132:エンジョイサバイバルゲーム
ーーーーーーーーーー!!
ブザー音が鳴り響くと共に、アマチュア小隊20組によるサバイバルゲームが始まる。
とは言え、開始直後数秒で接敵する事が無いようにするために初期位置をバラけさせているので、暫くは静かなもの……。
「「「ヒャッハー!」」」
「正にアマチュアですね」
「ええ、アマチュアだからこそですね」
「プロであれはやりたくも出来ないっすからねぇ」
「いや、あそこまで行くとアマチュアと言うよりエンジョイ勢のが正しいんじゃないか? と言うか、そう言うコスプレの類だろ、あれは」
とはいかなかった。
わざと爆音を立てながら、演習用火炎放射器……炎を模した形のダメージ判定を噴出する武器で豪快に周囲を焼き払いつつ索敵している小隊が居る。
その小隊はメンバー全員が髪の毛をモヒカンで統一し、棘付きの肩パッドを着用しており、身を隠すとか、戦闘を有利に運ぶとか、そんな事は一切考えていないようだ。
なんと言うか、自分がやりたいことをやっている感が凄い。
「えーと、ルールブック、ルールブック」
「今更っすか?」
「いや、アレはセーフなのかと思ってな」
「セーフですよ。武器はきちんと演習用のそれですし、ルールに服装の規定はほぼありませんから」
「そうですね。ヴィー様の言う通り、彼らの行動はルール上問題ありません。マナー的にも問題はないでしょう。メモが見た限り、近接戦闘用ブレードを持った四人で固めているチェスト小隊も居るようですし」
「うわ本当だ……よく見たらドクロフェイスの小隊とかも居る」
「ウチも見覚えがあるアニメのキャラたちで固めた小隊とかも居るっすね」
そして、そんな小隊が複数組居るらしい。
うーん、この緩さが許されるのは、アマチュアのゲームかつそう言うのも有りと宣言されているからこそだな。
ちなみに、ルールブックを確認したところ、本当に服装規定はなかった。
チームは四人一組である事や、武器もシールドも演習用のものを用いる事や、死亡判定を受けたら近くの戦闘が収まり次第退場するようにとか、サバイバルゲームをゲームとして成立させるためのルールやマナーは色々と記されていたが、服装規定に関しては全くなかった。
まあ、派手な服装が有利になる事は少ないし、服も体の一部として扱われるので、そういう服は当たり判定がその分だけ大きくもなって不利になる。
加えて、アマチュア部門でも真剣に戦いたい人間用のゲームがこの後に控えているようなので……うん、やっぱりどこも問題は無いんだろうな。
「「「ーーーーー!?」」」
「……。普通に上手いんだが?」
「……。もしかしなくても、ネタに極振りしても大丈夫だから、そういう格好をしてるんすかね?」
「そう言う事だと思います。不甲斐ない動きでネタ元を穢すわけにはいかないとか、そういう思考だと思います」
「これはメモの私見ですが、コスプレしているだけで本職も混ざっているのかもしれませんね」
なお、コスプレ連中は普通に強かった。
いやまあ、四方八方からブラスターを撃ち込まれたり、奇襲からしこたま撃ち込まれれば、普通にシールドを破られて、死亡判定も受けるのだけど、正面からの戦闘だと案外持ちこたえると言うか、普通に返り討ちにしている場面もあるな。
基本的な立ち回りが何と言うか……上手い。
「しかし、やっぱりと言うか機械知性とスライムは居ないな」
「それは当然かと。ニリアニポッツ星系の機械知性はサポートに専念する事に生き甲斐を見出している個体が大半ですから」
「スライムが居ないのも当然っすね。こういう舞台でスライムは強すぎるっす」
「強力過ぎる身体強化mod持ち、超能力者、規格外の強化を施したサイボーグにアディションも居ませんね。ゲームの公平性が失われるので、仕方がない事ですが」
俺の呟きにメモクシたちが反応する。
舞台上に居る人間の人種はヒューマンだけでなく、ゴブリンやオーガ、ウェアビーストと言った他の人種も含まれている。
だが、俺たちの言葉通り、機械知性やスライム、ヒューマンであっても普通の人間の枠を超えた強化を施された人間は居ない。
勿論、宇宙怪獣もだ。
しかし、これは仕方が無い事である。
「スライムが居たら、ほんの少しの隙間でも潜り込んで、色々と出来ちゃうっすからねぇ。壁や天井への張り付きも出来て当然っすし」
「メモのような機械知性ならば、他の人種とは比べ物にならない精度で周囲の情報を精査したり、狙撃も出来ます。カメラへのハッキングも容易でしょう。実戦ならともかく、演習では勝負が成立しません」
「規格外に強化された人間も同様ですね。数で押すことすら出来ませんから、ゲームが破綻してしまいます」
「まあそうだよな。俺のこの人形だって、その気になればアマチュア80人くらいはどうとでも出来るだろうし」
スポーツと言うものは元より土台を完全に均して行うものではないのだが、それを踏まえてもなお、限度と言うものがあり、今述べた面々は正にその限度を超えた範囲に居る人間。
その手の規格外が混じってしまうと、勝負が成立しなくなってしまう。
であれば、大多数の健全な楽しみの為に規格外を弾くのはやむを得ない処置と言うものだろう。
別に規格外の参加も許した、何でもあり部門もあるようだしな。
「と言うか、よく考えてみれば、この部屋に居るのは全員規格外判定を食らう人間か(宇宙怪獣)」
「そうっすよ。今更っすね(スライム)」
「メモたちに参加する気はないので問題はないかと(機械知性)」
「そうですね。だからこそ、観戦して楽しみましょう(規格外の強化mod持ち)」
あ、ヒャッハー小隊とチェスト小隊がぶつかって……遠くにいた上半身裸のオーガが投げた演習用グレネードでまとめて爆殺されてゲーム終了になった。
うーん、見事なダブルバイセップスによる決めポーズ。
アレは種族特徴以上によく鍛えてますね。
ナイスバルク!