138:機械知性の倒し方
本日は三話更新になります。
コチラは一話目です。
「到着したぞ。現場の状況は……電波は使わない方がいいんだよな」
『ええ、使わないでください。声についても気を付けてください。何処に監視があるのか分かりませんので』
転移完了。
俺は適当な樹の幹裏に隠れるように転移して、枝に足を置く。
そして、幹と葉で隠れつつ覗き見れば、地下に続くような大きな穴が開いている。
サイズ的には……普通の車なら片側二車線くらいな感じか。
ただ、穴に繋がる道は獣道が精々である事を考えると、人も物もそんなに出入りはしていなさそうだな。
『サタ。空からは見えない範囲で、周囲の様子をお願いします』
「分かった」
俺は現地に居る人形の口を動かさず、ヴィリジアニラ側に居る髪飾りからだけ声を発する。
さて、周囲の様子だが……。
「地下に繋がっていそうな穴は二つ。俺の前にある大穴と、近くの崖下と言うか海面下にある穴だな。周囲の様子を見る限り、後者の方が物資と人の搬入に使われていそうだ」
『アンテナの類はどうですか?』
「俺の目では分からないな。あるとするなら、周囲の樹や岩に偽装されているんじゃないかな?」
周囲は密林に覆われている。
そして拠点そのものは地下にある。
物資の搬入すら、海面下数十メートルの地点にある穴から行われていたようだ。
だからこそ、今までこの拠点は誰にも存在を知られてこなかったのだろう。
『内部の状況をお願いします』
「広いな……。ざっと見た感じでも、数キロ四方で複数層くらいはありそうか。と、人造人間の製造装置及び、待機状態の人造人間の集団を確認。全員武装済みで、100人以上は確実に居るな。ついでに潜水可能な武装宇宙船に、密林でも木々をなぎ倒して走れる特殊車両、ドローンに戦車、隠されているが対空砲と言ったものもあるな。それも、それぞれが複数台だ」
『この時点で完全にアウトですね。違法な人造人間の製造装置に武力の準備をしているわけですから』
「だなぁ」
しかしまあ、随分と豪華な装備をしている。
下手な宙賊どころか傭兵団よりもよほど装備が充実しているんじゃないか?
まあ、帝国軍と比較したら貧弱もいいところだが。
『コンピューターのサーバーの類はどうですか?』
「あるな。最深部に何かしらの実験設備群があるんだが、そこにサーバーが立ち並んでいる区画がある。俺はあまり詳しくないから判別が付かないが……たぶん稼働中だな」
『なるほど。ではイナカイニはきちんとそこに居ると考えてよさそうですね』
ヴィリジアニラが俺の言葉に納得するように頷く。
さて、他にも何か報告できるようなことがないかと探るわけだが……うーん、特には見当たらないな。
中身のないパワードスーツぐらいは見つかったが、それぐらいだ。
と言うか、全体的に人が生きている感じがしないんだよな、この施設。
人造人間たちもエネルギー消費が大幅に抑えられる待機状態で各地に置かれているし、掃除も最低限と言う感じで、人気や生活感がない。
「で、これからどうするんだ? この施設を更地にするだけなら、俺単独でも出来なくはないが」
『相手が宇宙怪獣モドキならそれでもいいですけれど、今回は異端とは言え機械知性が相手ですから、対機械知性用の手順を踏んで捕縛を狙います』
「まあ、そうだよな」
機械知性の捕縛や討伐は厄介だ。
通常の機械知性はそもそも犯罪を犯さないし、自分のコピーを作ったりも出来ない、別の体に乗り換える事も容易ではないらしいが、これはグランドマザーやマザーからの教えによって、そうなっているらしい。
そのため、今回のような異端の機械知性ならば、それらの事を容易くやってくることは想像に難くなく、それらを抑えつつ事を進めなければ、捕縛も討伐も出来ない事になる。
だから、厄介なのだ。
場合によっては宇宙怪獣を相手にするよりもはるかに。
『そう言うわけですので。サタ、人形をそこから動かさないでください』
「ああはい。まあ、そう言うのを持ち出すよな」
そんなわけで、まず第一波として天から光が降り注いだ。
より正確に言えば、ブレード状の特殊なブラスターが照射されて、施設周囲の地面を丸を描くように抉った。
抉られた深さは……100メートルは完全に超えているな。
つまり、地下を通じて通信ケーブルの類があったとしても、今ので寸断されたとみていい。
なお、そんな事をすれば当然のように大量の熱と土砂が周囲にまき散らされ、普通の生物はとてもではないが生きられない環境になるのだが……俺には関係のない事だな。
『続けて電脳側からの押し込みをかけると同時に電波方向の制限を行います』
「無線通信の封鎖って事か」
第二波として、この辺り一帯に特殊なmodが展開される。
modの内容は、範囲内での電波による無線通信の通信先を固定する事。
また、俺のような特殊事例を除いて、modを利用した通信が封じられている。
今回の固定先は……帝国軍の専用船だろうな。
たぶんだが、そちらの電脳空間では、迂闊にも異端の機械知性が踏み込んできた時にフルパワーでボッコボコに出来るよう、メモクシたち機械知性たちが万全の態勢で待っている事だろう。
よって、これで普通の通信手段では、異端の機械知性はこの施設から出られない事になったわけだ。
であれば、異端の機械知性はどうするだろうか?
『それではサタ。仕事の時間です。サタの前にある穴から出て来たものを片っ端から粉砕してください』
「分かった。施設の方はどうする?」
『これから帝国軍の突入部隊が踏み込みますので、手を出さないでください。何処に重要な証拠があるのかが、まだ分かりませんから』
「了解」
何かしらの記憶媒体にその身を潜ませて脱出するしかないだろう。
そんな俺の考えが正しいように、施設の中では人造人間たちが次々に起動状態へと移っているようだった。