168:シブラスミス星系に到着
『『カーニバルヴァイパー』は間もなく超光速航行を終了して、ハイパースペースからリアルスペースへと移動するっす。船員各自は衝撃、周囲の変化、シブラスミス星系のガイドコロニーから行われるスキャンに一応備えて欲しいっす。なお、当機は念のためにシブラスミス星系のSw圏外でリアルスペースに移動するっす』
「何事もなくだったな」
「何事もなくでしたね」
「サタ様、ヴィー様、シブラスミス星系は帝星バニラシドの隣の星系です。小規模犯罪はともかく、大規模犯罪を行えるような治安ではありません。なので当然の事かと」
ニリアニポッツ星系からシブラスミス星系への移動は何事もなく終わるようだ。
そんな俺とヴィリジアニラの言葉をメモクシは呆れがちに咎めるが……。
「治安は大丈夫でも宇宙怪獣と言う問題があるからなぁ」
「確かに船ごと宙賊が現れるようなことはないかもしれませんが、テロリストがばら撒いた爆弾の一つが漂っているくらいはあり得るかもしれませんよ?」
「……」
俺とヴィリジアニラの言葉を否定できなかったらしい。
黙り込む。
と言うか、俺の方はハイパースペースに入り込んでくる宇宙怪獣と言う、既に存在が確認されている脅威なわけだが、ヴィリジアニラの方は何だ?
え、テロリスト?
シブラスミス星系ってそう言うのが有名な星系なのか?
事前に貰った資料にはそんな言葉は一切なかったはずなんだが……。
まあ、警戒しておくか。
『リアルスペースに出たっす。当機はこれから3分ほどかけて、シブラスミス星系のSw圏内に進入し、それと同時にシブラスミス星系のガイドコロニーからスキャンを受けるっす』
「ふむふむ」
それはそれとしてだ。
リアルスペースに出たところで、俺はシブラスミス星系を見渡す。
なるほど、確かに恒星が一つあって、ガス星系が複数あって、小惑星も無数にあって、プライマルコロニーが幾つかに……造船用と思しきコロニーもかなりの数があるな。
ニリアニポッツ星系ほどではないが、船の数はだいぶ多い感じだ。
「なあ、ヴィー」
「どうかしましたか? サタ」
さて、そうやって見ていく中で一番目立つのは?
「なんか、俺の本体より大きいのにコロニーじゃなくて戦艦の類っぽいものが建造されているんだけど、何だアレ?」
「サタが見ているのは……これですか?」
「そう、それ」
俺の本体よりも大きい超巨大戦艦としか言いようがないものだ。
ニリアニポッツ星系で俺たちが一番長く居た基地コロニーよりもたぶん大きい。
なのに、推進器の類が付いているし、超光速航行へ移行するためのmodも感じるので、間違いなく自力航行能力を持ってる。
なお、俺が建造途中だと判断しているのは、全体的に円錐に近いフォルムをしているのに、その円錐に欠けが見られる部分があったり、動力炉の活動がサイズから考えて最低限以下であるようにしか見えないからだ。
「アレはバニラ宇宙帝国の次世代宇宙戦艦『ジチカネト』ですね。シブラスミス星系の技術の粋を集めて建造されている途中で、もう数か月ほどで完成すると聞いていましたが……外装についてはほぼ完成しているようですね」
「なるほど」
どうやら本当に戦艦らしい。
「しかし、うーん……あんなデカ物。何に使うんだ?」
だが何に使うのだろうか?
俺が把握している限り、バニラ宇宙帝国は何処とも戦争状態にない……と言うより、宇宙進出をしている他の国が見つかっていないし、内乱の兆しも……シルトリリチ星系が怪しいくらいだ。
そして、対人間の戦争で出すには、『ジチカネト』はあまりにも大き過ぎて、戦線の後方で補給と修理の作業に徹するくらいしか使い道が無いように思える。
それなのにあんなものを用意するのは、流石にお金の無駄ではないだろうか?
「使い道については私は知りませんね。ただ、あの大きさとなると……宇宙怪獣くらいでしょうか?」
「あー、宇宙怪獣……いやでも、宇宙怪獣相手だと、逆にサイズ不足なんじゃ? あの『ジチカネト』だけど、たぶんだが、俺と宇宙怪獣ブラックフォールシャークの中間くらいのサイズしかないと思うぞ」
「うーん、そうですか。ですが、宇宙怪獣と言っても大きさは様々ですし……ちょうどいい大きさで、倒さなければいけない宇宙怪獣が何処かに居ると言うのもあり得ませんか?」
「ああ、開拓の最前線の方で見つかったとかそう言う。それなら、目的に合わせたサイズという事で、作る意味はあるのか」
どうやら『ジチカネト』の使い道はヴィリジアニラにも分からないらしい。
まあ、帝国はとてつもなく広いから、何処かで『ジチカネト』を使って対処をするのがちょうどいい宇宙怪獣が居てもおかしくはないか。
積極的に仕掛けてはこないが、近寄れば襲って来て、俺のように交渉が出来るわけでもないとかになれば、倒す以外の選択肢はないだろうしな。
『Swの圏内に進入するっす』
「と、時間だな」
「そうみたいですね」
「サタ様。ご注意を」
さて、そんな会話をしている間に時間だ。
シブラスミス星系のガイドコロニーが近づいてきて、Swの圏内に入る。
そして、シブラスミス星系のSwの結果として……。
ヴィリジアニラ、メモクシ、ジョハリスの頭上に仄かに光る輪っかが出現した。