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サタヴィーの宇宙帝国漫遊記  作者: 栗木下
4:ニリアニポッツ星系
154/319

154:三回戦とシャイニング

「三回戦……ベスト16。そろそろ選手の何人かには疲れが見えてきていますね」

「過酷な試合が続くと厳しいっすからねぇ……」

「そうですね。未だに盤上競技は体を動かすことがないから楽だと(のたま)う無知な人間は居ますが、実際には彼らのカロリー消費は凄まじいものです。なにせ、一手のミスが文字通りに生死を分けるような戦いを何時間と続けるのですから」

 ナインキュービックの早指し大会は三回戦に入ったらしい。

 そして、ヴィリジアニラの言葉通り、何人かの顔色は良くないな。

 対局中にエネルギー補給として甘い飲み物や間食の類を口にしているはずだが、それでは補いきれないほどにエネルギーを消費しているのだろう。


「人造人間と機械知性の選手は変わらずっすね。とんでもないのは……人間でも顔色が変わっていないのが居るっすね」

「……。もしかしたら胃腸の消化吸収を効率化する身体強化modくらいは積んでいるかもしれませんね。それなりに激しい対局をしているはずですから」

「あるいは、傍目には激しく見えても、彼にとってはなんてことの無い対局だったのかもしれませんね。ヴィー様が挙げた彼は頭脳労働特化の人造人間と、ナインキュービックに特化した機械知性を差し置いて、優勝候補として扱われているようですから」

 ちょっと興味が出て来たので、ヴィリジアニラたちが話している人物を見る。

 見た目は……普通のヒューマンだな。

 ただ、美味しそうに菓子を食べていて、対局中ではあるが、まるで緊張感はないな。

 あまりにも緊張感がないからか、むしろ対局相手のエルフが困惑し、焦っているようにすら感じるな。


「と、来たみたいだな」

『失礼いたします』

「昼食ですね。サタ、受け取りをお願いします」

「分かった」

 と、ここで俺たちの昼食が届いたので、俺が部屋の外に出て、此処まで持ってきた会場の職員から受け取る。

 さてメニューは……消化と吸収に良さそうな粥、見るからに甘そうなフルーツ、少量だが鮮やかに盛られたサラダと肉、小さくて黒いボトルに入れられた飲料と複数の透明なコップに大きなボトルに入れられた水と牛乳。

 それからメモクシ向けのエネルギーパックだな。

 うん、注文通りだ。

 と言うわけで、支払いを終えた俺は食事を室内に入れる。


「では、いただきます」

「いただきます」

「いただくっす」

「メモもいただきます」

 では食べていこう。

 今日のメニューは個室向けの特別メニューであるが、同時に選手たちが食べたがるようなメニューでもある。

 具体的に言えば、消化と吸収に良く、脳への迅速なエネルギー補給が行え、その他体のバランスを整え、最後に脳みそをシャキッとさせる、と言う感じだ。


「粥は多少ですが砂糖が混ぜてある感じですね」

「塩気もちゃんとあるっすよ」

「一気にかき込みやすくて、食べやすい感じだな」

 粥は……うん、食べやすい。

 適度な甘みと塩気があって、柔らかく煮られており、その気になればスープのように飲み干すことも出来そうだ。

 ちなみに俺の舌は嚥下しやすくなるように、喉に居る間だけ粥がさらに柔らかく、滑りやすくなるようにmodが付与されているのを感じている。


「糖分の暴力を感じる」

「頭が癒される感じがしますね」

「それでいてちゃんと美味しいから、素晴らしいと思うっす」

 続けてフルーツ。

 ものとしては、先日も食べたグルコース葡萄なわけだが……俺が買って出した物よりも質が良い感じだな。

 なるほど、これが最高級品。


「サタ。メモからサタがエーテルスペースでヘーキョモーリュを育てるための施設を考えていると聞いていますが、このグルコース葡萄とかも育てませんか?」

「一種の家庭菜園って奴っすね。出来るなら有りだと思うっす!」

「うーん、まずはヘーキョモーリュが上手くいってからだな。資料を見る限り、ヘーキョモーリュは割と雑な環境でも育つんだが、グルコース葡萄とかはそう簡単にはいかないだろ」

「そうですか……」

 次にサラダと肉。

 サラダはニリアニポッツ星系産の普通の野菜だな。

 肉については……牛に近い感じかな。

 柔らかくなるように煮込まれた後に炒められた感じだろうか。

 むしろ目を引くのはかけられていたドレッシングだな。

 脳の働きに良いとされるような成分が色々と含まれているようだ。


「さて、ある意味お楽しみはこれだな。封を開けるぞ」

「「……」」

 さて、最後に飲料である。

 名前は……超高輝度シャイニングコーヒー。

 俺はゆっくりと蓋を開ける。


「「「……!?」」」

 そして蓋を外した瞬間、メモクシによって照明が落とされていた室内が虹色の輝きに満たされる。

 対恒星用の遮光modを展開していた俺は問題ないが、それでも驚くほどに眩しい。

 ヴィリジアニラとジョハリスも……うん、いつの間にか付随していた遮光グラスを目に付けているな。


「これはすごいな。もはや照明代わりだ」

「ええ、とてつもない輝きです」

「摂取していい量に制限がかかっているのも分かるっすね」

「そうですね。サタ様以外は気を付けて飲んでください。要するに超高濃度のカフェインですので」

 なお、肝心の味は……うんまあ、とにかく濃いだけで、普通のコーヒーだな。

 原液をそのまま飲んだ感想についても同様……いや、異常濃縮するためのmodとかは感じるな、でもそれだけである。

 ちなみに、カフェイン中毒防止用にあれこれと仕掛けが施されているので、飲み過ぎる心配は不要である。


 うん、美味しかったな。

 会場の外が少々騒がしいのが気になるが、午後もこのまま観戦を続けるとしよう。

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― 新着の感想 ―
[一言] 何の光ぃ!?ってなってたのかねぇ?www
[一言] >会場の外が少々騒がしい 当然だけど違反行為、違法行為取締りのごたごたが続いてるんですね
[一言] >「サタ。メモからサタがエーテルスペースでヘーキョモーリュを育てるための施設を考えていると聞いていますが、このグルコース葡萄とかも育てませんか?」 「一種の家庭菜園って奴っすね。出来るなら有…
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