167:向かうはシブラスミス星系
『船名の変更を完了したっす。本船は今から『カーニバルヴァイパー』と名乗るっす。搭乗員各位は気を付けて欲しいっす』
『船名の変更を確認しました。データの修正も完了。関係各位への秘匿通達も完了。問題ありません』
『では、ただいまより、改めてシブラスミス星系への移動を始めるっす』
ニリアニポッツ星系で起きた一連の出来事についての報告書が来てから数日後。
俺たちは基地コロニーを出発し、小惑星帯で船名と外部塗装を変更。
その上でシブラスミス星系へ向かって移動を始めた。
『セクシーミアズマ』はニリアニポッツ星系で表に名前が出るような活躍はしていないが、これで『セクシーミアズマ』の名前でしか追えない人間はこちらの追跡を出来なくなっただろう。
ちなみにだが、『セクシーミアズマ』の時は別の星系に向かうようにフライトプランを提出し、そう見えるように航行もしていたので、フライトプランしか手に入れる事が出来なかった連中は別の星系へと誘導されることになるだろう。
よって、シブラスミス星系まで追ってくるとしたら……それなり以上に情報収集能力を持っている連中になるだろう。
「自動航行に移行したっす。これで後はシブラスミス星系まで一日半程度、放っておいても大丈夫っすよ」
「ありがとうございます。ジョハリス」
「じゃ、この後についての再確認をしていくか」
「そうですねサタ様。準備をします」
さて、ヴィリジアニラの目も反応していないのが現状である。
と言うわけで、これから訪れるシブラスミス星系についての再確認をしていこう。
「ではメモが説明をさせていただきます。まずこちらがシブラスミス星系の全体図ですね」
メモクシがシブラスミス星系の星系図を映し出す。
恒星が一つ、ガス惑星が複数、小惑星が無数、だが、居住可能な惑星は存在していないようだ。
「シブラスミス星系はバニラシド星系に隣接している星系です。すると当然ながら、開拓が行われたのもバニラ宇宙帝国の最初期になります」
「ふむふむ」
つまりは歴史がある星系という事だ。
「開拓当時の技術では惑星をテラフォーミングするのは難しいと言う技術的な問題。ガス惑星がエネルギー源として、その他の惑星が資源として有用だった事。帝国が版図を広げるに当たって大規模な造船、コロニー建築を行う場が求められた事。などなど、様々な事情が合わさった事で、シブラスミス星系は帝国の工業の一端を担う工業星系になりました」
「だから、シブラスミス星系で作られたものってすごく多いっすよねぇ」
メモクシの言葉通り、シブラスミス星系では宇宙船、スペースコロニー、惑星入植用の特殊なコロニー、その他様々な機械製品が作られている。
そして、それらの機械を作るのに必要なmod、それらの機械に使われるmod、これらもシブラスミス星系では生産されている。
本当に色々な物が作られているので、シブラスミス星系では作れないものは無い、なんて言われるくらいだ。
「今回そんなシブラスミス星系を訪れる理由は大きく分けて三つあります。一つ目はバニラシド星系へ向かうに当たって、最短の道になるのがこの星系である事」
「そうですね。シブラスミス星系の次はバニラシド星系です」
向かう理由の一つ目は通り道だから。
身も蓋もないが、その通りなんだから仕方がない。
「二つ目は『カーニバルヴァイパー』の内装工事。この船が正式にヴィー様のものになっている以上、ヴィー様の要望と地位に合わせた内装にする必要があります」
「個人的にはこのままでもいいと思うのですが……そうはいかないようです」
「まあ、仕方がないっすよね」
「ジョハリスとサタの要望も聞ける範囲で聞くつもりなのは先日伝えた通りなので、後で改めてお願いします」
「分かった」
向かう理由の二つ目はヴィリジアニラ所有の船であるのに、ヴィリジアニラ専用の仕様になっていない『カーニバルヴァイパー』を改修する事。
貴族としてのアレコレが関わってくるらしく、ヴィリジアニラ本人がそう言うのはどうでもいいと思っても、通らないようだ。
ならばいっそと、操作周りはジョハリスに合わせたものにしてしまうし、俺の私室を正式に準備したりする辺り、ヴィリジアニラの思い切りの良さは感じるな。
「三つ目はサタ様の温室や、メモのボディと言った、それぞれがオーダーメイドした装備の受け取りです。これまでの事と、シルトリリチ星系に関わる形で居る黒幕への対処を考えると、これは必須と言えます」
「だな」
「そうっすね」
「ええ、少しでも安全は確保するべきです」
向かう理由の三つ目は装備の調達。
俺がエーテルスペースで使うつもりの栽培室はちょっと微妙かもだが……メモクシの新しいボディなんかは、明らかに今後の荒事を想定したものになるだろうな。
「また、目的ではないので場合によっては途中で切り上げますが、これまで通りに観光や視察は行います。これまでの行動からズレた動きをするのは、想定外を招く可能性がありますので」
観光などは変わらずする。
とは言え、資料を見た限りだと、シブラスミス星系ではシブラスミス星系だからこその料理を探すのが少し難しそうなんだよなぁ……うーん、どうしたものか。
「最後にヴィー様。現在、シブラスミス星系について脅威を感じますか?」
「現状では感じません。なので、メーグリニアの一件のような事は現状では起きていないと思われます」
「分かりました。ありがとうございます」
なお、現在シブラスミス星系では、別星系の一般人にまで伝わるような大事件は起きていない。
なので、警戒するのは普通の事件だけでいいだろう。
「ではこれにて確認を終わります」
そうして俺たちはニリアニポッツ星系を発ち、シブラスミス星系へと超光速航行で向かい始めた。