159:ギャンブルチョコ
『さあ始まりました古式ライフルレース! 正しいパーツを選び出す観察眼! ライバルに負けずつかみ取るフィジカル! 正確に組み上げる技術! 作り上げた得物を扱う腕前! ライフル銃に関わる全ての要素を要求される難競技を制するのは果たして誰なのかああぁぁっ!!』
古式ライフルレースが始まった。
えーと、日程によれば、複数グループ存在する予選と予選を勝ち抜いた上位16名で行う決勝に分かれているみたいだな。
ライフルの組み立てと銃弾の調合から始まる都合上、結構時間がかかるようだ。
なお、組み立てに当たって、単純に時間をかけて放置しなければならないような工程がある場合、そこだけは時間加速modを使って短縮する事が認められているらしい。
加速し過ぎれば逆に駄目になるし、加速しないと単純に怠いからだそうだ。
そんな工程が組み立ての何処にあるのかは、素人の俺には分からないが。
「さて、会場に入る前に買った弾丸型チョコでも食べるか」
「飲み物は普通のお茶でいいっすかね?」
「お願いします。甘いものと一緒に飲むなら、そう言う味のが相性が良いですから」
「ヴィー様。メモは軽食の購入をしてきます」
それよりもだ。
珍しい食べ物を優先するとしよう。
と言うわけで、ペットボトル容器に入った甘味の無い普通のお茶をジョハリスが準備したところで、俺はロシアンルーレット味とシルバーブレット味の弾丸型チョコのパッケージを開ける。
「えーと、ロシアンルーレット味は6個1セットで、1個だけ中のクッキー生地が激辛仕様になっているらしい」
「1パッケージに18個入っているという事は、三回まで遊べるという事ですね」
「そう言う事っすね。じゃあ、早速選んでいくっす」
まずはロシアンルーレット味。
普通の弾丸型チョコ5個と激辛仕様の弾丸型チョコ1個が一緒になっていて、見た目では違いは分からない。
なお、激辛仕様と言っているが、正確には唐辛子系、辛子系、山葵系のいずれか一つがランダムに入っているため、どの辛いが来るかは当たってみないと分からない。
「では私から」
「次はウチっす」
「じゃあ、俺はこれで」
取る順番はヴィリジアニラ、ジョハリス、俺の順。
何となくでこうなった。
そして一つ目のチョコを食べるが……うん、普通だな。
『おおっと、激しい取り合いだ! 殴ってはいけません! 殴るのは駄目です! 先に触った方が優先で、完全同時なら、乱数機の出番です!!』
「普通ですね」
「普通だったっす」
「同じくだな」
競技の方は少し騒がしくなっている。
が、ヴィリジアニラの表情からして、これくらいのヒートアップは普通の事らしい。
「じゃあ2個目だな」
「サタからどうぞ。さっきは最後でしたし」
「そうっすね。そっちの方が公平っす」
「じゃ、遠慮なく」
俺たちは二つ目のチョコを取る。
そして、それぞれに口に含んで……。
「~~~~~~~!? 鼻に……来る……!」
「サタが当たりだったっすねぇ」
「様子からして山葵味でしょうか?」
「そう……なる……」
俺が山葵味に当たった。
modによって再現された山葵の風味が口から喉を通じて鼻へと至り、突き刺すような辛味を与えてくる。
触った時点でmodを感じ取り、外れだと分かって覚悟を決めていたからまだマシだったが……いやこれ、結構きついな……。
『命中! 命中です! 驚くべきことに至近距離から撃ち抜くのがセオリーな的を狙撃で打ち抜いたぁ!』
「かっらあぁ! あついっすー!?」
「おおぉぉっ、ピリピリ来るうぅぅ……」
「私が0、ジョハリスが1、サタが2でしたね。私の大勝利です」
「楽しまれているようで何よりです。ヴィー様」
なおその後、普通にジョハリスは唐辛子味を引き、俺は辛子味も引いた。
不味くはないので問題はないのだが、刺激が結構きつい。
