166:孤立したシルトリリチ
「「「……」」」
「ヴィー様たちの困惑は理解できますので、状況を順に説明していきます」
そう言うとメモクシが映像機器を操作して大手のニュースサイトを表示する。
なるほど、確かにシルトリリチ星系のガイドビーコンが破壊されたと大きく表示されているな。
「まず破壊されたのは帝国共通時刻で一週間ほど前の事になります。こちらに情報が届くのが遅れたのは……内容の真偽確認とシルトリリチ星系の立地の都合ですね」
「ああ、僻地にあるから、シンプルに情報が届くのに時間がかかるのか」
「古式ライフルレースよりも前、ですか」
「ふむふむっす」
破壊された日時はヴィリジアニラの言う通り、古式ライフルレースが行われるよりも前だった。
となると、俺たちにシルトリリチ星系の事に気づかれたからではなく、ただの事故っぽいか?
いや、イナカイニの事件はもう起きているのだから、そこから辿られるのを懸念して……と言うのはおかしいな。
イナカイニはシルトリリチ星系についてのデータは確実に消していたそうだし、ガイドビーコンが破壊されるのは何処でどういう理由でも騒ぎになるニュースだ。
逆に目立ってしまうだろう。
となると、コチラとの関係性は薄そうだな。
「破壊された原因についてはシルトリリチ星系側からの情報がまだないため不明。こちら側から調査員を送ることも検討されましたが、その前にヴィー様の情報があったため、まだ送られていないようです」
「賢明ですね。ガイドビーコンが破壊されたのが故意にしろ事故にしろ、知らずに行くのは死地に赴くようなものでしょうから」
「今はどうなっているっすか? 何も送らないのもそれはそれで問題っすよ」
「ニュースサイトおよびメモのところには何も入ってきていませんね。管轄違いなのもありますし、公式に発表されるまでは知るのは難しいでしょう」
いやそもそもとして、ガイドビーコンが破壊されるとどうなるんだったか?
俺の認識では安全な超光速航行には始点と終点、両方にガイドビーコンが必要だ。
だが、メモクシたちの言葉を聞く限り、片側にガイドビーコンがあれば、何とかなりそうな感じだな。
「ヴィー。そもそもとしてガイドビーコンが破壊されるとどうなる?」
「簡単に言えば安全で正確な超光速航行が出来なくなります。片方でもガイドビーコンがあれば、それでもある程度安全に飛べるはずですが……少なくとも超光速航行から通常航行に移行した際に100キロメートル単位で位置がズレる事にはなるはずです」
「なるほど。じゃあ、この後は?」
「普通なら、まずは現地資材で簡易でもいいからガイドビーコンを再建。それと同時に調査を行って、必要ならばその後に本格的な支援が行われることになりますね。ただ、シルトリリチ星系までの航路の危険性、私たちが得ている情報も併せて考えると……帝国軍が艦隊規模で派遣されると思います」
「ふむふむ」
片方残っていれば、何とか超光速航行は出来るらしい。
普段のと比べるとだいぶ危険なようだが。
特に残っていない側からの超光速航行は、極めて厳密な計算と操作が要求されるものになるようだ。
ちなみにニリアニポッツ星系のように周囲の星系との航路も豊富で、帝星バニラシドも近い星系では、余所の星系で作ったものがないと星系全体の活動に支障を来すなんてこともあるのだが。
シルトリリチ星系のような周囲の星系との連携に支障がある星系では、ほぼ全ての必要なものを自前で確保できるように物資、人材、知識が揃えられているらしい。
なので、言うほど急いで支援をする必要はないようだ。
「ですが、だからこそ分からないのですよね。こんな事件を起こしてどうするのか、と言う点が」
「本当にただの事故なのかもな。イナカイニの後ろの黒幕が一切関係なしの」
「メモもサタ様に同意します。どうにも事件の臭いはしません」
「事故なら事故で問題っすけどね。ガイドビーコンはかなり厳重な警備、防衛が敷かれている上に、ちょっとの損傷くらいならすぐに直せるように予備パーツだって準備されていたはずっす。なのに、すぐに直せないほどの損傷となると……それこそビーコンも併設されるガイドコロニーも木っ端微塵になるくらいの被害が必要っすよ」
事件が起きてもこちらが損をするわけではない。
むしろ堂々と、万全の態勢を整えて乗り込む理由が出来るだけ。
つまり、事件を起こす意味はシルトリリチ星系側にはない。
しかし事故だとすれば……ジョハリスの言う通りで、とんでもない何かが起こったと言う話になってしまうのか。
でも木っ端微塵なぁ……。
「うーん、宇宙怪獣でも出たか? 間の航路には生息していると聞くし」
「それが一番妥当っすかねぇ。宇宙怪獣モドキは生み出せても、宇宙怪獣に手も足も出ないはあり得そうっす」
「判断するには情報が足りませんね。この件については置いておきましょう」
「そうですね。これからシルトリリチ星系側のガイドビーコンが破壊される前に出発した船が現れるはずですし、彼らから得られる情報もあるはずです。それを待ってからでも遅くはないと思います」
「分かったっす」
「そうだな。そうするか」
うーん、残念だが分からないな。
まあ、こちらにとって損になるような状況ではなさそうだし、俺たちが調べに行けるような場所でもない。
少々スッキリしないが、事が事だけに続報も回ってくるだろうし……それを待つしかないだろうな。
俺たちはそう結論付けると、それまで見ていた資料へと目を戻した。
とは言え、新たな何かが見つかるようなことはなかったのだが。