133:パチパチホットドッグ
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さて、次のゲームが始まった。
またアマチュア同士の戦いだが、先ほどと違ってコスプレ集団と言うかネタ集団は居ない。
50人対50人の対抗戦だからかもな。
「密林の中。こんな地形も作れるんすね。自在変形式演習場と言うのは」
「植物の見た目を模すだけならば問題ない。と言う事でしょうね」
地形はジョハリスの言う通りに密林。
無数の木々によって視界も射線も遮られ、敵を探し出すのも一苦労な地形だ。
ちなみに客席から見る分には木々の高さに差は殆ど無いが、地面の方まで見ると高低差が結構ある。
具体的に言えば5メートルくらいの崖が普通に作られていたりするので……これは前線で戦う面々の技量だけでなく、指揮官や索敵を行う面々の技量も試されそうだ。
「しかし、木々の高さが揃っているのは……誰かが刈り揃えたとか、そういう設定なのか?」
「いえ、帝国のどこかに森林限界を極端に低くするSwを設定した星系があったはずなので、恐らくはその星系の環境をモチーフにしたのだと思います」
「なんでそんなSwに……」
「さあ? 私も小耳に挟んだ程度ですので」
なお、この対抗戦だが、致命傷を受けた判定になったメンバーは自陣にまで戻った後に一定時間が経過する事で復活する事が出来るルールになっている。
ならば勝敗の決定条件はとなるが……確か、一時間の試合中に相手を倒した数が多い方が勝ちだったかな。
「不思議なSwを設置する……いや、地元以外のSwは大抵そういう風に見てしまうものか」
「そうですね。そう言うものだと思います。理由を探れば、しっかりとしている事が大半ですけどね」
まあそれはそれとしてだ。
前のゲーム終了から今のゲーム開始までの間に、俺は本日の昼食を買ってきている。
購入元はこの演習場に併設された売店。
メニューは飲み物にサンドイッチ、またはホットドッグ。
ヴィリジアニラとジョハリスに渡す分のは普通の品物だが……俺に関しては、自分が食べるという事で少し変わった物を買ってきている。
「サタ。それは?」
「この演習場名物のパチパチホットドッグと言うらしい」
「パチパチホットドッグっすか」
見た目は……普通のホットドッグだな。
シンプルなパンに切れ込みを入れ、そこに刻んだキャベツと特製のソーセージを挟み込み、ケチャップとマスタードをかけた、本当に普通なものだ。
となれば、変わっているのは中身だろう。
と言うわけで、一口食べてみる。
「ん? んー! これは……面白いな」
まず感じたのはソーセージの旨味、ケチャップとマスタードの香りと味、キャベツの香り、パンの感触と言った極々普通のものだ。
変わったのは、口の中でソーセージを咀嚼した瞬間。
元々スパイス多めに作られたソーセージであるのだろうが、スパイスの刺激に合わせるように口の中でパチパチと物理的に弾ける感覚がする。
これは……炭酸ガスだな。
飴の中に炭酸ガスを封じ込めて、パチパチとした刺激を楽しむ駄菓子があったはずだが、それをmodも活用してソーセージの中に入れたようだ。
「面白い、ですか」
「美味しい、じゃないんっすか?」
「いや、これは美味しいじゃなくて面白いだな。味そのものは普通のホットドッグの範疇から出てないし」
口の中でパチパチと物理的な刺激があるのは面白いな。
炭酸の風味と衝撃で、他の香りが引き立てられているのか、味も悪くはない。
ただ、印象としてはやはり面白いになってしまうかな。
なお、不味いと言う感想はまるで出てこないので、これはこれでありだと思う。
「つまり、観光地あるあるな、ちょっと変わった食べ物止まりという事ですか?」
「そうなるな。でも、普通の物との比較を出来るようにすると言う意味でも、これくらいでちょうどいいんじゃないか?」
「変わりすぎた食べ物は、極端になりがちっすからねぇ……」
うん、何処かに観光で出かけた思い出として食べるにはちょうどいいくらいではなかろうか。
この演習場どころか、ニリアニポッツ星系以外の星系でも食べられそうな気はするけれど。
「そう言えば、ニリアニポッツ星系だと、この星系でしかと言う食べ物はあまりないみたいだな」
「そうですね。ですが、スポーツの聖地として観光とスポーツを主要な産業にしているのがニリアニポッツ星系ですから、それで良いのだと思います」
せっかくなので少し調べてみる。
ニリアニポッツ星系でないと食べられない、味わえない食べ物と言うと……一番有名なのは、やはり超高輝度シャイニングコーヒー。
やっぱりどこかで飲みたいな。
他は……カフェイン投与で雑に光らせているものが多いな。
後は、何かしらのスポーツ選手向けなのか、効率よく栄養を吸収できるようにしたものが多く、それらは料理の形ではなく素材の形で売られている事が多いみたいだな。
もう食べたところだと、プロテインブロイラーとかがそうか。
「ところでサタ。今晩の食事は何か考えていますか?」
「ん? んー……茹でた肉に刻んだ野菜に……素麺とかいいかもな」
「なるほど。それは楽しみですね。となれば、この後の本命をしっかりと見る必要がありますね」
「本命?」
「本命っすか?」
「ええ、もうじき来ると思います」
どうやら何かが来るらしい。
ヴィリジアニラの目は眼下で行われているサバイバルゲームではなく、別のどこかへと向けられていた。
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