164:ニリアニポッツ星系のまとめ
「こんな所か。メモクシ」
「はい、受け取りました。問題は……なさそうですね。あちらへと送っておきます」
古式ライフルレースから数日が経過した。
この間、俺たちは適当に観光したり、偶然遭遇した事件を解決したり、シブラスミス星系についての情報収集、帝国辺境についての情報収集と言う名のシルトリリチ星系についての基本的な情報収集など、各個人の用事の消化など、色々と動いていた。
今俺とメモクシがやっているのも個人的な事柄の一つで、エーテルスペース内でのヘーキョモーリュ育成に必要な栽培室をシブラスミス星系で作ってもらうための仕様書作りである。
うん、俺が不慣れな作業であることもあって、何度も戻された。
この辺、セイリョー社なら対面でアレソレ言って、本質を見極めて、サクサクと仕様をまとめてもらえるのだけど……まあ、無いものねだりだな、うん。
「サタ、メモ、ニリアニテック元子爵家についてと、異端の機械知性にして宇宙怪獣モドキとなったイナカイニについての資料がまとまったそうです。一緒に閲覧しましょう」
「分かった」
「分かりました」
さて、俺たちが動いているのと同様に、俺たち以外も動いている。
と言うわけで、その成果についての報告書がヴィリジアニラの元まで回って来たので、俺たちは適当な飲み物とお菓子を準備してから、ジョハリスが映像機器を操作して映してくれたそれを見ることにする。
「まずはニリアニテック子爵家についてっすね」
「処分については当然ながら子爵家は取り潰しになりましたね」
「まあ、狙ったのが星系統治者の座を狙う行為、要するに反乱だしなぁ」
「おまけに長年にわたる不正行為と不和の種のばら撒き、これで処分が行われない方が問題でしょう」
ニリアニテック子爵家。
正確に言えば、既に元子爵家になっている。
まあ、ニリアニポッツ星系のSwを調整すると言う重要な役職に就いていたのに、その地位を悪用した犯罪と、ニリアニポッツ星系への反乱を企てていたのだから、取り潰しは妥当以外の何ものでもない。
なお、家は取り潰しになったが、各個人に対する裁きはこれからだ。
帝国には親が罪人なら子も罪人なんて考えはないので、しっかりと一人一人を調べて、犯罪者だけを処分するのだ。
とは言え、家が無ければ、資産もないので、罪を犯していない人間でも、今後の生活は中々に厳しい事になるだろうが。
「ふうん。イナカイニが居た施設はニリアニテック子爵が用意したものだったのか」
「そのようですね。いざと言う時には武力行使をするつもりだったみたいです」
「あの程度の戦力でっすか? 無理があるっすよ」
「正確には別星系に逃亡するための時間稼ぎをやらせるための部隊だったようです。その為だけにあれほどの施設を作るのも無駄ですので、普段は物理と電子、両面の裏取引にも使われていたようですが」
「あ、それなら納得っす」
惑星ニリアニポッツ1にあった施設はニリアニテック子爵、『黒の根』、その他ニリアニポッツ星系に居た犯罪組織が協力し合って、何十年とかけて作り上げたものだったらしい。
元の場所が惑星の中でも僻地であり、何かしらの競技に利用されることもなく、入念な手入れによって隠されていて、一応の土地の所有者がニリアニテック子爵家だったこともあって、これまで発覚する事がなかったようだ。
そして、裏取引に使われていたと言うメモクシの言葉から、どうしてイナカイニがあそこに逃げ込んで、宇宙怪獣モドキになって暴れたのかも見えてくる。
「なるほど。あそこには黒幕の情報……それこそシルトリリチ星系との繋がりも隠れていたんだな。だから、イナカイニを宇宙怪獣モドキにしてまで証拠の隠滅を図ったわけか」
「私もサタに同意します。報告書にはイナカイニの行動の結果、重要なデータは喪失したと書かれていますが、この喪失したデータの中には、露見すれば大本まで辿れるような情報もあったのだと思います」
報告書には、イナカイニの行動の結果、あの施設内にあった有用な電子情報は全て失われたと書いてある、
しかし、電子情報だけが情報だけではないため、残されていた他の各種情報源から、どのようなデータがあったのかの類推は出来たようだ。
つまり、誰が違法な取引に関わっていて、どんなものがやり取りされていたのかと言う情報だな。
なので、報告書にはかなりの数の人間、企業、星系、物の名前が記されることになっている。
ただ、シルトリリチ星系周りの情報は完全に電子情報にしかなかったのだろう。
探しても見つからない。
本当に、全く、一度たりとも出てこない。
なんなら、不和の毒の撒き方を教えた誰かについても出てこない。
うん、俺たちが持っている情報を合わせると、やはり黒幕はシルトリリチ星系の誰かっぽいなぁ。
「そして、イナカイニの出元は分からずじまいか」
「ニリアニテック元子爵との接触は事件発生の一年前っすか。それまでの足取りは完全に掴めないみたいっすね」
「これもまたシルトリリチ星系の黒幕が隠したかった情報、と言う事になりそうですね」
「同意します。恐らくですが、イナカイニの生まれもまたシルトリリチ星系だったのでしょう」
イナカイニの出身及びニリアニポッツ星系に来るまでの経路は不明。
ただ、通常のネットワークには痕跡含めて存在しなかったようなので、何者かが記憶媒体に入れる形で入り込んだのではないか、との事。
まあ、これについては防ぎ切れるものではないし、普通のネットワークに入れば他の機械知性によって感知されるわけだから……都度対処するしかないだろうな。
ちなみにだが、ニリアニポッツ星系で活動中のイナカイニは、メモクシとはまた別の事故死した機械知性のIDを利用して、ネットワークに入り込んでいたらしい。
これを受けて、帝国各地のネットワークでは機械知性たちが色々と確認に追われているようだ。
「さて、報告書は他にもありますので、まだまだ見ていきましょうか」
「だな」
ヴィリジアニラの言葉に合わせて、次の情報が表示された。