じだし、俺の人形に反応しないのはOSの違いを抜きにしても正しい反応だと思う」
まず俺の頭上に輪っかが出現しない理由は単純。
この体は人形であり、この体で俺はものを考えているわけではないからだ。
余談だが、メモクシは本体もアンドロイドの体の中にあるので、目の前の体の頭上に浮かんでいるが、俺と同じように遠隔で人形を操っている機械知性が居れば、その本体の方に光る輪っかが出現する事だろう。
仮にその本体が巨大な箱としか称しようのない形であってもだ。
「ところでサタ様。仮にサタ様の本体に適用するとどうなりますか?」
「んー……弾かないように調整して仮に出力すると……なんか八角形に渦巻きを組み合わせたような図形が出て来たな」
「なるほど」
なお、エーテルスペースに居る本体に仮で作用させてみたところ、随分と特徴的な図形が出て来た。
「メモとサタの図形が普通の人間と違うのは、それがこのSwの本来の形だから、ですよね?」
「その通りです」
「面白い仕様だよな。これ」
では、そろそろ、この光る輪っかのSwの歴史について。
そもそもとして、この光る輪っかのSwは大規模な工業星系であるシブラスミス星系で、少しでも安全を確保するためのSwとして開発、適用されたものであるらしい。
そのため、この光る輪っかは実体を持たず、誰かの目を潰すほどの光量も持たない。
前者の意図としては、壁や柱、場合によっては瓦礫の類で本人の姿が見えていなくても、光る輪っかはそれらの障害物をすり抜けて光り、人間が居る場所を把握できるように。
後者の意図としては、単純に眩しいと様々な支障があるから、このようになっているらしい。
しかし、実を言えば最初に適用されてから百年ほどは、光る輪っかの形は個人個人で異なっていたそうだ。
この頃の光る輪っかは光らせている人間のパーソナリティなどに応じる形で特有の形を作っていたそうで、本人認証にも使われていたぐらいのようだ。
が、当然のようにそれを悪用するような犯行が横行し、今のように普通の人間は画一的な光る輪っかが出現するように変更されたそうだ。
では何故メモクシと俺の光る輪っかは特徴的な形を持っているかと言われれば……。
メモクシについては、機械知性特有の形であって、固有の形ではない。
詳細は分からないが、Swを昔に弄った誰かは機械知性に他の人種と同じ光る輪っかを与えるのをどうしてか嫌がったようだ。
ただ、処理能力や緊急時の優先順位などを考えると、今の方が都合がいいとは、機械知性自身たちの言葉である。
俺については……宇宙怪獣だからとしか言いようがないな。
元々この光る輪っかのSwは強いSwでもないから、その気になれば弾けてしまえるし、画一的にする部分に至っては後付けだからか出力がさらに控えめで、自然と弾いてしまうようだ。
まあ、それでどうして八角形に渦巻きなんて形になるのかは分からないが。
「さて、ちゃんと人形の方にも付けておくか」
「これほどあっさり偽装出来ると知ったら、一部の人たちは白目をむくことになりそうですよね」
「ヴィー様。バレなければ問題ありません」
「付けずにいて、揉め事に巻き込まれる方が面倒だしな」
とまあ、光る輪っかのSwの意図、効果、歴史については、ざっとこんな所か。
とりあえず重要な点としてはだ。
シブラスミス星系では生きている人間の頭上には光る輪っかが浮かんでいて、光る輪っかがない人間は死体か遠隔操作されている人形と言う認識をされることになる。
此処で言う人形とは、機械知性たちが操る機械人形である。
よって、光る輪っかがないのに動いている人間はそう言うものであると認識されて、対応もそう言うものになってしまう。
これは俺としては非常に面倒な事であるため、何かしらの対処はしなければいけない。
と言うわけで、俺は人形を構成するmodを調整し、自前のmodでもって、頭上に光る真円の輪っかを浮かべた。