137:強奪する怪獣
「サタ。ニリアニテック子爵の本邸の様子はどうですか?」
「子爵の死が伝わったのか、混乱が起き始めているな。家にいた家族を起こしたり、使用人を集めたり色々だ」
『セクシーミアズマ』の船内に戻ってきたところで、俺たちは本格的に行動を開始する。
メモクシは異端の機械知性を電脳側から追い込むためなのか、『セクシーミアズマ』と接続し、機械人形の体を動かすのを完全に止めて、何かをしているようだ。
ジョハリスも諜報部隊から入ってくる情報の一部を処理すると共に、緊急時には『セクシーミアズマ』を直ぐに発進出来るように準備を整えている。
そしてヴィリジアニラは……ジョハリスの数倍の情報を処理しつつ、何かを……恐らくは異端の機械知性の居場所に繋がるような情報を探している。
おまけにその傍らで俺に指示を出しているのだから驚きだ。
いや、それだけ事態が切迫していると考える方が適当でもあるか。
「サタ。この部屋に本体を向かわせてください。そして、部屋の中に入ってくるものが居たら拘束を」
「? まあ、やるが」
ヴィリジアニラの指示で示されたのは……執務室の類か?
ニリアニテック子爵家はSwに関わっている家だからか、外に出なくても必要な仕事を出来るように本邸の中にも執務室があるようだ。
と言うか、当たり前のように本邸の設計図とか言う出て来てはいけない資料が出て来ているな……。
「入って来たな。行ってくる」
「お願いします。この後の指示は髪飾りを介してやります」
まあ、それはそれとして仕事だ。
俺は『セクシーミアズマ』の船内に居た人形の座標を書き換えて、ニリアニテック子爵家本邸の執務室へと転移する。
「まさか、ご主人様が亡くなられるとは……急いで例の資料をしょ……キュッ!?」
より正確に言えば、執務室に入って来た執事の背後に、執事の首を絞めるような形で、転移を行った。
シールドmodも首絞めには効果が薄い。
転移と言う一般人にとっては想像の埒外にある技術に対処できる人間はそう居るものではない。
首絞めによる捕縛も戦闘を行う人造人間にとっては基礎技術のようなものなので、問題なく出来た。
と言うわけで、問題なく制圧だ。
『制圧できましたか? 出来たなら部屋の中の探索を。部屋のどこかに表には出せない資料を集めている場所があるはずです』
「分かった。少し待ってくれ……」
俺は部屋の中を探索する。
流石は貴族と言うべきか、紙の資料や書籍の類も少なくはない。
これらの物理的情報媒体はネットワークからの干渉を受けないと言う点で非常に有用なんだよな。
特にこうやって直接赴かないと回収できないと言う点が強いし、厄介だ。
「と、あったな。金庫だ」
で、そんな事を思いつつも探ること暫く。
本棚の後ろ、壁に埋め込まれるように作られた金庫を発見した。
『開けられますか?』
「中身に用事があるなら開ける必要なんてないな」
『それはどういう……なるほど。流石はサタですね』
金庫には正しい手順で金庫を開けずに中身を取り出そうとすると、中身を焼却するmodが仕掛けられていた。
また、金庫の壁や扉を壊したりしても駄目なように、似た仕掛けの物理的機構が仕込まれている。
うーん、これもまた流石は子爵と言うべきか。
とは言え、電脳的仕掛けでないのなら、俺ならどうにでも出来る。
俺はmod無効化の墨によって、金庫のmodを破壊。
そして、金庫の中に転移用のゲートを作ると共に、重力方向を変えるmodによって、中身をゲートの中へと落として、『セクシーミアズマ』にまで送る。
これで指定されたエリアの外に出したら情報が消える、なんて設定になっている情報端末が相手でもなければ大丈夫だろうし、そう言うものが相手でもメモクシなら何とかして見せるはずだ。
「どうだ?」
『問題ありません。万が一を恐れたのか、全て物理資料です。内容は……これは迂闊に表へ出すわけにはいきませんね。少々影響力が強すぎます』
なるほど、家の人間が真っ先に消しに来るだけあって、相応にヤバい内容だったらしい。
まあ、俺が調べているSwの更新履歴と、ドーピング関係の犯罪の歴史を眺めた限り、だいぶ昔から『黒の根』とズブズブの関係だった疑惑があるからなぁ……ニリアニテック子爵家。
てか、アレの報告、何時やろう。
此処まで来たらもう必要ない気もするんだが……うーん。
『サタ。サタが気絶させた人間に発信機の類を埋め込むことは出来ますか?』
「流石に無理。俺の一部ってことは生体組織だからな。バレないように体へと埋め込んだら、拒絶反応を起こして死ぬだけだ。で、体以外に埋め込めるような技術はないし、すり替えられるような品も見当たらない」
『そうですか……では、その人物については、信用できるかは怪しいですが、中に居る諜報部隊に任せましょうか。サタは一度こちらへ戻って来てください。それから直ぐに次の場所へ飛んでもらいます』
「分かった」
と、次の場所への転移か。
たぶんニリアニテック子爵の資料から、何か見つけたんだろうな。
と言うわけで、俺は『セクシーミアズマ』の船内へと転移。
帰りはヴィリジアニラの俺製髪飾りの座標を参考にすればいいので、とても楽だ。
「それで次は何処へ?」
「このポイントです。恐らくですが、此処に異端の機械知性……本人曰くイナカイニが居ます」
で、戻ってきたらすぐに次の場所へ飛ぶわけだが。
ヴィリジアニラが示した場所は、惑星ニリアニポッツ1の僻地。
何かしらの自然環境を利用したスポーツの為に敢えて手を付けない事を決めた地域であり、上空から見る分には森による緑の絨毯に覆われているようにしか見えない場所だった。