149:キッシュモドキ
「とまあ、そんな事があった……」
「お疲れさまでした、サタ様。理解できない存在を相手にしてさぞ疲れたと思いますので、ゆっくりとお休みくださいませ」
「あーいや、今は余計な事を考えたくないから、夕食でも作ってる」
「そうですか」
『セクシーミアズマ』に帰ってくると、メモクシが出迎えてくれた。
なので、俺は品評会で出会った自称変なおっさんについて話しておく。
本当にあのおっさんは何だったのやら……。
さて、メモクシ以外は何をしているかと言えば……。
ヴィリジアニラは……帝国軍との話し合い中っぽいな。
ジョハリスはレポートが終わって疲れたのか、寝ているようだ。
まあ、気にしなくて良さそうだな。
「さて、今日買ってきたものだと……単純な調理だけして味わうのと、合わせてキッシュモドキでも作るか」
体を変えて台所に立った俺は、品評会会場で買ってきたものを出していく。
えーと、モーモーダックの乳卵、ンホホホフェオフェオーの熟成ベーコン、何処の物だったかは忘れてしまったが、ジャガイモ系の芋に、ニンジン系の根菜に、ホウレンソウ系の野菜だ。
「芋たちは切ってから煮て柔らくして……」
うーん、どんな食材なのかよく分かっていないからな。
ただ茹でただけのものを少し摘まんでおくか。
ジャガイモは……良い感じにホクホクしてて甘いな。
ニンジンは……歯ごたえがしっかりとしている感じに、疲労回復効果を感じるな。
ホウレンソウは……僅かに苦味はあるが、栄養が詰まっている感じだな。
流石は品評会で売られていただけあって、品質もよければ、栄養もいい感じだ。
「ベーコンも焼いてから切って……」
続けてンホホホフェオフェオーの熟成ベーコン。
見た目は赤身100%と言う感じだな。
そんな肉厚のベーコンの表面を焼いてから切って、切れ端を一つ摘まんでみる。
味は……おお、濃厚だな。
鳥、牛、豚のどれとも違う味だが、滑らかで均一で秩序だった感じの味がする。
匂いも普通の肉のそれで、シンプルに美味しいな。
なお、付随していたパンフレットによれば、ンホホホフェオフェオーは四本の牙のような足でゆっくりと惑星上を歩き回る、高さ3メートルほどの円錐型の生物であり、円錐の底にある口で地面にあるものを何でも食べて、必要なら原子レベルで分解、再構築して自分の体にする、掃除屋のような生物であるらしい。
うーん、その強力な分解と再構築能力のおかげで、質のいい肉を持っているのかもしれないな。
「さて、こういう味なら、比率はこれくらいにして……」
俺はこれまでも食材を適当な大きさに切ると、モーモーダックの乳卵の中身をかき混ぜた代物の中へと投入して、良く絡ませていく。
そしてフライパンへと投入して、焼き固めていく。
時々フライパンを振って焦げないように気を付け、必要ならmodも使ってひっくり返し、全体へとしっかり火を通していく。
とまあ、こんな感じでキッシュモドキの完成である。
「出来上がったぞ」
「ありがとうございます、サタ」
「うーん、すごくいい匂いがするっす」
「見事な出来ですね」
俺はキッシュモドキはそれだけで。
キッシュモドキにしなかった分は別の皿に盛って、運ぶ。
主食は……ああうん、品評会で買ったパンがあるな、ではこれで。
すると話し合いが終わったらしいヴィリジアニラが顔を見せ、匂いで気が付いたらしいジョハリスが姿を現し、夕食になる。
「サタ、美味しいです。体の疲れも取れそうな感じですね」
「単品でもまとめても美味しいって凄いっすね」
「流石は品評会だけあって、基本的には何処の星系のブースも気合いが入ってたな。おかげでいい買い物が出来た」
さてキッシュモドキの味は……うん、いい感じだな。
モーモーダックの乳卵を使った分だけ乳製品感が出た生地に、事前に処理した各食材が良い感じに絡み合っている。
自画自賛になってしまうが、口の中で様々なうま味が溢れて、実に美味しい。
これは大成功だな。
「惜しむらくは、日常的に出すには難しい組み合わせであるという点かもなぁ。色々な星系の品を使ってるから」
「それはあるでしょうね。正確な成分調整で代用も出来るかもしれませんが、それで上手くいくとも限りませんし」
「だったらしっかりと味わうべきっすね。うーん、美味しいっす」
うん、ジョハリスが正解だな。
もう一度作るのが難しいなら、今あるこれをしっかりと味わっておこう。
「ところでサタ。気づいてます?」
「ん? 何がだ?」
食事後。
何か言いづらそうな雰囲気になっているヴィリジアニラが近づいてくる。
「その、何を食べてきたのかは分かりませんか、今のサタと言いますか、帰って来てからずっと、落ち着いた状態になると、結構な匂いを纏ってますよ」
「えっ!? は? 体なら帰って来てから一度変えたんだが……」
ヴィリジアニラ曰く、どうやら今の俺からはヘーキョモーリュの球根の匂いがしているらしい。
「そうなのですか? でも、体を変えていないかのように匂ってますけど……」
「まさか……これが原因なのか?」
「ああ、これが例の……」
「そうそう。いやでも傷はないな。じゃあ、あの時食った奴か?」
俺はヘーキョモーリュ1ダースを取り出す。
どれも傷ついていないし、スッキリとした匂いしか出していない。
「うーん……」
「サタが例の自称変なおっさんから言われた通り、調べてみる価値は確かにありそうですね。サタが体を変えても匂うというのなら、その仕組み次第では何かに使えるかもしれませんから」
「そうだな。暇を見て調べてみるか」
うーん、ヘーキョモーリュ、調べられる範囲で調べるか。
後、セイリョー社にも半ダースくらいは送っておこう。
素人の俺が研究するよりも、その方が情報は出るかもしれない。
なお、匂いはその後数時間ほどは体を何度変えても取れなかった。
タルト生地の類を使っていないため、キッシュモドキなのです。