139:施設の制圧
本日は三話更新になります。
コチラは二話目です。
「出て来たな……と!」
「「「ーーーーー……!?」」」
施設の中から人造人間たちが出てくる。
それも数任せではなく、特殊車両、パワードスーツ、軍用ブラスターなどで武装した状態でだ。
が、出て来たそれらを包み込むように俺は本体の腕を伸ばすと、絞り上げ、内側にある全てを難なく絞め潰す。
本体の腕はmod無効化の墨も纏っていたので、彼らが身に着けていたシールドmodすら機能せずに一網打尽である。
「まあ、流石に直ぐ次が出てくるような真似はしないよな」
そうして先行した部隊が一瞬で消滅したからだろう。
施設内に未だ留まっている人造人間たちは明らかに困惑していて、出ていくのを躊躇っているようだった。
ただこの場合、戸惑っているのは異端の機械知性の方であって、人造人間たちの方じゃない。
今さっき潰すついでに人造人間の製造や教育に使われているmodを解析した限り、感情のブレは一切なく、目的の為に自己と他者の死を許容し、製造者の命令はタイムラグほぼゼロで実行するような精神構造になっていたからな。
そんな精神構造では動揺する事なんて、したくても出来ない。
「ヴィー。分かっているとは思うが、俺が抑えられるのはこの穴だけだぞ。海底通路はもちろんだが、小型ドローンで換気口辺りを使って脱出された場合には追えない」
『分かっていますので大丈夫です、サタ。そちらについては帝国軍と機械知性の方で既に対応を始めています』
さて、正面からが無理ならそれ以外からと考えるのは当然の事だろう。
現に施設の中では、俺の侵入を警戒するように待機している人造人間たちが居る一方で、宇宙船を使って海底の通路から逃げようとする動きもあれば、何かしらの機械を急いで組み立てているような動きも見られる。
機械知性を収められる情報媒体の最低サイズがどの程度のものなのかは俺には知識がないので分からないが……メモクシの事を考えれば、人の頭ぐらいのサイズがあれば十分であろうし、油断は出来ないな。
だから俺はヴィリジアニラに懸念事項を一応伝えた。
「……。みたいだな」
そして、流石はヴィリジアニラ、帝国軍、機械知性と言うべきか、俺の懸念事項は想定の範囲内でしかなかったらしい。
空から細いブラスターが降り注いで、森の中に居た何かを焼いているようだ。
海底の方でも出待ちをするように複数の海中戦闘専用の戦闘機が待機していて、逃げ出そうとした宇宙船を沈めているのが本体の視界で見えた。
「来たか」
「サタ殿ですね。我々が制圧を行っている間、こちらでの警戒をお願いします」
「分かりました。プロの方に言うのも如何なものかと思いますが、どうかお気をつけて」
「お気遣い感謝いたします!」
と、ここで俺の背後からパワードスーツを着た帝国軍の軍人たちとそれに随伴する歩兵の軍人たち、合わせて数十名が現れる。
彼らは敢えて音を立ててこちらに近づいてきており、俺が視線を向けると直ぐに自分たちの所属を示すように情報端末からホログラムを出す。
どうやら、彼らがこのルートからの突入部隊のようだ。
念のためにヴィリジアニラにも問い合わせたが、間違いはなかった。
「うーん、何と言うか、此処まで順調だと不安になってくるな」
『と言いますと?』
「異端であっても機械知性は機械知性。高い計算能力を持っている事は、演習場の一件からでも分かってる。そんな奴が今の状況を予想できないものなのかと思ってな」
『当然の懸念ですね』
突入部隊の戦闘は……うん、順調だな。
一方的に人造人間たちを制圧していっている。
他のルートについても問題はなさそうだ。
此処まで問題が無いと……何か見落としがないかと、逆に不安になってくるな。
「ヴィーはどう思う?」
『……。個人的な意見を言わせてもらうなら、異端の機械知性ことイナカイニ、彼もまたトカゲの尻尾だったのではないかと思っています』
「それはつまり……長年ニリアニポッツ星系を蝕んでいたニリアニテック子爵家を異端の機械知性を使って切り捨てて、その上で異端の機械知性まで切り捨てた? という事は施設の中で今もサーバーが動き続けているのは……」
『ええ、本当の黒幕が逃げ切るための一手ではないかと考えています。もちろん、帝国軍と機械知性が本気になれば、サーバーのデータを消すどころか、物理的に破壊をしたとしても、ある程度までならデータの回収が出来るとは思っていますが……。それも込みで黒幕が動いているのなら、悔しいですが、追い切れないかもしれません』
「厄介だな……」
本当の黒幕か。
確かにこの状況なら警戒するのは当然と言えるし、実際にあり得そうな話だ。
だがしかしだ。
「けれど本当に黒幕が居るなら、そいつは何で切り捨てたって話になりそうだな。まだ手がかりをつかむどころか、見えてすらいなかっただろうに」
『そうですね。妙な話ではあります。あ、そうですね。サタに一つ言っておくなら、私の目は演習場の件を切り抜けて、『セクシーミアズマ』の船内に戻った時点で脅威がなくなったのを感じていました。ですので……』
「なるほど。そこから見ても、今の状況はトカゲのしっぽ切りで濃厚になるのか……。それとヴィーの目を警戒した可能性も……一応あるのか?」
『そうなると私は考えています』
「本当に厄介な話だな……」
うーん、何と言うか、状況が分かり易くなったと思ったら、また分かりづらくなってしまった感じだな。
しかし、本当の黒幕が居るとしたら何者だ?
ヴィリジアニラの目は、代々の身体強化modの積み重ねの結果として、周囲に青緑色の燐光が現れている。
だから、視覚関係でかなりの強化が施されているのは傍目にも分かる。
けれど、それだけの強化が施されているのが分かっていても、一瞬の感知すらされるのを拒否して逃げると言うのは……普通じゃないぞ?
『いっそここでイナカイニが宇宙怪獣モドキにでもなってくれれば、黒幕の正体が絞れて、多少は楽になるのですけどね』
「ははは。まあ、確かに楽ではあるな。今ここで出現するなら、俺が対処すればいいだけの話だしな」
さて、こんな感じに警戒は続けていても、余裕をもって思索に耽っていた時だった。
「あ……」
『え?』
「……」
『サタ? えーと、まさか……』
「宇宙怪獣モドキが出現した……」
あの空間跳躍を用いた干渉の気配。
『バニラOS』に似てはいるが、全く別物のOSに変質していく感覚。
本体視点で見えている、異端の機械知性が居るサーバーと無数の人造人間たちが融合して、一つの形を作っていく光景。
『……。データの確保を諦めて、確実に撃滅してください。帝国軍には話を通しておきます』
「分かった。全力で対応する」
俺はサーバールームで形成されていき、最終的にはエイに似た形を形成したそれの前へ転移した。