143:少しだけ単独行動
「残念ながらこれ以上絞り込むことは不可能そうですね」
「そうだな。OSが違う以上、相手も宇宙怪獣かモドキである事は確実なんだが、追い切れなさそうだ」
「悔しいっすね。今まで影も形も見えなかった相手なのを考えると、大きな一歩なんすけど」
「ヴィー様、サタ様、ジョハリス様。いずれにせよ切り上げましょう。今回は相手のが上手でした」
黒幕が宇宙怪獣なのは分かった。
これは『バニラOS』と酷似はしているものの、黒幕の持つOSが独自のものである事から、ほぼ確定である。
薄く、今俺たちが感知しているのは、本当の黒幕によって宇宙怪獣モドキにされて、いいように使われているだけの可能性もあるが……まあ、やる事に変わりはないのだから、大差はないな。
「はぁ……とりあえず軽い食事の準備をしておく」
「ありがとうございます、サタ」
「お願いするっす」
「メモもエネルギーの補給をしておきます。今日は疲れました」
とりあえず黒幕はもうニリアニポッツ星系には居ない。
それと、『異水鏡』の優先検出対象としての登録は出来たので、次に検知した際にはもう少し違う動きが出来る事だろう。
「甘いもの、甘いもの……グルコース葡萄はとりあえず出すとして……」
俺はコロニー内の商店で買った、脳を癒す成分に溢れているらしいグルコース葡萄を出す。
さて、これをどうしようか……。
そして、俺が考えている間にヴィリジアニラたちの声が聞こえてくる。
「そう言えば明日以降はどうするっすか? 今日は色々と想定外があったっすから、調整を入れるのもありだと思うっすよ」
「明日はひとまず休みましょう。今日の影響もあって、見たい大会がやっているかも怪しいですから」
「ヴィー様。例の見るのを頼まれた大会については如何いたしましょうか? もう数日後の話ですが」
「そちらは行く予定のままですね。現状、ニリアニポッツ星系内で脅威は感じませんが、作戦中止、大会中止、どちらの知らせも来ていないようですから」
「そうですか。……」
ああそう言えば、そう言う要望があったなと思いつつも、俺はグルコース葡萄を薄い肉で巻き、焼いていく。
醤油他幾つかの調味料を足して……うん、グルコース葡萄から自然と染み出した糖によって、いい感じに甘じょっぱいソースになったな。
そして、modを使って、肉と葡萄の中へとソースを染み込ませていく、と。
後は暖かいパンとスープ、それからカット済み野菜を皿に盛って……完成だな。
「美味しそうっすね」
「いい香りですね」
「ああ、上手く出来た感じだ」
味は……うん、思い付きに近い形で作ったにしてはいい感じじゃないか?
肉の旨味と甘味、葡萄の甘さと歯ごたえ、甘じょっぱいソース、これらが組み合わさる事によって、フルーティーでありつつ脳の疲れが癒されていきそうな感じがする。
「それで、明日以降の予定について話していたが……」
「サタは何処か見たい大会や行きたい場所などありますか? 私の予定との兼ね合いもありますが、問題ないなら行きましょう。ジョハリスが選んでも大丈夫ですよ」
さて、食事を摂りつつ話の続き。
話をしやすくするためか、いつの間にかメモクシがモニターにニリアニポッツ星系でこれから開催される予定の主要な大会の表を出してくれているので、それを見ながら話をすることにする。
「うーん、個人的にはニリアニポッツ第一プライマルコロニーでやっている新種・珍種・帝国物産品評会ってのが気になっているんだが……流石に無理があるな」
「何時ですか? なるほど、明後日までですか。シンプルに私たち全員で向かうには時間が足りるか怪しいですね」
「ウチたちが今居る基地コロニーから第一プライマルコロニーまで、ドックの使用許可申請とか考えると、丸一日は欲しいっすからね。着いてからの移動やら何やらまで考えると、本当にギリギリっすね」
俺個人としては、明後日まで開かれているらしい新種・珍種・帝国物産品評会と言うのが気になっている。
なんでも、帝国各地で採取された珍しい物品や、品種改良を重ねて奇妙なものになった生産物が100種類以上持ち込まれ、品定めされるらしい。
なお、開催期間は一週間ほど。
ちなみにこの手の品評会は色々な星系で開催されており、ニリアニポッツ星系独自のものではない。
だが、星系ごとにSwと評価基準が違うために、本当に変な品が出てくるし、それらが調理された結果として面白い品も出てくる。
ニリアニポッツ星系なら……肉体づくりに関係するような品が出てくる可能性が高いだろうな、たぶん。
そう言うわけで、個人的には行きたいのだが……俺一人ならば転移で簡単に行けるが、全員で行くにはちょっと遠い。
「そう言う事でしたら、明日明後日、ヴィー様たちは『セクシーミアズマ』の船内で待機し、サタ様お一人で向かうのはどうでしょうか? サタ様なら転移で問題なくいけるはずですので」
「そうですね。それなら行けそうです」
「いいのか?」
と、思っていたら、何か俺一人で行く流れになりつつあるな。
それは護衛としていいのか?
「問題ありません。仮に何かあったとしても、サタ様ならば転移ですぐに戻ってこれるので、どうとでもなるはずです」
「それはまあそうか」
「そうですね……一人で気兼ねなく向かうのがあれだと言うのなら、サタが美味しいと思った野菜か、調理したものを会場で買ってきてください。楽しみにしてますから」
「分かった。買ってくる」
そんな訳で、あっさりと俺一人で向かう許可が下りた。
「それはそれとしてサタ様。品評会に向かうのであれば……溜められているレポートは明日中に仕上げる事をおススメいたします」
「ヒュッ……」
「大変で……」
「ヴィー様も同様ですよ? それとジョハリス様もです。機会を見てやっておかないと……取り立てが入りますよ? 今回の事件の規模から考えて」
「ピッ……」
「飛び火したっす!?」
なお、先にレポートをやらなければいけないため、明日はレポート地獄になる事もいつの間にか決定していた。