「ところでサタは触った時点で当たり外れが分かっていたように見えましたが……」
「ん? ああ、分かってたぞ。でも触った時点で取るべきだろ、そう言うゲームなんだし」
「サタはそう言うところが律儀っすよねぇ」
「素晴らしいフェアプレイ精神だと思います」
とりあえずお茶を飲んで口の中をリセットする。
それから、シルバーブレット味を開ける。
こちらは材料の都合なのか、1パッケージ12個になっていて、12個の弾丸型チョコはいずれも銀色の輝きに包まれている。
「数が少ないけれど、値段は同じだったはずっすよね? なんでっすか?」
「えーと、modを使っている分だけコストがかかっているのが理由なようですね。それと、中のクッキーも少し違うようです」
「なるほど。では早速」
と言うわけで、とりあえず一つ食べてみる。
ふむふむ、なるほど。
表面の銀色は銀箔ではなく、変色modによって銀色を表現しているのか。
なので、味に変化を与えることはない、と。
そして、中のクッキーは……。
「ほどほどに刺激的だな。生姜をメインにして、色々な香辛料を感じる」
「そうっすね。頭がスッキリする感じっす」
「眠気覚ましと脳の栄養補給にちょうど良さそうなチョコですね。美味しいです」
どうやら色々な香辛料が含まれているようだ。
噛む度に口の中で様々な風味が広がって、体の温まりと脳がスッキリするのを感じる。
パッケージ裏曰くシルバーブレットとは魔除けや厄除けの意味があるとの事なので、そう言うのをイメージした味なのかもしれないな。
『素晴らしい第一予選レースでした。どうか選手たちに惜しみのない拍手をお願いいたします』
「頭がスッキリしたついでに思ったんすけど、この古式ライフルレースでどうやって問題を起こすつもりだったんすかね? ここまでしっかりとした対策を組まれている競技で逮捕されるほどの問題を起こすって、そう簡単なものじゃないと思うんすけど」
「そう言えばそうだな。その辺どうなんだ? ヴィー、メモクシ」
「そうですね……私は変に意識をしないように詳細までは教えられていない訳ですが。メモ」
「はい、メモは把握しています。そして、もう行われないので話しますが、どうやら暗殺者の類が選手に紛れていて、密かに持ち込んだシールド貫通弾を使うつもりだったようです。もちろん、この部屋の防備を考えれば、成功の可能性は万が一にもありませんが」
ここで不意にジョハリスが疑問を呈する。
それは確かに謎な部分の話ではあるな。
なので、メモクシが答えた。
「なるほどっす。つまり、ヴィー様……いや、客を殺傷して、それで古式ライフルの運営にニリアニテック子爵家が難癖をつける。みたいな流れが犯罪者側にはあったって事っすね」
「恐らくは。ですが、知っての通り、ニリアニテック子爵家は崩壊したため、この流れはなくなりました。暗殺者になるはずだった選手も先程確保されたと連絡がありました」
「なるほど。では、今日起こるはずだった事件は無くなったという事ですね。いい事です」
ん?
んー……なんだ?
何かが引っ掛かる気がするな。
ヴィリジアニラの目を考えると脅威はないはず、犯罪者たちの表向きの頭だったニリアニテック子爵ももう居ない、宇宙怪獣モドキを生み出している黒幕もニリアニポッツ星系内には居ないっぽい。
だから、何も心配する必要はないはずなんだが……。
「サタ? どうかしましたか?」
「いや、何かが引っ掛かっている気がしてな。ちょっと本体で変な物がないか調べる」
「mod周りへの細工という事でしょうか? それはサタ様にしか容易には確認できない事ですし、念のために調べるのはありかもしれませんね」
「何もないと分かれば、それはそれでいい事っすしね」
どうしてか気になった俺は、本体でこっそりと色々調べてみることにした。