160:組み立てられるものは? ※
本話はヴィー視点となっております。
「部屋の確認からだな」
サタはそう言うと目を閉じて何かに集中し始めます。
それと同時に一般的には絶対に気づかない程度に、私でもmodによる強化を全力で生かすと共に何度も間近で見たからこそ分かる程度の僅かな変化が、部屋に起きているのが見えます。
「サタ。余裕がある範囲で構いませんから、現状説明をお願いします。場合によっては私たちでサポートできることがあるかもしれませんから」
「分かった。今は……この部屋に張られているシールドmodと素材強化modの確認をしているところだな。えーと、メモクシ、この素材強化modでどれぐらいの実体弾まで防げるかを計算してもらっていいか?」
「かしこまりました。変数が多いので正確な数字は出せませんが、計算してみましょう」
今のサタは部屋の安全性を確かめているようです。
その手の計算は……確かにメモクシの得意分野ですね。
「部屋のmodについては異常なしだ。少なくともmodの構成的には突然消えてなくなるようなことはない。仮に消えるなら……スイッチを切られるか、電源を切られるかだと思う」
「じゃあ、念のためにウチがスイッチの配線とかに仕掛けがないか見てくるっす」
「出来るのか?」
「スライムっすからね。問題ないっす」
とりあえずmodの構成的には大丈夫なようですね。
私たちの中で最もmodについての知識が豊富なサタがそう言うのなら、間違いはないでしょう。
そして、ジョハリスが調べてくるのなら、一般的な仕掛けについては間違いなく調べられる事でしょう。
「サタ様、計算終わりました。少なくとも火薬を増やした程度でどうにかなるような壁ではありませんね。これを古式ライフルで壊したいなら、何かしらのmodは必要だと思います」
「なるほど。という事は仕掛けがあるなら銃弾かライフルの方か。ヴィー、身体検査ってどれぐらいだ?」
「先日の件もありますから、極めて厳重なものになっているはずです。今確認しましたが、何人か没収を受けているくらいですね」
さて、こうなると私がサタを手助けできるのはルールや競技の運行がどうなっているかについてですね。
確認できる範囲は貴族の力も使って確認していきましょう。
「そもそも古式ライフルレースではルールとして、必要最低限以上のmod使用は出来ない事になっています。これは大会運営だけでなく選手たちも知っている事なので、あからさまにmodが使用されたパーツがあれば、選手の方から運営へ向けて声を上げることでしょう」
「なるほど。とは言え、会場に怪しい設備は見当たらないんだよな。となると残りはライフルに使われているパーツくらいなんだが……」
いつの間にかサタは部屋のチェックを終えて、会場のチェックをしているようです。
相変わらず私の目は脅威を感じ取っていません。
なので何もないはずなのですが……。
「ん?」
「どうかしましたか、サタ」
「サタ様?」
「確認してきたっす。何もなかったすよ。サタは……何かあった顔をしているっすね」
サタの表情が変わりました。
何か気になる事があったようです。
「……。ヴィー、メモクシ、ジョハリス。一般的な古式ライフルの組み立て工程ってどうなってる?」
「メモ」
「今、お送りいたします」
メモがサタの情報端末に古式ライフルの組み立てマニュアルを送ります。
そして、情報を受け取ったサタは、真剣な表情で情報端末の操作を続け……。
「っ……!?」
顔を青褪めさせました。
どうやら尋常な状況ではないようです。
サタが普段なら絶対にしないような表情をしています。
「サタ、何が見つかりましたか?」
「……。とんでもないものがあった。起動したらコロニー全体を吹き飛ばしかねないような代物だ。嫌でも、待ってくれ。こんなこと可能なのか? 理論上は上手くいってしまう。けど、確率は現実的なものじゃなくて……」
「サタ、すみませんが、何がどうなればそうなるのかの説明を。場合によっては競技の中止を申告しなければいけません」
「あ、ああ。分かった」
私が促したことでサタが説明をします。
サタによれば……今競技に使われている古式ライフルのパーツ群にはmodの残滓のようなものが含まれているパーツがあるそうです。
それ自体は原材料からパーツを加工する際に使われたmodが残っていると考えれば、おかしなことではないとの事。
ですが、その残滓持ちのパーツの中の一部に残されているmodの欠片が、敢えて残されたようにサタには感じられたそうです。
なので、サタが敢えて残したと感じたパーツの幾つかを理論上で組んでみたところ……。
「質量変換爆弾……ですか。それは……確かにコロニー全体が吹き飛んでもおかしくはないですね」
「と、とんでもないっすね……」
「パーツごとでは意味を為さず、火薬も含めて全てが適切に噛み合う事で意味を為し、トリガーを引くことで発動ですか。よく考えたものですね」
「言いたくはない言葉だが、もはや芸術の領域だな。今日の会場では発動しないからこそヴィーの目にも引っ掛からなかったのだろうけど、何時か何処かで大爆発を起こして、甚大な被害を及ぼす。そういう仕掛けだ」
出て来たのは質量をエネルギーに変換して解放するmodでした。
時間がなかったので理論上でも完成はさせていないそうですが、ほぼ間違いないとの事です。
そして、サタによれば、発動したなら古式ライフル全体がエネルギーに変換されるとの事なので、その爆発力は競技会場に設置されているシールドや爆発対策のmod程度ではどうにもならない事でしょう。
幸いなのはmodが成立する組み合わせは極めて限られており、発動する確率はどんなに高く見積もっても数万分の一程度と言う点でしょうか。
ただ同時に、そんな低確率だからこその悪質さも感じます。
なにせ、それほどの低確率なのですから、もしも成立した時には、誰にも何が起きたのか分からないでしょうし、わざとそうしたと問い詰めるのもまず無理でしょう。
「仕掛けたのは……宇宙怪獣モドキの黒幕ですか?」
「ほぼ間違いなくそうだと思う。こんなの思いついたって、普通は組めるものじゃないからな」
こんな事が出来る相手は私たちは一人しか知りません。
宇宙怪獣モドキの黒幕です。
「サタ、確保しましょう。貴重な手がかりです」
「だな」
ですが同時にチャンスでもあります。
私たちは動くことにしました。