147:モリュフレグラー星系
本日は三話更新です。
コチラは三話目になります。
改めて、明けましておめでとうございます。
これからもよろしくお願いします。
「ヒラトラツグミ星系……モーモーダックは珍品扱いなのか」
「おや? ヒラトラツグミ星系の出身者の方で?」
「ええ、そんなところです」
さて、ンホホホパーダ星系のブースを後にした俺が次にやってきたのはヒラトラツグミ星系のブースだった。
展示されているのは白黒斑点模様が特徴的な鴨……生きたモーモーダックであり、販売されているのはヒラトラツグミ星系に生息している鳥類の肉や卵、その他生産物だ。
「しかし珍品扱いなのか……」
「そりゃあ珍品と言うか珍獣ですよ。ヒナに与える餌として、乳に似た栄養が詰まった卵を産む鳥なんですから」
「へー……。卵1パックください」
「ありがとうございまーす」
うーんまあ、どこの星系にも、そこにしか居ない生物と言うのは居るからな。
モーモーダックもその類と考えれば、別におかしなことでもないか。
と言うわけで、1パック12個入りの卵を購入して、次のブースへ。
なお、今の俺は買ったものを入れるためのキャリーバッグを引いているのだが、このキャリーバッグから『セクシーミアズマ』船内にある冷蔵庫に買ったものを転移させているので、買ったものの持ち運びで俺が苦労する事は無いようになっている。
「フワフローサボテンねぇ」
「可愛いでしょ? 育てる手間もほとんど不要よ」
「反射神経を鍛えるオートスタートピストル」
「スタートの差が勝負の差ですからね」
「最新式の肉体づくりマニュアル」
「我が星系自慢の一品です」
さて、その後も俺は会場を歩いて回り、目に付いたブースへと近づいていく。
どこも今回のテーマに沿った品物を持ち込んでいて、売り込みの声も手も止まない。
「プロテインジュースです」
「おー、ストロベリー味がいいな。mod頼みだけど」
「ナーヴビルド錠剤です」
「あ、すみません。そう言うのが利かない体質なもので」
「帝国最高峰、究極のリラックスと再生の時間を貴方の手に、リジェープ寝具一式でございます!」
「おお、お値段がヤバい……」
そうやって見て回り、ヴィリジアニラたちへのお土産としてちょうど良さそうな代物があったら購入していく。
具体的には芋とか、葉物とか、お菓子とか、そう言う消え物だな。
消えない物は……どの程度のものまでならセーフなのかが、まだちょっと分からないんだよなぁ。
「ん? んー……人が居ないブースがあるな」
と、ここで店員以外の人が居ないブースを見かけたので、そちらへと近づいてみる。
「えーと、モリュフレグラー星系。聞いたことがないな」
星系の名前はモリュフレグラー星系。
情報端末で少し調べてみたところ、今年に入って首惑星予定の星のテラフォーミングが完了し、入植が始まったばかりの星系のようだ。
つまり、まだ何が眠っているのかも分からないような星系であるらしい。
「んー? だったらむしろ注目されるブースだと思うんだが……」
「本当に急な出展だったらしくて、現状の報告以外が殆ど出来ていないらしい。だから、前を通りがかってチラ見はしても、それ以上は……まあ、開発の為の寄付か出資をしたい人間くらいだそうだ」
「なるほど。あ、事情解説ありがとうございます」
「いやいや、疑問に思っているようだったからね」
なんか気が付いたら隣に人が居た。
水色の髪に紫の瞳は染色の類として、露出度が高いのか低いのか、帝国法に抵触しているのかいないのか、なんかこう際どい服装をしてる人だな。
「それでその、どちらさまで?」
「通りすがりのおっさんです。さて、モリュフレグラー星系の現状はどうなっているのやら」
おっさんと言うが、見た目は20歳前後の男性……いやなんか、女性っぽい感じもあるな、全体的には男性だけども。
それと周囲の空気も何と言うか全体的に弛緩している感じだ。
なんと言うか、本当に不思議な人だな。
とりあえず自称おっさんがブースに近づいていったので、俺もブースに近づく。
「いらっしゃいませー。と言っても、お売りできる品はこちらの香料くらいでして、その香料にしても、まだまだ研究が進んでいない状態なんですけどね」
モリュフレグラー星系の店員は……なんと言うか、卑屈な感じだなぁ。
まあ、売るものもないと言うか、アピールポイントもまだよく分かっていないのに、こんな場所へやってくることになったなら、そういう態度にもなってしまうのかもだが。
「ふーん。色々と新種の動植物が居るみたいだな」
肝心のモリュフレグラー星系については……本当にまだテラフォーミングが終わったばかりらしい。
こんな動植物が確認されましたと言う写真や、Swとテラフォーミングの影響を受けたらしい特殊な鉱物の写真はあるが、それだけだ。
動植物の生態研究もまだなら、可食部位の有無や味についてもまだだ。
鉱物にしても、どういう性質があるかもまだ調べ切れていないらしい。
なるほどこれは……品評会に出店するには時期尚早としか言いようがないなぁ。
「で、これが商品となる、入植地点近くで一番多く生えており、匂いも特徴的だったという事で持ち込まれた、ヘーキョモーリュと言う草であり、花なわけか」
それでも俺は商品を見る。
ヘーキョモーリュと言う草は、玉葱のような球根から茎を伸ばし、白と黄色の二色で彩られた花をつけ、スッキリとした感じの香り……ただ、俺が嗅いだことのない匂いを放っている。
えーとだ。
強力な毒性がない事と、胃腸関係で多少の薬効があるのは確認されている。
だが、栄養価的に食用には向かない。
花から作り出した香料はスッキリ系。
球根部分をすり潰しても香料は作れるが、こちらは特徴的な匂いを発するもので、しかも中々取れない、と。
「おーい、君。折角だから、一緒に球根を焼いて食べてみないか?」
「? ええっ……」
此処でなぜか自称おっさんが俺に声をかけてくる。
手には球根付きのヘーキョモーリュが二株あって、何処から取り出したのかは分からないが、匂い漏れを防止するmodと七輪が既に設置されている。
いやあの、コロニー内って基本的に指定場所以外で火を焚くのが禁じられているはずなんだけど……この自称おっさん、フリーダム過ぎないか?
「大丈夫なんです?」
「品評会運営の方から許可はもぎ取ったそうです……その、あの方からはモリュフレグラー星系への巨額の融資もいただきましたので、お客様に支障が無ければ付き合っていただけますと……幸いです」
なんか、モリュフレグラー星系の人も遠い目をしてる。
いったい何者だ?
あの自称おっさん。
「えーとまあ、問題はないので付き合います」
「ありがとうございます。本当にありがとうございます」
うーん、いったいどうしてこうなったのか、訳が分からない。
訳が分からないが、タダ飯が食えるなら、その分くらいは付き合うか。
そんなわけで、縦に裂いたヘーキュモーリュを七輪へと置き始めた自称おっさんの下へと、俺は近づいていった。