163:情報は伝わった
「とりあえず第一報を届けてきた」
古式ライフルレースが終わった後。
『セクシーミアズマ』の船内に普通に戻った俺は転移でセイリョー社へ移動。
大会中に判明した事実をミゼオン博士へと伝えた。
なお、その事実に伴う注意事項が幾つもあるのを伝えたり、ざっと見てもらった後に感想を貰ったりしたので、中々に時間がかかる事になった。
「ありがとうございます。セイリョー社の方はどう言っていましたか?」
「発想と技術は素晴らしい。だが、それで生み出すのがただの爆弾であったと言う点から、黒幕の性根が窺える。だそうだ」
「なるほど」
「まあ実際、この技術を使えば色々と出来そうなことはあるし、表で表彰される事だって難しくはない。なのに、作っているのが爆弾で、もたらすものが破壊だけなんだからな。性根が腐ってるのは確かだろ」
感想を言う時のミゼオン博士の顔は……なんと言うか、呆れている感じだったな。
とりあえずセイリョー社ならば注意さえしておけば、シルトリリチ星系に味方しようとする人間の炙り出しから、断片化したmodを組み立てる事で完成させる技術の検出方法、それの無効化まで、汎用的な技術として生み出してくれるだろう。
なので、多少時間はかかるかもしれないが、危険なmod断片の検出と排除はいずれ出来るはずだ。
「それでヴィーの方は?」
「無事に渡せました。諜報部隊ではなくバニラゲンルート子爵家の人間に渡したので、これで皇帝陛下まで直に伝わるはずです。諜報部隊に流すのは……相手を選んでいるところですね。何処まで相手の手が及んでいるか分かりませんから」
「まあ、下手な相手に渡したら、こちらが気づいたことに気づかれてしまうしな」
ヴィリジアニラの方も、必要な情報を渡すことは出来たようだ。
手段については聞かない。
知って、その事実を意識して俺が動いてしまう方が危険だからな。
「ええそうですね。此処まで、転移能力または時空跳躍からの干渉が出来る黒幕から、こちらへの干渉がないという事は、古式ライフルレースの一件について黒幕は気づいていない可能性が高い。そして、もしも本当に気付かれていないなら、このアドバンテージは最大限生かしたいと私は考えています」
「理想は仕留める直前まで気づかれない事か」
「そうですね。とは言え、相手の大きさと必要な準備の量を考えたら、何処かで気づかれるでしょうが……出来るだけ発覚は遅らせたいところです」
さて、情報の伝達が出来たところで、此処からどうするべきだろうか?
一方的に情報を取得できた点は出来る限り生かしたいところだが……うん、俺が考えるよりもヴィリジアニラの希望を優先するべきだな。
「ヴィーは此処からどうするつもりだ?」
「出来る限りはいつも通りに行動をするつもりです。行動の変化があれば、相手に悟られる可能性は少なくないでしょうから」
「なるほど」
じゃあ次に向かうのはシブラスミス星系であり、そのさらに次に帝星バニラシドへと向かう感じだな。
分かってはいたが、シルトリリチ星系へと俺たちが向かう事はなさそうだ。
まあ、相手のサイズ的に帝国軍の大艦隊を繰り出すことになるだろうし……内乱鎮圧に近い形になるなら、俺たちに出来る事なんてないか。
「ですので、ニリアニポッツ星系にはもう数日滞在して、観光を隠れ蓑にしつつ、情報収集を行います。そうですね……サタが品評会でモリュフレグラー星系などに触れていますし、帝国の辺境や僻地と言う繋がりで、少しだけシルトリリチ星系についても調べてみるのもいいかもしれません」
「その場合は、帝星バニラシドに着いた後の行先を決めるため、と言う感じで調べてみるか。その方がより自然になるだろ」
「そうですね。それでいいと思います」
ただ、調べられることは調べる、と。
まあ、辺境の星について調べてるのに、シルトリリチ星系だけ調べなかったら、逆に不自然になってしまうからな。
当然の話だろう。
「そう言えばジョハリスとメモクシは?」
「二人は『異水鏡』での調査中ですね。結果は芳しくないようですが」
「それはまあ、そうだろうな」
ヴィリジアニラが目を向けた方向へ視線を向けると、確かにジョハリスとメモクシが『異水鏡』を使って調査をしていた。
とは言え、さっき俺が転移してきたことで色々と乱れが出ているだろうし、黒幕はどうにも『バニラOS』に近いが別のOSではあると言う『異水鏡』の仕様上、感知しづらい存在のようだからなぁ……何かを見つけるのは難しいだろう。
「と、『異水鏡』で思い出した。セイリョー社に行ったときに、サタンの金環の改良版を受け取ったんだった。ヴィー、持っておいてくれ」
「分かりました。受け取っておきますね」
サタンの金環は俺の切り札である事象破綻砲の外部制御用modであり端末だ。
メーグリニアとの戦闘で壊れかけになったので、セイリョー社の方で作り直してもらったのだが、ようやく直ったらしい。
「一応、強度とか制御能力とかは良くなっているらしい。事象破綻砲を撃った後の『ブランクOS』の出現もだいぶ減るそうだ。理論上は」
「なるほど。ただ、出来る限り使わずに済むようにはしたいところですね」
「だな」
とは言え、ものがものだけに使わずに済むならそれに越したことはない。
俺もヴィリジアニラも、そこは共通した思いだった。