157:古式ライフルレースへ
「今日は自在変形式演習場の6番で、古式ライフルレースの観戦をすることになります。この観戦はニリアニポッツ星系の諜報部隊から観戦する事を依頼されていたもので、先日のイナカイニの件から端を発する諸々によって観戦は任意になりましたが、折角なので行きます」
「自在変形式演習場の6番……なるほどここか。5番と同じで、自由自在に組み替えられる演習場なんだな」
「ウチとしては場所よりも競技内容が気になるっす。古式ライフルレースってどんなのっすか?」
ヴィリジアニラの宣言と共に俺たちは移動を始める。
今日も今日とて表は何かしらの競技が行われていて、それを観戦する人と、観戦者をもてなす人で賑わっている。
そして裏は裏で、一昨日ほどではないが捕物が続いているらしく、表の住民に感づかれないように、何なら捕らえられる側が捕まる直前まで騒がないように、静かに、けれど大きな動きを見せて、独特の賑わいになっている。
「メモ」
「では説明を致します。簡単に言えば、古式ライフルレースはブラスターの原型となった武器を現地で組み立てて、演習場内に設置された的を撃ち抜いていく競技になります」
「ブラスターの原型っすか。つまり、射撃競技の類って事っすね」
さて、古式ライフルレースについて。
概略についてはメモクシが言ったとおりである。
もう少し詳しく述べるならばだ。
出場者はまず、大会側が用意した無数のパーツを組み合わせて、ライフルと呼ばれる銃を作り上げるらしい。
なお、このライフルと言う銃はmodを用いず、火薬の爆発によって小型軽量の実体弾を放つ武器であり、現代ではほぼブラスターに取って代わられている武器だ。
つまり、資源の限られる宇宙、コロニー内、宇宙船内で射撃武器を扱うに当たって、威力、安全性、リサイクル性などを鑑みた結果、競技用と趣味用を除いて廃れた武器でもある。
で、そんな武器を自分で組み上げ、弾丸もその場で作って、特殊な環境が用意された演習場内を駆け回り、複数の的を射抜いていき、最終的にはゴールに到着。
到着後は速さだけでなく、命中率などでも評価がされて、順位が決まるレースであるらしい。
「つまり、速さも重要、手先の器用さも重要、移動の為の身体能力も必要って事か。演習場内で行うとは言え、過酷なレースだなぁ」
「パーツ同士の組み合わせを考える知識やルート選択を考える観察能力とかも必要っすね。これ、ウチが思った以上にきついレースっすよ」
「ええその通りです。ちなみに選手が身につけることが許されているmodは事故防止用のシールドmodだけですので、本人の地力が試されることになりますね」
「ちなみにですが、本レースを観戦するためのチケットは高値で取引されています。ヴィー様たちが今日使う個室ともなれば、金銭だけでは買えない事でしょう」
俺とジョハリスは知らなかったが、結構な人気競技らしい。
うーん、俺とジョハリスが知らなかった辺り、本場はむしろ帝星バニラシド方面と言うか、その周辺の星系なのかもな。
古式ライフル自体、バニラ宇宙帝国の名前に宇宙と付く前の時代の武器らしいし。
そう言う事なら、観戦が任意になったとしても、ヴィリジアニラが見に来るというのも納得がいく話ではあるな。
「さて、近くの駅に着きましたね」
「だな。あ、土産物屋で大会記念の菓子があるし、ちょっと買って来ていいか?」
「構いませんよ。全員分お願いします」
「分かった」
トラムが会場近くの駅に着いた。
駅から会場までの通りはお祭り騒ぎになっており、様々な商店が出店を出している。
色々と見る価値はありそうだが……演習場内にも売店はあるだろうし、今は特別目を引いた物以外は控えておくべきだろう。
と言うわけで、頼まれたとおりに三人分を購入。
「で、何を買ってきたんすか?」
「弾丸型チョコだな。普通の、ロシアンルーレット味、シルバーブレット味とあって、全部三人分買ってきた」
「ありがとうございます。では、普通のを一つ開けて食べながら行きましょうか」
「分かった」
買ってきた弾丸型チョコの一つのパッケージを開封。
えーと、18個一組で、一つ一つが円柱と円錐を組み合わせた形になっているな。
なので、メモクシ以外の三人で、一人6つずつ食べる事にする。
「甘くて美味しいですね」
「あ、中にクッキーが入っているんすね」
「パッケージ曰く弾丸の硬い部分を再現しました、と言う事らしいな」
味は……普通のチョコレートだな。
普通に甘く、ほんの僅かに苦く、チョコのコーティングの下には硬く焼かれたクッキー生地が隠れていて歯ごたえがある。
なんと言うか、シンプルで誰にも嫌がられることのないお土産菓子って感じだな。
もう少し量が多いものを買っていけば、セイリョー社辺りに贈り届けるのも……いやダメだな、ここ最近はヘーキョモーリュのように研究素材を送ってばかりだから、これもそう言う類のものだと勘違いされてしまいそうだ。
贈るなら、ちょっと贈り方を考えないと駄目だ。
「ヴィー様、サタ様、ジョハリス様。会場です。我々はこちらからですね」
「分かりました」
「分かった」
「分かったっす」
そんな事をしている間に俺たちは会場に到着し、中へと入っていった。
古式と言っていますが、宇宙帝国時代から見ての古式です。